女の世紀を旅する
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2008年12月07日(日) |
ドルの大崩壊は必至? 混迷を深める世界の政治経済情勢 |
ドルの大崩壊は必至? 混迷を深める世界の政治経済情勢
★2009年夏までにドル崩壊??
11月17日、米ワシントンDCでのG20金融サミットが具体的成果をあ げられずに終わった2日後、欧州のLEAP/E2020(2020年の欧州) というシンクタンクが「ドルを基軸とした今の国際通貨制度(ブレトンウッズ 体制)は、根本的な改革がなされない限り、09年(来年)夏までに制度崩壊 する。この体制の中心にいる米英が急速に弱体化し、米財政は破綻して、世界 は非常に不安定になり、戦争や暴動が起きる」「世界がドルを見放したら(米 国債を買わなくなったら)、通貨制度改革の交渉もできなくなり、手遅れにな る。世界の指導者は、3カ月以内に現状を把握し、6カ月以内に対策を決定す る必要がある」などとする予測を発表した。
LEAP/E2020は、今回の世界的な金融危機が起きることを察知した 欧州の分析者が、2006年1月に作ったシンクタンクで、07年夏に金融危 機が起きる前から、米不動産市況の崩壊による危機の懸念、ドルや米財政の潜 在危機などを指摘し続けてきた。06年3月に米連銀がドルの通貨供給量M3 を発表しなくなった直後、すでに「ドルが危機的状態に入ったので、連銀は M3発表を止めたのだ。いずれドルは崩壊する」と指摘していた。
07年まで、米経済は表向き好調だったので、米経済の崩壊を予測した彼ら は当初、多くの「専門家」から酷評中傷されたという。
彼らは、今年6月16日には「今年7月から12月末に、世界システムの危 機は佳境に入る」との予測を出している。その後、9月にリーマンブラザース やメリルリンチなどが相次いで破綻し、米国の金融危機は財政危機と大不況を 併発して急拡大し、まさに予測どおり、世界システム(覇権システム)の危機 は佳境に入った。彼らがこの予測を出した時期は、リーマンブラザーズが最初 に危機に陥った直後で、リーマンは連銀の救済融資を受けて延命したが、いず れリーマンは危なくなると感じられたころである。
(彼らの予測のうち、経済面は鋭いが、政治面は今一つだ。10月までにイラ ンが空爆される確率は70%、という予測は違った。エジプトなどの政権崩壊 の可能性60%、というのも外れている。イスラエルが和平傾向を強め、状況 が変わった。とはいえ最近、イスラエル軍は米国に反対されてもイランを空爆 する準備を始めたとか、ペルシャ湾外に米空母が再結集しているという話が出 ており、イランが空爆される可能性はまだある)
▼頼りにならない中国
そのようなLEAP/E2020が「6カ月以内のドル崩壊」の予測を出し たのは、重視すべきことである。彼らは、ブレトンウッズ機関(IMF、世銀) の根本的な改革がなされれば、通貨制度の崩壊は防げると言っている。これは、 11月15日のG20会議のテーマでもあり、私なりに理解すると、基軸通貨 がドル一極の状態から、ユーロ、円、人民元などを含む多極的な状態に拡大す る方向でブレトンウッズ体制が大変革されれば、ドルが信用を失墜しても、国 際通貨体制はソフトランディングしうる。
しかし今のところ、国際通貨体制は軟着陸しそうもない。たとえば軟着陸に は、世界有数の富を蓄積するようになった中国人民元の切り上げや国際化が必 要だが、中国政府が最近採った方針はむしろ逆に、ドルに対する人民元の為替 上昇を止める「切り下げ」の方向である。人民元の対ドル為替相場は一定の変 動幅の範囲内で動くように中国政府が市場介入しており、以前は変動幅の上限 に貼りつくことが多かったが、最近は下限に貼り付く事態となっている。中国 政府は人民元安を誘導している。
