-殻-
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胸の奥から、どうしようもなくこみ上げてくる言葉がある。
なのに、それを具現化した途端に意味がなくなるのを僕は知っている。 そして、君もそれを知っている以上、 満たされないままで行き場を失ったその言葉は、 胸の奥底に少しずつ沈殿して、 腐り果てていくのだ。 そのすえた臭いが、この部屋には満ちている。 僕らは必死で汗を流し、臭いを消そうとするけど、 僕の汗までもが、いや、体液という体液すべてが、 同じ臭いなんだ。 せめてもの慰みに、僕は君の中に残滓を放つ。 君は知らずにそれを飲み込む。 僕は、自虐的な笑みを左の頬だけに浮かべて、君を見つめる。 君は僕の欲望を吸い尽くそうとしているみたいだけど、 残念ながらそいつはただの搾りカスなんだ。 本当に君が欲しいものは、ほら、この胸の中にある。 君がそれを望むなら、 そう、 君のそのナイフを手に取ればいい。 そして、僕に突き立てるといい。 深く、 深く、 抉って探してみるといいよ。 INDEX| PAST| NEXT | NEWEST |