-殻-

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2003年05月05日(月) 甘い日々

どうしようもないくらい長閑な春の日。

君の部屋で、遅い朝を迎える。

ほとんど昼食のような朝食を済ませて、
昨日から水を汲み置きしておいた新しい水槽に、
君は熱帯魚を移す。

ふふん、と嬉しそうに君は微笑む。

急に環境が変わった熱帯魚は、
ちょっと落ち着かない様子で泳ぎ回っている。

何も予定のない日。

「今日は読書の日ね。」

僕等は布団に寝転がって、それぞれに本を読む。

窓は開け放して、
春の風がゆるりゆるりと吹き抜けるにまかせる。


僕は、気付かないうちに居眠りしていたみたいだ。
いつの間にか君は、文庫を一冊読み終えようとしていた。

時計にふと目をやると、4時を回っていた。

「よく寝てたねぇ。」
君は甘ったるい声で言う。

「うん。」
僕は答えて、大きな伸びを一つ。

本の続きを読む。
二人ほとんど同時に読み終わる。

傾きかけた陽の中で、
しばらく本の感想を話し合う。

「夕ごはんは?」
「何か食べたいものある?」

君は湯豆腐が食べたいと言い、
僕の車でスーパーへ買い物に行く。

二人で買い物をするのにも、だいぶ慣れてきた。
最初は君がずいぶん嫌がってたけど。

今日は僕が夕食の支度をする。
前菜にローストビーフを食べて、少しだけビールを飲む。

小さめの土鍋に昆布を敷いて、
豆腐を弱火でゆっくり温める。
たっぷりのネギとショウガ、それと鰹節で食べる。

「この季節に敢えて湯豆腐ってのがいいんだよねー。」
君は珍しく、とても嬉しそうに、おいしい、おいしいと繰り返す。

そんな君は、まるで子どもみたいだ。

つまらないテレビを見ながら、ゆっくりと夕食は進む。
随分と長い時間をかけて、僕等は豆腐を食べ切った。

僕は食後に、ビールをもう一本開ける。
君はもうお腹がいっぱいで、そのまま布団に横になる。

食器を片付け終わると、もう10時を過ぎていた。
今日で長い休みは終わる。
「今夜は早く寝ようか。」
「そうだね。」

灯りを消しても、君はなかなか寝付けないようで、
いつものように「お話」をねだる。
とりとめもなく話しているうちに、僕等は寝入ってしまったようだ。


緩やかに、緩やかに、季節はその色を移しながら、
僕等の甘い時間は流れていく。

ほんの少しの息苦しさは、
きっと梅雨の近付いた、湿った空気のせいだ。

きっと、そうなんだ。



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