-殻-

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2003年02月13日(木) 大人とか子供とか

「しんってさ、すごいコドモじゃん。
 仕事に夢とか持っちゃダメだよ。
 そんなに真面目になっちゃってさ。」


この間、同期数人で飲んでいたときに、
同い年のマツダが僕にこう言った。

僕は一瞬、何を言っているのかわからなかった。
とにかく、ムッときたのは確かだ。

何がムッときたって、
この言葉を発したときのマツダの顔が、
とてもコドモっぽいサディズムに満ちていたからだ。

少なくとも、一緒に入社したときにはこんな嫌味な奴じゃなかった。


マツダは、僕と同じで博士号を持ち、
一年間博士研究員をしていたところも同じだ。
違うといえば、僕はアメリカに渡り、
マツダは自分の出身研究室に残ったということ。
それから、僕はH大で、彼はK大ということ。

同じ国立大学とはいえ、内情は違う。
偏差値で言えば、K大は理系では日本一と言っていい。
H大は、旧帝大といわれる括りの中では一番下だ。
彼にはそのプライドがあるのだろう。

僕がいわゆる「研究所」と呼ばれるところにいて、
彼はほとんど「製造現場」に近いところに配属されたのも、
彼のそういう変化の要因になっていると思う。

僕の勤める会社は、化学系メーカーというやつで、
基礎研究からプラント製造、顧客対応まで何でもある会社だ。
「エリート」的なキャリアを積んできたニンゲンには、
研究所に配属されることがステータスでもある。

実際には、何もかもを自社で賄うこの会社には、
どの部門も必要不可欠で、上も下もない。
しかし、現場に配属された人間は口々に研究所を批判する。

確かに、基礎研究というものは当たり外れも多く、
全てが製品につながる訳ではない。
それに、ビジネスであるべきの企業研究に、
大学と同じような趣味性の高いサイエンスを持ち込んで
自己満足に浸っている研究員がいることも事実だ。

その態度が、現場でモノを作っている立場からしてみれば
我慢ならないのだそうだ。

それは真摯に受け止めよう。
もちろん、企業としての研究のあり方というものを、
僕は日々考え、意識し、「役に立つ」ための仕事をしようとしている。

しかし、高々入社して一年も経っていない僕等が、
何かわかったような気になってお互いを批判しあうのは、
ちょっと違うのではないのか。

研究所と現場の確執は事実としてあり、
だがそれは僕等ではなく、長いこの会社の歴史の中で生まれたものだ。
それなりの理由があり、経緯がある。
僕等の知らない、深い事情があるのだ。


僕等はまだ、偉そうにそれを語るほどに仕事はできない。
なのに、たまたま現場に配属されたマツダは、
たまたま研究所に配属された僕を、目の敵にする。
結局は自分の境遇に納得できずに、周りが口にする愚痴に感化されたに過ぎない。

その果てに出てきたのが、冒頭の言葉だ。

変えようと足掻き、長く努力を重ねて、それでも叶わず、
なお求めて止まない人間に言われるのなら納得もいく。
誰でも、他人を攻撃することでしか癒されない傷を持っているものだ。

しかし、現実に埋没して日々の暮らしに追われ、
不平不満を垂れ流すしかしなくなった輩に言われる筋合いはない。


僕は、仕事に「夢」なんか持っちゃいない。
ただ、自分が納得できる生き方をしたいだけだ。
自分が目指していたものに恥ずかしくないように生きたいだけだ。
仕事と夢を安易に結びつけるのは、自己が確立していないことの隠れ蓑だ。

現実がそんなに生易しいものなら、不幸な人間など存在しない。
夢を仕事にして、幸せだと笑っていられるのは、
そのためにあらゆる苦労を厭わない者の特権なのだ。


仕事は仕事で、夢は夢。
その二つは、「生きる糧」であることに共通項を持つが、
決してイコールではない。

僕は、夢は夢として暖めながら、
現実の仕事の中に少しでも自分の存在意義を「構築」するために、
(「見出す」のではない。自分で「作る」のだ)
納得できなければ今の職場を捨てることも惜しまないだろう。

それは、「コドモ」なのか?
諦めて、拗ねて、誰かを皮肉ることでしかストレスを解消できない人間は「オトナ」なのか?

現実の前に立ち竦むことが大人になることだと、
どうにも勘違いしているアダルト・チルドレンが本当に多い。

「仕事は仕事なんだから、クールにやらなきゃ。」
「そうそう、適当でいいんだよ、仕事なんだから。」
「かっこつけちゃってさ、しんくんったら。」

一緒に飲んでいたみんなが、それに同調して口々に言う。


僕にはわかったフリはできない。
自分が本当に理解しないと、自信を持てない。
だから求める。


それが「コドモ」と言われるのなら、それでいいよ。
ただ、君たちは駄々を捏ねる赤ん坊か、それ未満であることを知った方がいい。

赤ん坊でも、欲しいものがあれば泣き声を上げるよ。
だって、君たちはそれすらできないんだろう?


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