-殻-
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強烈な目覚ましの音にも、君はすっかり慣れてしまっている。
僕は心臓が飛び出るくらい驚くのに、君はぴくりともしない。 僕が止めてしまったら、君はこのまま眠り続けてしまうよね。 そう思ってしばし轟音に耐えていると、 君はもそもそっと動いて目覚まし時計をばしんっと叩く。 そして、 「ゆめみたよぉ」 という。 「どんな夢見たの?」と聞くと、 「あのね、あのね、Hくんのけっこんしきだったの」 と、目も開かずにもったりとした口調で言う。 大学の同級生が結婚する夢を見ていたようだ。 「それでね、それで・・・」 あれ、と思うと、もう君は寝息を立てている。 やれやれ、寝ぼけてるのか起きてるのか。 僕の胸に擦り寄って眠ってしまった君の髪を撫でて、 僕はしばらくの間目を閉じている。 そのうち、また目覚ましが鳴る。 ものすごい音なのだが、例によって君はなかなか目覚めない。 しばらくして、君の手がひゅっと伸びてスイッチを叩く。 「・・・それでね、あたしは会場にいて、しんくんもいて」 それだけ言うと、また君は黙ってしまった。 おや、と思ったらやっぱり君はもう眠っている。 こりゃ面白い。 そんなことをしばらく繰り返して、僕は途切れ途切れの夢の話を聞いた。 結局、5分おきに鳴るアラームを7回止めて、ようやく彼女は起き上がった。 一緒にシャワーを浴びて、 君は一足先に上がって髪を乾かし、化粧をする。 僕はさっさと身支度をして、君の部屋を出る。 「じゃあね、いってきます。」 「いってらっしゃい。」 それだけの朝。 それだけの日々。 それだけでいいし、 それだけのもの。 君の寝顔の向こう側にある、 安心を僕は感じるんだ。 君に与える安らぎは、 僕にもきっと戻ってくる。 INDEX| PAST| NEXT | NEWEST |