-殻-

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2002年07月17日(水) 一枚の絵のように

シャワーを浴びた君は、寝転がって本を読んでいる僕の横に、
鏡に向かってふわりと座った。

何を読んでるの?と、君は肩越しに僕の方に振り向いた。
タオルを濡れた髪に巻いた君は、一枚の絵のようだった。

あ、

フェルメールみたいだね、と僕は言った。
ターバンを巻いた女、みたいだよ。

え、

フェルメールって何?と君は首を傾げて、
ふっと笑みを漏らした。

その瞬間、絵の構図は崩れて、
ただそこには君の姿だけがあった。

君の大きな瞳、
口元のかたち、
輪郭、

すべてが本当にあの絵のように見えていたのに。


いや、

なんでもない。
ただの絵描きだよ。

その人の描いた絵に似てたんだ、と僕は言った。


ふうん、知らないな、と君は呟いて、
髪に巻いたタオルをほどいた。


僕は知っていたんだ。
君があの絵に似てたんじゃなく、
あの絵がたまたま君に似てただけだってこと。


そして、

どんな芸術だって、
今ここにいる君ほどには綺麗じゃない。


だって、君は生きてるんだから。


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しんMAIL

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