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2006年11月07日(火) 韓国の北朝鮮スパイ事件

《韓国の北朝鮮スパイ事件》

                 2006/11/07




韓国の国家情報院が民主化運動の元活動家たちを北朝鮮のスパイとして逮捕した。同運動出身者の中には盧武鉉(ノムヒョン)政権の誕生に貢献し、政権の中枢にいる要職者も多い。国民が衝撃を受けているとき、捜査の最高責任者が辞任。政権内の親北朝鮮勢力が事件解明を嫌って圧力をかけた疑いも浮上した。




●大統領府にも浸透か?


 韓国国家情報院は10月24、25の両日、米国籍を持つ実業家チャン・ミンホ容疑者ら5人を北朝鮮のスパイとして逮捕。家宅捜索で、暗号文などの証拠物件を押収した。5人は、いずれも韓国で386世代と呼ばれる民主化運動の元活動家たち。386世代とは、60年代に生まれ、80年代に大学で学生運動に参加、90年代に30歳代で政治に参加したという意味だ。そして、98年発足の金大中(キムデジョン)政権や、03年からの盧武鉉政権の誕生に貢献し、現在国会議員や政権の要職者も少なくない。

 朝鮮日報によれば、チャン容疑者(44)は1981年に大学に入学、民主化運動に参加したあと、米国に渡って米国籍を取得。一時、シリコーン・バレーでIT技術を学んだ。帰国後、その経験を買われて韓国情報技術院の課長に就任。IT業界に人脈を広げて実業家に転進し、複数のIT関連会社を設立。金大中政権下の与党が2000年の総選挙を前に300人の立候補予定者を選んだ際、その1人になった。その一方で、同容疑者は89年から99年の間に3回、北朝鮮に入国して、労働党に入党。ソウルに「一心会」という情報収集の秘密組織を作ってスパイ活動の拠点にした。

 捜査当局が逮捕したチャン容疑者ら5人のうち、政界関係者は野党第3党民主労働党の元中央委員(42)と事務副局長(40)の2人。しかし、これは氷山の一角という見方が強い。チャン容疑者と一緒に活動した386世代の元活動家は議会内だけでなく、大統領府はじめ政権内の要所に進出している。同容疑者がこれら元活動家を情報源にしていたのは間違いない。また、米から帰国したばかりのチャン容疑者が情報技術院の課長に就任し、その後IT関連会社を次々設立したことに疑問を持つ向きもある。急に課長になった背景や会社の設立資金の出所が疑われているのだ。





●捜査責任者が突然辞任の謎

 スパイ事件は謎が多いのが通例だが、この事件も意外な展開をする。最初の容疑者の逮捕から2日後の26日、捜査の最高責任者、国家情報院の金昇圭院長が盧武鉉大統領に辞意を表明、大統領はこれを即座に受け容れた。政権を揺るがしかねない大規模なスパイ事件、その捜査の最高責任者が事件の摘発開始2日後に辞任した。10月9日の北朝鮮の核実験のあと、盧武鉉政権は太陽政策を続けるかどうかをめぐって揺れているときである。何か裏があると勘ぐるのは当然の成り行きだった。しかも、辞任に至る経緯について、情報委員長と大統領側の説明が違っている。

 中央日報によれば、金昇圭情報院長は北朝鮮の核実験のあと、統一相と国防相が責任を取って辞意を表明したため、自分も辞任しようとした。しかし、大統領府はその必要はないとの意向だったため留任の積もりだった。ところが、26日急に大統領から呼び出され、その席で情報院長は辞意を表明、大統領は即座に受理したという。だが、大統領府の説明では、大統領は辞意を聞き、一晩考えてから了承したという。もともと、大統領と情報院長は11月1日に会う予定だった。中央日報は、大統領がその前に情報院長を急に呼び出し、一方的に更迭を言い渡したとの見方を伝えている。

 実は、北朝鮮スパイの摘発は、大統領府に伝わっていなかったという。朝鮮日報によれば、主犯格のチャン容疑者の最終的なねらいは、IT網を通じて韓国のすべての情報が集まる大統領府にあることが確実だった。その大統領府で中心となって情報を統括しているのが、386世代の元活動家たちである。そこに、チャン容疑者はIT関連会社の社長として接近したと見られているのだ。従って、今回の捜査の山場は大統領府にあることも明らかで、国家情報院が大統領府に事件の摘発を知らせなかったのも、そのためだったろう。





●韓国の情報孤立が深まるか?


 国家情報院が事件摘発を始めた1週間後、朝鮮日報が「摘発の秘訣」と題する漫画を掲載した。北朝鮮の金正日総書記と見られる人物が部下の将軍に「なぜ、国家情報院はスパイ摘発に成功したのか?」と聞く。部屋の一方では、テレビが韓国の大統領府の発表として「大統領府はスパイ事件を事前に把握していなかった」と伝えている。将軍はそれを見ながら「大統領府が知らなかったために、同志たちが捕まってしまったようです」と金正日総書記に答える。スパイ事件が生んだ大統領府に対する韓国民の不信感を表現している。

 辞任した金昇圭国家情報院長も複数のメディアに対して、大統領府に強い不信を抱いていることを隠さなかった。そして、自分の辞任後、大統領府に近い金萬福情報院第一次長が後任の院長になることに強い懸念を示した。同次長は旧KCIA(韓国中央情報部)出身で386世代とも交流があり、検事出身の金昇圭院長とは肌が合わなかった。しかし、盧武鉉大統領は11月1日、金萬福第一次長を後任の国家情報院長に任命した。朝鮮日報、中央日報はじめ、多くのメディアは「金次期院長が、このスパイ事件を捜査する適任者かどうか、疑問だ」と報じた。

 盧武鉉大統領が疑問を押し切った人事はこれだけではない。1日に任命した4人の閣僚のうち、統一相と外交通商相にも内外から疑問符が付いた。中でも、反米発言で知られる宋旻淳氏の外交通商相任命について、ニューヨーク・タイムズは「盧武鉉大統領が米に対し叛旗を翻したのと同じ」という専門家の意見を伝えた。米のヒル国務次官補は10月下旬、北京で中朝代表と会談して6カ国協議再開を決め、その経過を逐一日本に伝えた。しかし、韓国には伝えなかった。盧武鉉政権の親北朝鮮の姿勢が韓国を情報孤立に追い込んでいるのだ。今回のスパイ事件を解明できなければ、この傾向はさらに強まるだろう。


カルメンチャキ |MAIL

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