女の世紀を旅する
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2009年02月27日(金) |
欧米を襲う金融危機の深刻度 |
大恐慌はすでに始まっている:欧米を襲う金融危機の深刻度
●欧州金融2120兆円の大穴 2009年2月18日
オバマ政権が懸案であった景気対策を成立させた米国。その安堵感からか、対円レートで米ドルがここに来て上昇し始めている現在のマーケットの陰で、金融メルトダウンの実態を巡り驚愕の議論が展開され始めている。場所は日本から見て地球の裏側にあたる欧州だ。
米国由来のリスク資産に基づく損失額がもはや天文学的な数字にまで膨れ上がっている中、日本をはじめとする各国は公的資金を投入することで、これを抑え込もうと躍起になっている。EUもその例に漏れず、昨年(2008年)11月に開催された金融サミット(第1回 於:ワシントン)での合意に基づき、総額2000億ユーロもの景気対策の実施を決定。各国政府がこれに従い、景気対策法案を続々と成立させてきた。しかし、その過程で様々な議論が噴出。とりわけドイツでは政府サイドから「もう1度、景気対策を行なうことになったならば、ユーロ導入にあたって守ることになっている『対GDP比で財政赤字は3パーセントに抑えるべし』という財政規律を守れなくなる」との発言すらあったほどである。そのような状況の中、同じくドイツでは「財政赤字がかさむのを防ぐというのであれば、ドイツ連邦銀行(中央銀行)が持っている金(ゴールド)を売れば良いではないか」といった議論まで出てきたという情報がある。ユーロ導入により競争力を飛躍的に向上させ、EU圏内でこれまで圧倒的な経済力を誇ってきたドイツでさえこうした有様なのだ。
そのような中、去る10日に開催されたEU各国の財務大臣たちによる会合の場で議論された極秘ペーパーがリークされ、大変な波紋を呼んでいる。それによれば、リスク資産に基づく損失額は欧州の金融機関だけで16.3兆ポンド、すなわち邦貨換算すると2120兆円ほどにまで及んでいるというのである。米財務省、あるいは国際通貨基金(IMF)であってもここまでの巨大な損失を指摘したことはこれまで全く無い。しかし、仮にこの推計が事実であった場合、EU域内ではいうに及ばず、主要国が協調して支援を行ったところで、もはや事態を変えることはできないほどのレヴェルに至っているというべきなのである。
ちなみにこの数字は欧州においてだけの試算額にすぎない。米国、あるいは日本といった各国が抱える損失額を合算する必要が最終的にあるわけだが、その数値はもはや文字通り「天文学的数字」になることは必至なのだ。ちなみにマレーシア・クアラルンプールにて講演を行ったストロス=カーンIMF専務理事は「このままいくと半年後にIMFの資金は枯渇する」とまで公言している。それもそのはずであろう、たとえ日本勢などが10兆円レヴェルの資金供与をIMFに行ったところで、すでに収拾がつかないほどにまで拡大してしまった感のある金融マーケットにおけるこの大きな穴は、国際社会が総がかりになったところで何ら埋められるものではないのである。
このような中、一部には「米ドル暴落を皮きりにこれから生じるのは、これまで続いてきた通貨体制そのものの終焉であり、かつそれを支えてきた国際システム全体の崩壊、そして地政学リスクの連続炸裂だ」といった予測分析を語る専門家たちも現れ始めている(フランス系シンクタンク関係者)。現状では何ら予断を許すものではないが、もはやIMFですらこうした金融マーケットにおける「大穴」を埋められないという事態が間もなく生じるのであれば、そもそも国家とは何か、ブレトンウッズ体制とは何だったのか、そして「通貨」「資本主義」とは何なのか?といった議論が世界中で噴出することは間違いない。
そうした中、「資本主義こそ、“信用”と“価値創造”を2本柱にする宗教だったのではないか」といった論まで欧州では飛び出し始めている。日本では表向き語られることのないこうした疑問が、実はマーケットの“猛者”の間では浸透しつつあることを踏まえつつ、これから生じる本当の「潮目」をつかむ努力がさらに求められる展開になりつつある。
■揺らぐアメリカの連邦制 2009年2月18日
