女の世紀を旅する
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2006年02月07日(火) 近未来の危機: イランの核開発問題

《 イランの核開発問題 》

                          



まもなく,イタリアのトリノで冬季オリンピックが開催されるというのに,中近東では,新たな火種が幾つかおこり,国際政局に緊張が走っている。

さっきのテレビ・ニュースで,シリアとレバノンのデンマーク領事館が数万人の群衆に取り囲まれ,投石されているのを放映していたが,なんでも,デンマークのマスコミ誌がイスラム教の創始者ムハンマドを揶揄する記事をのせたことへの不満が爆発したものらしい。

最近,フランスでは北アフリカ出身のイスラム系の移民の子たちが就職差別などからパリ周辺で暴徒を起こしたが,こうした宗教の違いを根底とした国家や民族同士の憎しみは,世界的な拡がりをみせており,昨年インドネシアのバリ島で起こった爆弾テロなども,欧米の観光客をねらったイスラム過激派のしわざであった。

かつて,ムハンマド(英語名マホメット)を中傷した『悪魔の詩(うた)』を翻訳した筑波大学の助教授が学内で何者かによって殺害される事件があったが,イスラム教徒の報復を受けたのだろうと推測されている。現在,世界に10億人のイスラム教徒(ムスリム)がいるが,その多くは貧しい開発途上国に集中しており,豊かな欧米先進国のキリスト教文明圏との軋轢は,いよいよ世界各地での紛争という形で露呈し始めている。

先週,総選挙の結果,パレスチナ自治政府で,イスラム原理主義のハマスが政権を掌握し,世界を驚かせた。ハマスは,イスラエル国内で爆弾テロを展開してきた超過激派であるだけに,イスラエルとの対立も深まるばかりである。

さらに,このイスラエルとそれを支援するアメリカに対して,激しい敵愾心をもったイランの新大統領の挑戦が,いま世界の注目を浴びている。イランの核開発問題が事態の悪化の背景としてあり,場合によっては新たな石油危機がもたらされるのではないかと危惧されている。


※ イランは,1979年のイラン・イスラム革命で,親米のパフレヴィー朝の王政が倒され,ホメイニ師が率いるシー派が政権を掌握し,イラン・イスラム共和国が誕生した。以後,今日にいたるまで,イスラム原理主義の流れをくむ政党や宗教勢力が反西欧と反イスラエルの立場から,強硬路線を持続していおり,イスラエルに対抗するための核兵器開発は欧米諸国の激しい反発をひきおこしている。事態は予断を許さない状況にある。


以下は,そのことに言及したNaotake Mochida氏の記事で,場合によっては,アメリカはイラクについで,イランとも戦火をまじえなくなるかもしれず,近い将来,危機的な事態が到来することを認識しておきたい。


● 強硬派アフマディネジャド大統領の挑戦

 核問題の安保理付託は解決への一歩か、それとも危機深化の一里塚か、現状は危機への傾斜の感が強い。今回の危機は1月10日、イランがナタンズなど3箇所でウラン濃縮関連活動を再開したことが発端。04年11月、イランが英仏独3国と交わした同活動全面停止の約束を破ったのだ。昨年8月に就任した強硬派アフマディネジャド大統領の米欧に対する新たな挑戦だった。

 2月4日のIAEA(国際原子力機関)理事会は、米欧のほか、イランに同情的な中ロも賛成して、問題の国連安保理付託を決めた。ただし、制裁論議は3月の次のIAEA理事会まで、控える方針。これは、ロシアが提案したウラン濃縮をロシア領内に移す案を検討する時間的余裕をイランに与えるための妥協策。だが、イランは安保理付託を決めたことに強く反発、「IAEAとの関係をすべて停止し、ウラン濃縮を全面開始する」との声明を発表して、話し合いをすべて拒否する姿勢を示した。

 イランは、核開発の目的は核燃料サイクルの構築で、NPT(核拡散防止条約)が認める平和利用と主張している。しかし、これを信用する国はまずなく、真意は平和利用を隠れ蓑にして、核兵器の製造を狙っていると見る国が多い。今回、安保理付託の中心になった米と英仏独は、イランの真意は核兵器を背景に中東政治の主導権を握り、イスラエルに対する対決姿勢を強めることにあると警戒している。



● 制裁論議の進行で、原油高騰は必至

 IAEAは今回の理事会で、米欧中ロの主要国が一致して安保理付託を決めた。だが、今後の対応について一致した行動が取れるとは思えない。安保理は3月6日の次のIAEA理事会までに状況が好転しなければ、制裁をめぐる論議に入ることになる。だが、制裁となると、各国の利害が交錯し、一致点が見出せるとは思えないのだ。イランも制裁を受ければ、原油輸出を制限すると公言。イラン革命防衛軍のサーファビ司令官は「攻撃を受ければ、我々は防衛する。イランには射程2,000キロのミサイルがる」と述べ、万一の場合、イスラエルを攻撃するとの示唆をした。

