-殻-

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2003年02月20日(木) 向い風のトラウマ

今日は風の強い日だった。
仕事を終えて、向い風の中を帰ってきた。

僕は、風というものが苦手だ。
髪型が乱れるからとか、寒いからとか、そういう理由じゃない。
精神的に辛いのだ。

向い風が正面から顔に当たると、僕は息ができなくなってしまう。
空気が吸えないのだ。

強い風の中では、僕は呼吸をするのに必死だ。
意識して、一生懸命努力しなければ空気が肺に入ってこない。
それと同時に、言いようのない恐怖感に苛まれ、
思わず目を閉じて倒れてしまいそうになる。



ずっと昔、僕がまだ小学生の低学年だった頃だ。
僕の住んでいた街に台風が来た。

北海道には、台風が台風のままで上陸することは稀だ。
だいたいは温帯低気圧に変わって、勢力が弱まっている。
しかしその時の台風はとても強く、弱まる間もなく北の地までやってきた。

朝、父の車で小学校へ向かったが、
父は急いでいたのか、あるいは単なる気紛れなのかわからないが、
途中で僕を降ろして、
「ここからは歩いていけよ。」
と言った。

その頃の僕にとって、父というのはあまりにも絶対的な存在だった。
逆らったり、文句を言ったりすることなど考えられなかった。
仕方なく僕は、荒れ狂う強風の中、歩いて小学校へ向かった。

それは小さな僕には想像を絶する恐怖だったのだろう。
今でも、歩道橋の上から飛ばされそうになった時の光景、
あの時の感覚をよく覚えている。


その恐怖が、顔に風が当たった瞬間に甦る。
そして、恐怖だけではなく、置き去りにされた淋しさと悔しさ、
どうしようもない憤りのようなものがぎゅうっと脳を締め付けるのだ。

ほんの一瞬なのだが、
強い風にあおられたその刹那、僕の意識は停止する。



幼少の頃の、親の些細な言動はとてつもない傷を残すことがある。
子どもにとって、親というのは絶対的な「世界」なのだ。
自己の存在する世界に否定されたような感覚を味わうと、
記憶の根底にこびりついてしまう。

否定してはいけない。
僕は身を持って痛感する。





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