-殻-
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社内研修のプレゼンで、実にくだらないテーマが設定されていた。
大体、こんな慌しい時期にわざわざ本社に呼びつけて、 こんなことをやらせること自体どうかしている。 まあ、仕事をしているフリをして満足している輩が多いということだろう。 プレゼンのテーマは、昨年度の成果報告と反省、そして将来について。 「誰のようになりたい、という希望があれば具体的に書いてください」 何を言っているのやら。 自分は誰なのか。 何を目指すのか。 なにものになりたいのか。 そんなものは他人に語ることではない。 少なくとも僕はそう思う。 発表当日、他の発表者(同期だが)のプレゼンを聞いていると、 非常に「優等生」的によくまとまっている。 こういうお遊びをいかにうまくこなすかで、上の評価が決まるのだろう。 そういう僕は、意外にもこの類のプレゼンが得意だったりする。 「得意」というのは、優等生的であるというのとは違う。 要するにお偉いさんの前で発表する訳だから、 何かの形で彼らの印象に残ればいいのだ。 その目的において、僕はプレゼンが得意なのだ。 何よりも印象に残るのは、その話し方。 スライド画面の方に体が向いていたら、その時点で負けだ。 身体はまっすぐ聴衆の方に向ける。 スライドをポインターで指すときだけ、身体をねじる。 そしてすぐ向き直る。 はっきり言って、スライドは聴衆が目をやる逃げ場所として必要なだけで、 話の流れがおおまかにわかればいい。 基本は話す言葉にある。 そして、自信を持つ。 僕は僕の言葉しか話せないのだし、 僕のことを話せというのだからそうするだけだ。 僕は原稿を書かない。 書くと、その通りに話さなければならないから焦る。 ちょっとでも忘れたら、「しまった」と顔に出る。 これも、その時点で負けだ。 話し言葉でいいのだ。もちろん時と場所を選ぶが。 何より、他人と違うことを話すこと。 みんな非常によくできた原稿をきれいに棒読みしてくれるので、 僕は僕の言葉で僕のことを語るだけで、みんなと違う話ができる。 そんな簡単なことに、みんな気付いていない。 (あるいは上司がチェックして直してしまうのかも・・・) 課題の「なにものになりたいか」については、 敢えて僕は誰かの名を挙げることはしなかった。 そもそもなりたい誰かなんていない。 僕は僕にしかなれない。 「どういう僕になりたいか」という質問なら、答えただろうが。 そのあたり、課題を設定する側のセンスも問われている。 僕から見れば今回は残念ながら失格だ。 「私はどの道を行くべきか、迷っています。」 「そしてそれは、自分の中で常に考え続けていくべきことです。」 僕は正直にそう言った。 設定された課題に敢えて答えないことで、 この無意味なプレゼン企画にささやかに反抗してみたのだ。 そして、僕の意図が伝わったのかどうかはわからないが、 「良いプレゼンをした5人」にはちゃんと選ばれた。 あちらの見る目があるのかないのかは別として、僕は目的を果たした。 INDEX| PAST| NEXT | NEWEST |