2月1日、米国カリフォルニア州政府が、財政破綻(支払い不能)を宣言した。加州政府の会計責任者(controller。John Chiang)はこの日、州政府の手持ち資金が底をつき、同日に支払われるはずだった州民に対する福祉手当、奨学金、税の還付金など総額37億ドルが支払えないと発表した。支払いを受けるべき人々に対して借用書(IOU)を発行し、いずれ支払い可能になったら払うことになり、州職員の人件費を浮かすため、平日に2日間、役所を閉めることにした。
カリフォルニアを国家に見立てると、世界第8位の経済規模を持つ国になる。それほどに大きい州であるが、加州政府は以前から金遣いが荒く、92年にも支払不能に陥った。その後、長い金融バブルの拡大に支えられた米経済の活況によって、州の税収は伸び続け、財政難から脱した。だが、加州の金遣いの荒さは変わらず、過去4年間で税収が40%増えたため、シュワルツネッガー知事は緊縮財政をやめてしまい、その結果、支出は4年で44%の増加となり、黒字体質に転換しなかった。
シリコンバレーが米経済を牽引した90年代、加州には高所得の人々が多かったが、加州は高所得者に対する所得税率が高い(NY市と並ぶ10%)ので、IT関係の人々は流出傾向となった。代わりに加州で増えたのは、米国滞在年数の浅い移民など低所得の人々で、州民の所得構造は、少しの金持ちと多くの貧乏人に二極分化を強めた。加州の税収の半分は、最も裕福な1%の人々への課税によって賄われていた。そして07年以後、金融危機によって、金持ちは投資に大損して州は所得税収が減り、住宅市況の悪化(40%の下落)による固定資産税の減少もあって、税収は激減した。
昨年9月のリーマン・ブラザーズ破綻後、加州の財政危機は一気にひどくなり、10月以後、毎月のように「このままでは加州は財政破綻だ」という指摘が出てきた。州債の発行が試みられたが、サブプラム債券破綻に端を発した金融危機の中、国債以外の債券は売れない状態で、売れ残ってしまった。以前の財政危機では、銀行や投資家から金を借りられたが、今は銀行や投資家も破綻し、頼れなかった。州政府と議会は、急いで支出の削減を行ったが、赤字拡大に追いつかず、財政破綻の宣言となった。
加州では、公共工事に対する支払いや、州から下位の行政区分である郡(county)に対する支払いも滞っている。州は所得税や間接税(消費税など)を徴集し、郡は固定資産税を徴集して州に上納する代わりに、州は福祉や公共工事にかかる費用を郡に支出する制度になっているが、州から郡への支払いが遅延しているので、ロサンゼルスやリバーサイドといった加州内の各郡は、郡で集めた税金を州に上納せず、州政府の未払いを不当として裁判で争う姿勢をとり始めた。行政の内乱が始まっている。
加州と、北隣のオレゴン州の州境地域には、以前から「州都から遠く、辺境として不当な扱いを受けている。両州の州境地域が分離独立して全米51番目のジェファーソン州になった方が良い」と主張する人々がおり、大戦直前の1941年には一時的な独立宣言もなされた。同地域では、今回の州財政危機を機に、加州からの分離独立運動に拍車がかかっている。
▼46州が財政破綻に直面
米国で財政破綻しそうな州は、カリフォルニアだけではない。全米50州のうち、昨年12月の段階で41州、先月末の段階では46州が、大幅な財政赤字状態に陥り、今年度中に財政破綻を宣言するかもしれない事態になっている。フロリダ、テキサスなど、不動産債権の債券化ビジネスが先進していた州ほど、金融危機による税収減の打撃が大きい。リーマン破綻前の8月には、29州のみが深刻な財政難だった。リーマン破綻後、各州の財政が急速に悪化していることがわかる。
昨年10月の時点で、各州の赤字額は、加州が150億ドル、フロリダ51億ドル、ニューヨーク55億ドル、アリゾナ20億ドル(120日以内に資金が尽きる)、ネバダ12億ドル、ジョージア18億ドル、ニュージャージは25億ドルなどとなっている。日本でも、急激な経済悪化の影響で、トヨタ自動車に頼っていた愛知県豊田市の法人市民税収が96%の減少になるなど、地方財政の悪化が話題になっているが、50州のうち46州が財政破綻しかけている米国も悲惨だ。(States That Can't Pay for Themselves)
各州政府の財政難は、金融界の危機と同根である。金融界では、加州、フロリダ、アリゾナなど、不動産が高騰していた地域に積極投資していた加州基盤の大手銀行ウェルズ・ファーゴが、債務超過(事実上の経営破綻)に陥っていると指摘されている。米国の大手銀行の多くは、加州やフロリダの不動産債権を買っており、米国の銀行界そのものが、すでに全体として債務超過に陥っているとも指摘されている。
