2006年02月10日(金) |
2006バレンタイン特別企画【コバノレト的な小説】チャレンジ1 |
はじめまして、あたし大原みどり。今日も元気な中学2年生。 平凡な毎日を送っていたあたしだけど、今年のバレンタインで運命変えちゃうっていう気合は人一倍! でもそんなあたしに、いろんなことが起こるのでした・・・。
2月10日。 晴れ。 今日はとってもいい天気。 晴れわたった空みたいに、あたしの気持ちも、とっても澄んでいた。 だって、見て!今日は目覚まし時計がなる前に起きたんだもの! うーん、あたしってテンサイ!? そんなことを考えながら、身支度を整える。 セーラー服を着て、スカートもパンパンッと叩いて気合を入れて。 ニュースでも見ようかな、なんていう気まぐれで、あたしはテレビをつけた。 なんだか、番組がいつもと違う。お昼前の番組を放送してるみたい。 そんなことってアリなのっ??・・・・だって今はまだ朝の7時20分・・・って、なんでッ!? こんなの信じらんないよ!
あたしの顔は、もうまっ青。 そのテレビの画面に映る時間は、あと数分で10時になるところだった。 うそっ!どーしてぇ!? わけもわからずに、あたしは食パンをくわえて、カバンを持つと、家を飛び出した。 ママとパパと、きちんと話もしてないよ!!なんでこうなっちゃったのォ!? 自分で考えても、理由がわからない。あたしの目覚まし時計が遅れてたのかもしれない。 それにしても走ってたら、パンも食べられないし、息苦しいよ!もう、これってジゴウジトク!?
そのとき、だった。
ちりんっと自転車のベルが後ろから鳴らされた。 あたしは、その音に聞き覚えがある。 「さーくん!」 振り返りながら、その名前をよんだ。 さーくんは本名『佐久間啓介』。あたしの幼馴染で、同じ学校の同級生。 しかもクラスも同じっていう腐れ縁。 さーくんは、自転車でいつも登校してる。 この地域の自転車通学は本当は禁止されてるんだけど、さーくんは全然バレてない。 それを、いつもあたしは不思議に思ってた。 「お前、こんな時間に何してんだよ。」 「さーくんだって同じじゃない!何してるのよ。」 あたしは早足で、パンを齧りながら言った。後ろからさーくんが付いてくる。 「だって俺遅刻してんだもん。」 「あのねぇ、キミと一緒にしないでくれる?」 あたしは振り向いて、さーくんの鼻に人差し指を突きつけて言ってやった。 学年問題児のキミと、遅刻っていうひとくくりにされたら参っちゃう! さーくんは自転車を止めて目を白黒させてたけど、口を大きく開けて笑った。 「ほら、遅刻した同士、仲良く行こうぜ。」 さーくんがあたしの右手を取って、引き寄せた。
ドキッ!
あたしはびっくりして、さーくんを見た。 「な、なによ!びっくりするじゃない!」 「後ろ乗ってけよ!」 さーくんは言うと、あたしの鞄を奪って自転車のカゴに入れた。 あたしの返事も聞かずに、なんて強引っ! あたしは抵抗する気力もなく、しぶしぶ自転車の後ろに座った。 さーくんがあたしの顔を見て笑って、自転車をこぎ始める。 「どうせだから、遠回りしていくか!」 「もおっ、さーくんのバカっ!」 ばしばしっ! あたしが叩くと、さーくんはまた笑った。 お昼の風が、とってもあたたかくあたしたちを通り過ぎていった。
第二話
2月13日。月曜日、晴れ。 あたしは学校の帰りに、サッカー部の練習をコッソリ見にいった。 そこにはお目当ての高等部2年の勝岡先輩がいる。 かっこいい、サッカー部だけの特権ともいえるオリジナルのジャージをユニフォームにして、 彼は白い息を吐きながら走り回っていた。 茶色い髪の毛が、夕日を受けて輝いてる。笑顔になると、歯がキラッと光るの。 キューンってあたしのハートが痛くなった。 もぉ、かっこいいよぉっ!!! あたしはフェンスにもたれかかるようにして、勝岡先輩の姿をぼんやりと眺めていた。
「みーどーりっ!」
「きゃっ!」