 欧米はじめ主要国がもっとも恐れるのは、この動きが原油市場に影響することだ。2月1日の原油価格は一時69ドル台と年初以来8ドル余も高騰、昨年8月の米南部を襲ったハリケーン被害以来の高値を付けた。高騰の主な理由はイラン問題の悪化だが、ほかにも、ナイジェリアの内戦激化や、ベネズエラの反米政権の動きなどが重複している。フォーチュンは1月27日、石油専門家の意見として、イランが原油輸出制限をした場合、価格は1バレル、131ドル。ベネズエラの禁輸では、111ドル。ナイジェリアの内戦激化で、98ドルへの高騰が予想されると報じた。

 日本はじめ国際エネルギー機関加盟国の備蓄は、現在約14億8,000万バレル。イランの1日の輸出量約240万バレルの600倍余。イランが輸出を停止しても、1年半余り、備蓄で凌げる計算だ。しかし、影響はそれだけに留まらない。原油が不安定になれば、株や為替も不安定になり、世界経済は大混乱に陥りかねない。イラン自身も原油収入が全輸出額の80%を占める原油依存症であり、安易に輸出制限はできないという見方もある。しかし、イラン政府関係者は「制裁すれば、困るのは欧米」と繰り返し打撃は先進国の方が深刻と強気だ。



● 米英も今後の対応策で不一致

 もう一つの懸念は、イランが核開発を進めれば、イスラエルが黙っていないと見られることだ。1981年、イスラエルはイラクの核施設を空爆したが、イランに対しても同様の攻撃をするとの見方が消えない。当時、イラクは反撃しなかった。しかし、イランは反撃するというのが、上記の革命防衛軍のサーファビ司令官の発言だ。アフマディネジャド大統領は1月19日、シリアを訪問してアサド大統領と会談、同時に反イスラエルの過激派組織、ハマスやヒズボラー代表とも会談した。万一の場合、これら組織がイランに協力することを示唆している。

 状況は深刻だが、イラク攻撃では歩調を揃えた米英も今回は足並みが揃わない。米は国連安保理でまず経済制裁による圧力をかける。そして、効果がなければ、軍事行動を含む強い対応をするべきだと主張。しかし、英のストロー外相は1月28日、アナン国連事務総長と会談した際、「軍事行動は検討したこともない」と報道陣に語り、米と意見が一致していないことを明らかにした。一方、ロシアと中国も経済制裁には反対している。安保理に付託したものの、問題はIAEAの場で話し合いを通じて解決するべきだとの立場なのだ。

 この背景には、緊密化の度を増す中ロとイランの経済関係がある。ロシアはブシェールに総額10億ドルと言われる原子力発電所を現在建設中。稼動後は、使用済み核燃料棒をロシア国内で再処理する約束だ。ウラン濃縮をロシアで実施するとの今回のロシア提案が実現すれば、ロシア・イランの経済関係は一層緊密化する。一方、中国も液化天然ガス2億5,000万トンを今後30年間、700億ドルでイランから輸入するという長期契約を最近締結。中国経済のイラン依存の体質が鮮明になっている。中国外務省の孔報道官は1月26日、「制裁は問題を複雑化する」と述べ、中国が国連安保理で制裁に反対することを早々と確認した。



● 日本の主張はどこにあるのか

 日本も国際石油開発がイランにアザデガン油田の開発権を持ち、今年中に本格生産に向けた開発を開始する方針だ。もし、核問題がこじれ、制裁論議になった場合、苦しい立場に追い込まれるのは必至である。ブッシュ政権は経済制裁の一環として、日本に対しても同油田開発の再考を求めている。同油田の推定埋蔵量は約260億バレル。予定どおり開発が進めば、08年には生産開始、09年には日量15万バレル、13年には最高26万バレル、現在の全輸入量の6%余の生産が期待できる。

 しかし、経済制裁となれば、開発計画が狂うだけでなく、現在イランから輸入している日量約67万バレル、日本の全輸入の約16%の入手も不安になる。中ロはじめ各国は、自国の利益をかばい、制裁にも異論を見せて、イランに恩を売る姿勢を隠していない。だが、日本の主張はまったくと言ってよいほど、聞かれない。日本の利益はどこにあるのか、もう少し明確に発言したほうがよい。

 今回のIAEA理事会で、エジプトを中心とする発展途上国は、中東に非核地帯を構築する項目を決議案に盛り込むことに成功した。イランの核兵器開発を反対するとともに、イスラエルが保有すると見られる核兵器の廃棄も狙っている。中東の盟主を自認してきたエジプトらしい動きである。日本が唯一の被爆国の立場で、核廃棄を主張するなら、こうした動きにも充分配慮しなければならない筈。日米同盟ばかりが外交の基本で済むわけはないだろう。


カルメンチャキ |MAIL

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