9月のリーマン倒産以来、米欧市場の需要を底上げしていた金あまりを支え ていたレバレッジ金融の崩壊が急に進み、10月から米欧市場の需要は急減し て不況に突入した。中国から米欧への輸出も大幅減となり、広東省などでは工 場閉鎖が相次ぎ、失業が急に増えて中国社会は不安定さを増している。中国は、 多様なので不安定になりやすい国だ。中国政府は、国内の安定を最優先せざる を得ず、国際通貨体制の事情につき合う余裕がない。
人民元の切り上げを望む米欧の要求は無視され、中国政府は人民元をできる だけ切り下げ、米欧に対する中国製品の価格競争力をつけて、輸出産業の復活 と失業の抑制を狙っている。中国政府がこうした姿勢をとる限り、人民元の国 際化は進まず、通貨の多極化も起こらず、国際通貨体制は軟着陸できない。ド ルのハードランディングは不可避となる。国内事情を優先する中国政府の姿勢 は、米欧から自己中心的だと批判されている。「1930年代の大不況時、主 要国が世界全体のことを考えず、自国経済を守るために通貨切り下げ競争に入 り、40年代の第二次大戦を引き起こしたのと似た状況になっている」と指摘 されている。
中国政府は11月、中国に内需拡大を要求する米欧の圧力を受け、6000 億ドル(4兆元)の内需拡大用の財政支出を行うと表明した。しかし、その大 半は、政府自身が出さず、省などの地方政府に「地方政府の予算で需要喚起の ための財政支出を増やせ」と命じるだけのもので、実際に地方政府が支出を実 行するかどうかは非常に怪しい。中国経済は成長が減速しており、世界経済の 牽引役となること期待するのは無理だとという論調が出ている。
世界経済の現状は、通貨の多極化も、消費の多極化も、遅々として進まない。 このままだと、ドルに代わる基軸通貨体制が決まらないまま、ドルに対する国 際信用が失墜し、米国債が不履行になって長期金利が急騰し、ドル建ての石油 や金や食料の価格が高騰してインフレが再燃する。世界経済は大混乱し、戦争 や暴動が起き、LEAP/E2020が予測する事態が起きうる。
▼自作自演の米国債買い取り
ドルは、延命する可能性もある。ドルの破綻は、長期米国債が売れなくなる ところから始まりうるが、米連銀は最近「量的緩和策」の一環として、米国債 が売れ残る事態に備えて、連銀があまった米国債を買い取る新政策を検討して いる。名目上、連銀は政府から独立した機関であり、ドルの輪転機を回して刷 るだけで米国債を買うことが可能だ。
すでに連銀は、金融危機対策として民間債券を買いまくり、この1年間で3倍 の資産膨張をしている(連銀資産は1兆ドルから3兆ドルへと増えつつある)。 この策の拡大版として、民間だけではなく政府の債券を買うのが、今回の新政策だ。
このやり方をすれば、毎回米国債は完売し、長期金利の上昇という財政破綻 の兆候も出現せず、ドルは崩壊しない。連銀が米国債の購入を検討していると 発表した直後、長期米国債の売れ行きが急に良くなり、長期金利が下がった。 米国と同様に財政赤字が急増している英国の中央銀行も、同様の延命策を検討 している。
しかし連銀は事実上、米政府の機関である。財務省が売り出す米国債を連銀 が買うのは、自作自演の錬金術であり、ドルの発行者である連銀の信頼を失墜 させる。数カ月から1年ぐらいは延命できるかもしれないが、その後に起きる ドルに対する信用失墜の表面化は、手に負えない巨大なものになる。
▼悪ガキに乗っ取られた国連が世界を救う?
