友とは何か。愛とは何か。

MAD TIGERの
のも ...
〜〜  ヲ タ ク の 魂 1 0 0 ま で  〜〜


2006年02月11日(土) 2006バレンタイン特別チャンレンジ「典型的なコバノレト文庫的な小説」

【もうキミなんて愛せないッ】


最終話


あたしは学校から帰るなり、
用意していたチョコレートでバレンタインチョコの製作に取り掛かった。
先輩と話せた勢いで、作る手がとまらない。しかも上手にいってるみたい!
CDでaikoをかけて、鼻歌も歌うと、明日への自信が湧いてきていた。
ハート型にチョコを流し込んで、先輩へのメッセージカードも添えて。
「よしっ、できたぁ!」
その時、ケイタイがなった。液晶にはさーくんと書いてある。
「もしもし?」
「あ、みどり?オレですけど!」
「どうしたの?」
「お前の家からすげーいい匂いしてんだけど!」
「あ、本当?今チョコ作ってるんだよ。」
「マジ?ちょうど良かった!俺まだメシ食ってないんだよ!」
「・・・何がちょうどいいんだか・・・。」
あたしは喋りながら、玄関の鍵を開けた。
ドアが開くとさーくんがいて、ピッとケイタイを切ったところだった。
にっこり笑いながら、どかどかと家に上がりこんでくる。
「お前チョコ作ってるってぇ?」
「そうよ。」
あたしはさーくんを追い越して、キッチンに行った。
変にされたら困っちゃうもん。さーくんってば、デリカシーがないんだから!
後からキッチンに入って、さっそくさーくんがチョコに目をつけた。
「あっ、すげぇ、これいいなぁ!」
「だ、だめっ!!!」
先輩へのチョコは、人一倍大きかった。だからさーくんが目をつけたのも仕方が無い。
でもその中には、先輩へのカードも入っているわけで・・・・。
さーくんに見せるわけにはいかないよッッ!
あたしの顔が、焦りと恥ずかしさで真っ赤になってるのが自分でわかる。
さーくんがどんな顔してるのか見るのが怖いよ・・・。
「それ、明日オレにくれるんだろ?」
さーくんは真剣な表情で言ってる。
あたしは、首を振った。
「・・・・ちがうよ。」
「なーんだ」
さーくんは、あっけらかんと笑って、残っていたチョコを勝手に摘んで口に入れた。
「さーくん、ごめんね、あのね、これはね・・・」
「オレ帰るわ。」
あたしの言葉を遮って、さーくんは背を向け、少し歩いてから、振り向いて笑った。
「うん、美味いよ。チョコ。」
あたしの心臓がぎゅってした。


2月14日火曜日。バレンタインデー。晴れ。
あたしは用意していた先輩専用のチョコを大事にカバンに入れた。
家を出ると、家の前にはさーくんが自転車に乗って待っていた。
「おはよう。」
「はよっ」
ぎこちない挨拶をすると、さーくんはあたしの荷物をいつものように持とうとして、躊躇した。
きっと、中に何が入っているのか解っているからだと思う。
さーくんってば、いつの間にそんな気を使う男の子になったんだろう・・・・。
結局荷物はあたしがもったまま、ゆっくりと二人で歩き出した。
さーくんは自転車を押している。空を見上げながら、さーくんが言った。
「今日は、なんかいやな日だなぁ。」
「どうして?」
「嫌な予感がするからだよ。」
「そうかなぁ?あたしは、女の子がワクワクと不安で一杯になる日だと思うよ。」
「女の子はそうだろうけど。」
その言葉に、あたしは笑っちゃった。
さーくんらしいというか。きっと、男の子もワクワクと不安で一杯なんだろうな。
学校の門を過ぎたところで、さーくんが自転車を止めた。
「みどり。」
「ん?」
さーくんの顔を見ると、目を細めてあたしを見てる。
「みどり、がんばれよ。」
「・・・・うん。」
あたしは思わず笑顔になった。
そしてさーくんに「またね」と言おうとした時、人影が通った。
「あのっ、あのっ、佐久間先輩いいですかっ」
「へ?」
1年生の女の子だった。髪の毛をポニーテールにして、快活そうな子。
顔をまっかにして、俯いて、言葉を搾り出している。
――そういうことか。今日はバレンタインだもの。
あたしはさーくんに微笑むと、サッと身を翻した。女の子の決心を邪魔しちゃいけないもんね。
校舎に近づくあたしの背後で、二人は話をしているようだった。
「あのっ、アタシ、佐久間先輩のこと、ずっと・・・・」

