「暗幕」日記
DiaryINDEX|old|new
光る眼を持つ神の像が安置されている 王の玉座近く 広場の中心 そして国全体を見下ろせる丘の上に
かつて像の眼窩には 天然のルビーがはまっていたという 今のそれは 人工のまがいものだ
「これが汝らの神か」 外つ国の王は呆れてそう言った 「たとえ眼がガラスでなく宝石であったとしても たとえその眼が光を捉えていたとしても その光はそこからどこへも流れない その瞳に映った情報を取りまとめ処理する中枢も持たない」
「そうではない、かの国の王よ」 今や過去のものとなった国の血をひく老人は答えた 「神は生きていた その眼光が己の心を闇なく照らすと皆が信じていた時には 神の眼を育て 守り そして秩序は保たれた 神の眼力を信じぬ者によって宝石が失われたとき おわしました神はわれらから 神の力とともに失われたのだ」
老人は悼む 若き王の未来を 己の言葉が王の胸に落ちた音を 老人は 聞いた そのとき一筋の光とともに いつか見たのと似た情景が目の前に現れたのだ
この国も 永くない
|