いきなり呼ばれて、あたしは飛び上がる程びっくりした。 どれだけボーッと見とれてたんだろう。 振り返るとそこに親友の香奈が微笑んでいた。 長身に、ショートカットが似合う香奈は とてもかっこいい女の子で、学校でも注目される人物。 おまけにテニス部で大活躍して、先生からも評判がいいの。 素敵なお友達だな、っていつもあたしは思う。 香奈はテニスラケットを振り回しながら、あたしに抱きついてきた。 きゃっ、なに、なにっ!? あたしはびっくりして、じたばたする。 「ちょっとみどりちゃん、アンタまた覗きにきてるのね。」 「そ、そーだよっ!すっごい・・・楽しみにしてて、見に来たよ。」 「見りゃわかるわよ、目がハートだもん。」 香奈は微笑むと、困ったような顔をして、あたしを見てる。 そして何度かまばたきをすると、打って変わって子供のような表情で、ニンマリと笑った。 「よっしゃ、私に任せて!」 香奈はいきなりフェンスに飛びついて、30センチくらいよじ登った。 ひゃーっ、何するのよぉっ!! やめてよ、サッカー部の部員が見てるよ!! 止めさせようと口を開けた瞬間、香奈は叫んだ。 「勝岡せんぱ――――い!!」 「ちょっ・・・・香奈!」 「勝岡せんぱーい!こっちこっちー!」 やめてぇぇえっ! やだやだ、先輩がこっちを見てるよ! 見て、笑ってるよっ!! 近づいてきちゃったよおおぉぉっ!!! 「どうしたの?」 勝岡先輩が、あたしたちのフェンス越し、目の前に立っている。 走ってきたから荒く息を吐いていて、その息が空気に何度か白く溶けた。 俯いて視線をそらすあたしは、勝岡先輩の吐息と、ジャージしか見えなかった。 「頑張ってんなーって思って声かけたんですよ!」 香奈が笑って答えながら、あたしの肩を後ろからぐいぐい押す。 お、押されたって、顔も見られないのに、無理だよぉっ! あたしの無言の抵抗に気づいてくれたのか、香奈が、あきらめたように力を抜いた。 「ほら、先輩っていっつも全力ってカンジだから。」 「きみは、テニスの練習のサボり?」 「今の先輩と一緒でサボッてるんですぅっ。」 「きみも?」 「・・・・・」 「ちょっと、みどり!!」 「えっ?」 あ、あたし!? えっ、なんて?なんて聞かれたの?なんて答えればいいの!? 神様、助けて〜! 「え、えっと・・・・」 困るあたしに、香奈が耳打ちをしてくれる。 「みどりも、部活サボってるの?ってさ。」 「えっ、あっ、ち、違います!」 あたしは思わず顔を上げた。サボッてるような子だと思われたくないもんっ。 きっと顔は真っ赤になってたと思う。 目の前に、憧れの勝岡先輩がいるんだもの。 真っ白な歯が、本当に光って見える。先輩の笑ったままの口形が動いた。 「帰宅部なんだ?」 「は、はい・・・。」 「ちょっと先輩、みどりは帰宅部だけど、家の喫茶店を手伝うアイドル店員なんだもんね!」 「もぉ、香奈・・・っ」 「へぇ!凄いね!家の仕事を手伝ってるんだ!」 「はい・・・・。」 あたしは、先輩の顔に見とれるばっかりで。 こんなに話せていること自体が夢みたい!! 緊張しているのが、本当にもったいないのに、あたしは勇気が出ないの。 「オレ、紅茶には目がないんだ!今度いくよ。」 「先輩、その時のみどりはメイド服だから楽しみにしててねっ!」 勝手に香奈が言った言葉を聞いて、先輩はみるみるうちに顔を赤くしていく。
あ、あれっ?
先輩??
「お、おまえ、そういう事言うなよ!大原さんに失礼だろ!」 「あ、あたしの名前・・・知ってるんですか?」 あたしは思わず聞いてしまった。 いきなり喋りだしたあたしに驚いた様子で、でも先輩はニッコリと笑ってくれる。 「ごめん、本当は知ってたんだ。」 「あっ・・・そうなんですか・・・。あたしも、先輩のこと、知ってます。」 「オレのどんなこと知ってるの?」 「オムライスが好きとか、妹さんがいるとか、調理実習でフライパンを燃やしたとか、女の子にモテるとか。」 「うーん、最後のは違うなぁ。」 先輩は恥ずかしそうに頭をかく。 「女の子は結構オレのこと怖がってるみたいだからさ。」 「そ、そんなことないですっ!先輩は優しいし、かっこいいですっ!」 思わず乗り出して言ってしまったあたしを、香奈が驚いた顔で見てる。 ああっ、いっちゃったよ!!! 「そう言ってもらえると、オレも助かる。」 先輩は言いながらあっはっはって笑った。 「じゃあ、オレ戻るから。気をつけて帰りなよ。」 「はぁーい!」 「はい。」 先輩がまたフェンスから離れて、サッカー部の輪の中に入っていく。
「ちょっとおぉ〜!!みどり〜!」
香奈があたしのあたまを、グリグリとグーで攻めてきた。 きゃぁっ、いたいよ! 「きゃー!なに、なに??」 「みどり、やるじゃん、ちょっと!あれイケるよ!!」 香奈は嬉しそうにあたしに抱きつく。 「今年こそ、がんばるんだよ!キッカケはもう今日、出来たんだからね!」 「香奈・・・・。」 香奈の優しさに、涙が出そうになる。 あたしはいつも逃げてばっかりだったもの。 今年は、先輩と一緒にいられるのも最後・・・・。言ってしまおう!
あたしは香奈の温かい優しさの中で、決心をした。
>>続く(2006/02/11へ)
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