ズキンッ

あれっ?あれれ?
おかしいよ。あたしの心臓、なんか痛いよ・・・・。


アタシは足早に教室に駆け込んだ。
はぁっ、はぁっ、はぁっ。
心臓がどくどく言っている。のどがからから。
「みーどーりっ!オッハヨー!」
「きゃぁ!」
またその登場!?
香奈がアタシの肩に手を回して笑っている。
「ちょっと、ちょっと、みどりちゃん、きちんと持ってきたかしら?」
「何を?」
「バレンタインチョコよ!」
早めに投稿していた、クラスメートがこっちを見る。
「か、香奈・・・大きいよ。声。」
「あー、ゴメン!」
あたしはカバンから、バレンタインチョコを取り出した。
「はいっ、香奈!」
「え?」
「バレンタインチョコよ。いつもありがとう!」
「んもぉ〜ッ!もうあたしみどりの事大好きぃ!」
香奈はあたしのほっぺに無理矢理キスをしてくる。もぉっ!香奈ってば、喜びの表現も、声も、大きすぎるよ!
でも、あたしは香奈のおかげで、さっきの出来事も、告白への不安も、忘れることができた。
「香奈、あたしも大好きだよ。」
あたしの言葉に、香奈は目をウルウルさせて喜んでる。
あたしは本当に素敵なお友達に恵まれたって、本当に思った。


放課後、あたしは勝岡先輩を呼び出した。
校庭の隅で、って言って。きっとその方が、先輩は来やすいから。
あたしは、下校の仕度をして、先輩へのチョコが入ったカバンも持って教室を出た。
校庭の隅。そこがあたしの人生を左右するちっぽけな場所。
先輩に言った時間よりちょっと早いけど、あたしは靴を履いて校庭へ出ようとした。
その時だった。
「勝岡くん、ちょっと時間いい?」
「横田さん?どうしたの?」
あたしは咄嗟に下駄箱に身を隠した。
勝岡先輩と同級生の、横田さんだ・・・・。
横田さんは容姿端麗で、新体操部の綺麗どころで大人気の人。
腰まであるサラサラのストレートロングヘアーを風になびかせていた。
勝岡先輩はサッカー部の部室に行く途中だったのか、まだ制服を着ている。
「勝岡くんさ、今日何人からコクられた?」
「君には関係ないよ。」
「あるわよ。」
「・・・・オレ、部活行かないと行けないから。」
「アタシあんたの事好きなんだけど。」
「え?」
「あんたの事チョー好きなの。」
――無言。無音。
あたしは緊張で、体が震えている。
先輩・・・先輩は、何て答えるの??
あたしは、どうしたらいいの??

「ごめん。」
先輩の言葉が空気を揺らした。
少し遅れて、横田さんの苦笑する声が聞こえる。
「は?なんで謝ってんの?」
「いや、だって・・・。」
「それって何?女に興味ないから?それとも好きな子でもいるの?」
「なんだよその質問。」
「答えなさいよ。」
「・・・・好きな子がいるんだよ。」
どきん!!
あたしは逃げ出したくなった。体の震えが止まらない。
でも、ココを動いたら、今あたしがいるのがバレてしまう!
横田さんが、鼻で笑った。
「あー、噂になってるあの子ね。」
「そんな噂聞いたことないね。じゃオレ行くから。」
「その子から、まだチョコももらえてないんじゃない?」
「・・・・。」
「情けないわね、どんな女子からも人気の勝岡史博が、
あの子に男として見られてないんじゃ、どうしようもないわ。」
「横田さん、振られた腹いせにオレの事バカにしてるの?」
「哀れんであげてるのよ。彼女が応援してるのは、
勝岡君じゃなくて、『勝岡君を応援する女の子』だもんね。」

えっ・・・。
それって。

「中等部の中澤香奈みたいな子供程度、
簡単に手に入れられるくらいの男になりなさいよ。」
「うるさいな。君に言われる筋合いはないね。」

ドサッ!!

