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「暗幕」日記

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2002年07月06日(土) 本:これで古典がよくわかる

これで古典がよくわかる(ちくま文庫) bk1
複雑なことをわかりやすく書くのはむずかしい。

「それができるようになるにはどうすればいいのか?」ということの答えは一つです。「"むずかしい内容"をこわがらず、"むずかしい内容をもった文章"に慣れる」----これだけです。

橋本治による古典の入門書である。古典をわかるには「行き当たりばったりで"へー"と言って感心してる」で良い。そういう人が「万葉集」「日本書紀」から「徒然草」まで、その時代にどのような経過でその文体が生まれたかを読み解いている。私が面白いと思ったところを要約してみる。

・男は漢文、女は仮名文字。しかし男も和歌をする。それは、漢文だけでは女性とコミュニケーションできないから。和歌とはラブレターであった。(p73-「漢字ばかりじゃ女にもてない」)

・「漢字+カタカナ」の和漢混淆文の起源は、漢文の読み下し文である。女性向きの「物語」を読んで「本当のことであるはずがない」と怒る光源氏は、漢文で書かれた「縁起」「今昔物語」は信じただろう(p23- )

・「文学にしか自分の生きる意味を見出せない」「元祖おたく青年」源実朝の率直さと、存在そのものが「万葉集」になってしまっている帝王・後鳥羽上皇(p135-「2・鎌倉時代はこんな時代」)

・「徒然草」の冒頭を書いた卜部兼好は「若い奴」だと(橋本は)思う。「あやしうこそものぐるほしけれ」のくだりは勢いに任せて書き、しかも「破り捨つ」もせずに残っている。「オレにだって、自分なりのエッセイは書けるんだぜ」と思って書き始めて、気がついたら清少納言の『枕草子』みたいなもんになってるし、おまけにその中には『源氏物語』が入り込んでる。こうなりゃ頭をかかえるしかないでしょう。それで、「どうせオレが書いたのなんかすぐに破って捨てちゃうんだ、見なきゃいいだろ!」と開き直ったんですね。(p183-「人間の書いた『徒然草』」

まだ言葉にできない「複雑な内容」を自分の中に持っていて、それが誰か他人によってすでに文章化されてるのを見つけたら、うれしい。「こう言えば/書けばよかったんだ」と思えるから。古典のなかの人も現代人も同じ人間性を持っている。古文には日本語の起源や変化過程が残っていて、日本語を日常的に使っている私には取りつく島がないほどには思えない。


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