米金融界では、最大手のシティ・グループが1兆ドルの資産を持つが、同行の株価は大幅に下落し、株価の時価総額は180億ドルにすぎない。時価総額は、市場がその企業の資産をいくらと評価しているかを示唆している。株式市場は、シティの資産の多くが不良化していることを見抜いている。
不動産市況に底打ち感があるなら、米連邦政府が銀行をテコ入れしているうちに不動産の価値が再上昇して資産価値が戻り、債務超過を脱せられる。80年代のS&L危機など、以前の米国の金融危機は、そのやり方で乗り切った。しかし今回は、まだ少なくとも今年いっぱいは、米不動産市況は下がり続けそうだ。連邦政府が市況悪化を食い止める意図の政策をやると、その分だけ底入れが遅れ、市況下落の期間が長引き、金融界の債務超過が長期化する。90年代のバブル崩壊後の日本の「失われた10年」の再現である。
債務超過になっている「幽霊銀行」(zombi bank)を助けず、思い切って市場原理に任せて潰した方が長期的に米経済にとって良いという指摘が、あちこちから出ている。だがオバマ政権は、連銀にドルを発行させて不良債権を買い取らせる前ブッシュ政権の政策を踏襲し、幽霊銀行を存続させる方針をとっている。
▼オバマが垂らす蜘蛛の糸に群がる
州も銀行も破綻しかけている中で、最後の貸し手となっているのが米連邦政府で、オバマ政権は総額1兆ドル近い経済対策を打ち出した。今の米国では、この経済対策の資金が「お上」から垂らされた、破綻を免れうる唯一の救いの糸であり、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」のように、あらゆる勢力が経済対策資金のおこぼれにあずかろうと、オバマと連邦議会に群がっている。(Obama seeks to avoid `catastrophe')
各地の州政府や、金融界、倒産ぎりぎりのところにいるGM、クライスラーの自動車産業はもちろんのこと、加州のワイン農家、フロリダのオレンジ農家といった農業団体も蜘蛛の糸に群がっている。景気対策となる減税措置の一つとして、農地に対する投資の減価償却の比率を拡大する政策が盛り込まれるが、この対象を「収穫時」から「作付け時」に前倒しすることで、農家の今年の減税額が増える。米政界では農業団体の圧力が強いので、景気への効果が疑問視されても、この手の業界利権がまかり通る。(Lobbyists Raise Stimulus Price Tag)
今回のオバマの経済対策では、ハイテク企業や製薬会社も、外国で得た利益を米国に戻す際の減税を要求した。各界から要求された利権が盛り込まれた経済対策は、それだけ効果の薄いものになった。オバマは選挙期間中に「ロビイスト(政治圧力団体)を排除する」と公約したが、100年に一度の大恐慌を受けてそれどころではなくなり、火事場泥棒が暗躍している。
今はまだ、米政府はドル発行権など「無限の力」を持っているかに見える。しかし、このまま金融危機と不況の悪化が続くと、金融と経済の救済に必要な資力と信用力が、米国の持つ資力と信用力を上回っていることがいずれ顕在化し、世界的な大混乱が起きると、鋭い悲観論で有名な米国NY大学のロウビニ教授が言っている。
▼州の反乱を煽る共和党
民主党オバマ政権は、今回の経済対策をまとめる際、共和党の賛成も得て超党派で話をつけようとしたが、米議会の上・下院では結局、共和党との調整に失敗し、共和党議員の多くが反対に回った。その主な理由は、公金利用の経済対策によって財政赤字が過度に急増するからだ。これは、そもそも前任の共和党ブッシュ政権が無駄づかいで財政赤字を急拡大して財政余力を失わせた経緯を棚上げした主張なのだが、共和党は、各州政府と連邦政府との対立構造を利用して、オバマ政権が準備している経済対策をくつがえそうとしている。
もともと米国は連邦制の、州の統合体(United States)であり、方針を同じくする複数の州が対等な立場で集まって同盟し、自分たちを統合する代表として連邦政府を置いている。全米各州は、連邦政府の言動に満足できない場合、連邦から離脱(分離独立)する権利を持っている。そもそも米国の「州」(state)には、日本語で言うところの「自治州」と「国家」の両方の意味がある。上述の加州北部の「ジェファーソン州」独立運動に見るように、地域住民が決議して新しい州(または国家)を作ることも、法的に可能である。
