-殻-
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君が泣いた理由を考えている。
たった一回、週末を一緒に過ごさなかったことが、 君をそんなに悲しませたとは思えないんだ。 君の涙の訳は、もっともっと深いところにある。 心の底では、君はとても繊細で淋しがり屋なのに、 そういう感情を認められない頑固な君は、 素直に感じる心を否定してしまっている。 捨てられた子猫が抱きしめられた時のように、 二週間ぶりの君の顔は高揚していて、 いつになくおしゃべりになった君は、 ひとしきり言葉を吐き出すと急に黙ってしまった。 君は眠れない夜に、僕に「お話」をねだる。 沈黙を恐れる君は、言葉を欲しがる。 何を話して欲しいわけでもなく、ただ「言葉」が欲しいのだ。 沈黙の中に、君はきっと「断絶」を見るのだろう。 素直に甘えられたなら、そんな苦労を背負うこともなかっただろうに。 僕は、自分の過去を語ってみせる。 昼間見たDVD(「いまを生きる」を一緒に見た)の話から、 この話のテーマが「スタンド・バイ・ミー」に似ていると僕が言えば、 男というジェンダーの「英雄体験」について君が語る。 女というジェンダーは「呪い」をかけられていて、 その呪いは「知恵と勇気」を持った男によってしか解かれないこと。 「知恵と勇気」というのは、「冒険」する男が持つのだそうだ。 男という存在は、冒険することで英雄体験を持ち、 そこで得る自信によって「呪い」を解くことができるのだそうだ。 確かに、女性というジェンダーが抱えるものはとてつもなく大きく、 それは簡単に解決できるような類のものではない。 僕がそれを解いてあげられるほどのものを持っているかどうかはわからない。 それでも、僕はただ目の前にいる君に、君がここにいる事実が、 僕にとってどれだけリアルな現実であるかをわかって欲しい。 だから僕は、君が何も言わずに僕の胸で泣いたときも、 気にせずに語り続けた。 僕は僕としてここにいて、 君もただこういう風にここにいればいいんだ、と、 君に感じてほしかった。 君の涙の理由は、僕には軽々しく語ることはできないし、 理解することもできないだろう。 それでも、君が少しでも言葉にしてくれるなら、 僕は一歩ずつ、そこに近づいていけるんだ。 INDEX| PAST| NEXT | NEWEST |