あたしの手から力が抜けてしまい、荷物をすべて落としてしまった。
続いて全身の力が抜けて、ストンと座り込んでしまう。
もう体が言うこときかない・・・。
「だれ?」
横田さんが回りこんできて、あたしの姿を見るなり、口に手を当てて「しまった」と呟いた。
続いて勝岡先輩が現れる。
「大原さん・・・!」
二人は、あたしがさっきの話を聞いた事に気づいている。
じゃないとあたしがこんな動揺してるハズがないから。
勝岡先輩が慌てて駆け寄ってきて、あたしの顔を覗き込んだ。
「大丈夫?」
「だ・・・・」
大丈夫、じゃない・・・。
だって、だって、こんなに貴方を好きだったのに。
告白しようと思って、一生懸命チョコを作ってきたのに。
カードだって書いたのに。
気合だって入れたのに。
さーくんに、がんばれって言われたのに。
告白する前に、振られちゃうなんて・・・・。
ぼろぼろっ。
あたしの目から、涙がぼろぼろ落ちた。
放心状態で俯いたままで、心臓がバクバクいっている。
「お、大原さん?どこか痛い?」
「心臓が痛い・・・・。」
あたしは言うと、ぎゅう、と拳を握った。
「痛いよ・・・痛いよぉ」
痛すぎて、もう涙が止まらない。

「みどり!!」

駆け寄る足音があって、あたしは強烈な力でぐいっと身体を起こされた。
「みどり、大丈夫か!?痛いって、どこが!?」
「・・・・。」
ぼやけた視界に映るのは、さーくん。
ぼんやりとした姿でも、まぎれもなくさーくんだった。
そしてその言葉も、すべてさーくんらしいものだった。
「ちょっと、みどりに何やったんですかあんたら!」
「な、何にもしてないわよ!」
「君は大原さんのお友達?」
「幼馴染ですけど、あんたは?」
「大原さんとは知り合いだよ。」
「はっはぁ・・・。」
さーくんは言うなり、ジロジロと勝岡先輩を見た。
「あんたが、みどりの・・・」
「さーくん!!」
あたしは声を荒げた。
「いいの。もういいの。」
相変わらず胸はズキズキと痛んでいた。
たくさんのツギハギが必要なくらい痛んでしまった。
「さーくん、もういいの。」
あたしの言葉に、さーくんは溜息をついた。
このままじゃいけない。
先輩だって、横田さんだって、何も悪くないんだもの。
あたしが勝手に泣いて、一番おかしな子だよ。
あたしは涙をぬぐって顔を上げると、精一杯微笑んだ。
「さようなら、先輩。」
「大原さ・・・・」
「ほら、勝岡くん、いくよ!」
「でも・・・。」
「いいから!」
勝岡先輩は、横田さんに引きずられるようにして正面玄関からいなくなった。
残されたのは、あたしとさーくんだけだった。
「みどり、ちょっと座ろうか。」
「うん。」
さーくんはあたしをまたゆっくり降ろすと、隣に座った。
「オレにチョコはないの?」
「・・・・あるよ。」
あたしはカバンの中から、小さな袋を取り出した。
さーくんが呆れたように溜息をついて、いきなりカバンを奪った。
「違うよ、オレはもっとデカいのがいいっつっただろ!」
「さ、さ−くん?」
さーくんはカバンをあさり、先輩へあげるはずだったチョコを取り出した。
だ、だめだよ!それは、先輩へのチョコだよ・・・・っ!
あたしが慌てて奪おうと手を伸ばすと、その手をあっさり押さえて
さーくんが言った。
「こんなのオレが食ってやる。」
「でもっ、それカードとか付いてるし・・・・。」
「それくらい自分で処理しろよ。オレはチョコを残さず食ってやるから。」
「さーくん・・・・。」
さーくんはバリバリと包みをやぶると、
表に書いてあった「勝岡先輩へ」のチョコ文字も無視していきなり食らい付いた。
みるみるうちに、それが小さくなっていく。
「みどり。バレンタインデーも、捨てたもんじゃないぞ。」
さーくんが言って笑った。

あたしは、先輩に振られてしまったけど。
告白ができなかったのもとても辛いけど。
香奈は本当にいい子だし。先輩と香奈にも幸せになってもらいたい。
そして、さーくんにも・・・・。

さーくんは、先輩へのチョコをたいらげると、また笑ってあたしを抱き寄せた。

<<終わり>>




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