米国は戦後の日本に米国式の行政体制を移植しようと、都道府県や市町村を「地方自治体」と呼び、治安や教育の方針決定権を地域住民が握る公安委員会や教育委員会が各地に作られたが、朝鮮戦争後に米国が冷戦体制に転換するとともに、これらの委員会は「左翼住民に牛耳られかねない」という理由で警察庁や文部省に権限が奪われて有名無実化し、地方自治は名ばかりとなった。半面、米国の州は、法的に主権が認められている(Ninth and Tenth Amendment)。この主権は「自治権」でもあり「分離独立権」でもある。また、各州は独自の軍事力(州兵)を持っている。
これまで米国の景気が良く、ニューヨークの金融家が作った高利回りの国家システムをワシントンの連邦政界が運営し、各州の市民がその恩恵を受けていた間は、州の主権を強く主張する人は、反連邦主義者など少数派だった。しかし、ニューヨーク製の金融システムが崩壊して州政府も州民も困窮し、連邦政府がイラクやアフガニスタンで不必要な戦争の泥沼にはまって世界の反感をかっている今、状況が変わりつつある。各州の人々は、自分たちと連邦政府の間の契約を読み直し始めている。
共和党は、この現状を利用・扇動している。各州の州議会の共和党陣営は、民主党のオバマ政権が経済対策を利用して、健康保険制度、教育制度などの面で州の権限を奪って中央集権を強めようとしていると主張し、全米の8州で、連邦憲法に盛り込まれた州の主権を再確認する宣言(決議)を採択した。他の20州でも、同様の決議が提案されている。
前述したように、全米各州では財政難で連邦の資金に頼る傾向を強めており、これまで州の権限の一部だった健康保険や教育の制度について、州が金を出せない分、連邦が面倒を見るという流れになっている。共和党は、この流れについて「州の権限が奪われている」と主張している。私が注目するのは、この主張の妥当性や、民主・共和のどちらが良いかの話ではなく、今後この手の主張が増えそうな中、米国の連邦制が揺らぎそうだということである。
▼内乱?、6分裂?
州や郡が財政破綻すると、道路などの整備が遅れ、職員の給料が遅配し、公立学校の運営が滞り、ゴミ収集もできず、失業者や貧困層への手当ても払われず、職業訓練も削減される。加州では州政府だけでなく、公務員年金も運用損を出して資金を41%失い、将来の年金支給に懸念が出ている。州や郡などの地方財政の破綻拡大は、全米の人々、特に貧困層の生活を悪化させる。
生活が行き詰まるほど、人々は「なぜこんなに苦しまねばならないのか。政府や金融界のせいだ」と思い、州政府や連邦政府、金融界などに怒りを向ける。郡が州に楯突き、州が連邦に反旗をひるがえし、内乱の傾向が増す。州と連邦を対立させる共和党の新戦略は、この傾向を利用している。だが、やりすぎると米国の内乱化と連邦の崩壊を招く。
昨年10月、米軍(国防総省)が南北戦争以来150年ぶりに、内乱など自国内の有事に即応できる部隊を新設し、その意図を不可解だと思う向きが強かったが、その後、米国で内乱が起こりうる情勢は、潜在的に強まっている。国防総省は先見の明があったのか、それとも内乱を扇動して国防総省の権限を拡大する秘密作戦があるのか。
昨年末、以前から米国の崩壊予測を言い続けてきたロシアの著名な学者(Igor Panarin)が「2010年6−7月に、米国は内乱で6つに分裂する。東部諸州はEUに加盟し、中西部はカナダと合併し、南部はメキシコが、加州は中国がとり、ハワイは日本か中国のものになり、アラスカはロシア領に戻る」という予測を述べて話題になった。
米国の分裂は、従来の常識で考えるとあり得ない話だが、米国の連邦制度の本質を考えていくと、少なくとも最悪の事態として頭の隅に置いておかねばならない予測であることがわかる。また、地方がほぼ完全に自立性を失っている日本と異なり、州や地域社会が自立して動きうるのが米国の強さでもある。
今回の記事は当初、2月10日に発表されたオバマ政権の景気対策の効果予測(あまり効果がなさそう)について書こうとしたが、導入部のつもりで書き出した加州の財政破綻の話が長くなり、連邦制の揺らぎについて書くのも大事だと思うに至り、景気対策の話は後日にすることにした。
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