今週は、国連(DESA+UNCTAD)も「来年は、ドルのハードランデ ィングがあるかもしれない」と予測する報告書(World Economic Situation and Prospects 2009)を発表した。報告書によると、今はまだ、株や債券から 逃避した資金が米国債に向かっているのでドルは安泰で、経済減速がデフレの 傾向を生んでいるが、これが一段落すると、ドルに対する不安が主たる懸念に なる新事態に転換するかもしれず、そうなるとドルは早ければ来年(09年)、 他通貨に対する急落やインフレを引き起こすかもしれない。
国連は、この報告書を毎年発表しており、昨年や一昨年から、米国の貿易赤 字拡大や、米住宅市況の悪化が引き金となって、ドルはハードランディングす るかもしれないと予測されていた。今のところ、予測は外れているが、今後は わからない。
IMFと世界銀行という「ブレトンウッズ機関」(1944年のブレトンウ ッズ会議で設立された機関)は、国連の機関である。国連では今、中南米(ニ カラグア)左翼出身のミゲル・デスコト・ブロックマンが国連総会議長となり、 彼を中心に、発展途上国の代表が国連を牛耳り、従来の米英中心体制をぶち壊 しにかかっている。国連は、左翼とイスラム主義者に乗っ取られている。以前 に書いた「国連を乗っ取る反米諸国」の流れである。
国連総会を掌握する彼らは、安全保障理事会を中心とした従来の国連の意志 決定メカニズムを壊している。彼らは、総会の下にある「社会経済理事会」の 傘下にIMFと世銀を組み入れる新体制を計画中で、欧州がIMFトップ、米 国が世銀トップを出して米欧がIMFと世銀を支配していた、従来の構造を終 わらせようとしている。
左翼やイスラム主義者に乗っ取られて機能不全に陥っているかに見える国連 だが、その国連は、ドルのハードランディングを防ぐための方策を提案してい る。11月29日、中東カタールのドーハで、国連の経済会議(開発資金会議) が開かれた。この会議は2002年の途上国経済発展に関する「モンテレー合 意」の実行を総括することが目的だが、モンテレー合意には、国際金融システ ムの改革も含まれている。
会議に際して記者会見したデスコト国連総会議長は「従来の国際金融システ ムは、もはや機能していない。新たな金融システムを作る必要がある。新たな システムを作るための国際会議を、来年3月に開くことにした。世界のすべて の国家元首に招待状を出す」と発表した。これは、提案のされ方から考えて、 11月に米ワシントンDCで開かれた「第2ブレトンウッズ会議」の続きであ る。国連を乗っ取った左翼やイスラム主義者たちは、新たな国際通貨体制を作 ろうとしている。しかし、彼らにそんなことができるのだろうか。
ドーハの国連会議には、IMFも世銀もトップが来ず、主導役はみな発展途 上国の代表だった。記者会見したデスコト総会議長は、IMFと世銀の欧米人 トップたちの不参加を批判した。どうも欧米人たちは、国連を途上国の勢力に 乗っ取られたことが不満で、ドーハ会議を欠席したかのようである。しかし同 時に、フランスのサルコジ大統領や、ロシアのメドベージェフ大統領といった 多極主義系の主要国の首脳たちは、デスコトのやり方を評価している。
多極主義者たちは、米英の影響力から最も遠い勢力である中南米左翼やイス ラム主義者といった発展途上国の代表たちに、国際通貨制度の作り直しを任せ る戦略をあえて採っているのだろうか。国連を乗っ取っている途上国の連中は、 教師(英米)がいなくなったすきに教室の後ろの方で大騒ぎしている悪ガキの ようにしか見えないが、実はニューヨーク資本家筋の、世界システムを知り尽 くした連中が、こっそり入れ知恵をしているのかもしれない。(かつてロシア 革命にトロツキーを送り込み、「世界革命」によって英国の覇権体制を壊そう としたように)
あるいは、世界を多極化するために不可欠な米英中心体制の崩壊を間違いな く引き起こすために、意図的に未経験で無能な勢力に国際社会の運営を任せて いるのか。どちらにしても、世界の運命は「途上国の悪ガキども」の手に握ら れている。この現状自体が、国際政治のダイナミズムを示しているとも感じら れる。しばらくは、国連の動向から目が離せない
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