女の世紀を旅する
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2006年01月30日(月) |
● 近未来の危機: アメリカ経済の衰退 |
● 近未来の危機:アメリカ経済の衰退で世界不況がもたらされる
国際派ジャーナリストのSakai Tanaka氏がアメリカ発の世界不況の可能性に言及しており,現実味がある内容なので以下に記載しておきたい。
日本の財政赤字もひどいが,アメリカの場合は財政赤字と貿易赤字の双子の巨額な赤字であり,しかも自動車などの産業の衰退も進んでおり,いずれアメリカ経済が破綻するときがくると,警鐘を鳴らしており,注目しておきたい。はたして,アメリカ発世界不況がおこるのか,興味がつきないリポートである。
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昨年12月27日、アメリカの債券市場で、関係者を騒がせる現象が起きた。この日と翌日、5年ぶりに、長期金利と短期金利の逆転が起きたのである。 世の中の先行きの不透明さを考えると、どこかに長期間お金を預けることは、短期間預けるよりもリスクが高いので、通常は、長期国債(10年ものなど)の金利は、短期国債(2年ものなど)の金利より高い。これが逆転して短期金利の方が高くなるのは異常である。12月27日、米国債の利回りは、10年ものが4・343%、2年ものは4・347%だった。
金利の逆転が騒がれるのは、不況の前兆であるという説があるからだ。 1996年にアメリカの連邦準備銀行(中央銀行)の経済専門家が書いた論文によると、第二次大戦後に起きたすべての不況は、発生から1年−1年半前に、金利の逆転現象が起きている。この論文では、金利が逆転すると金融機関が短期貸し付けをやりたがらなくなって貸し渋りが起き、経済が悪化するのではないかと考えられた。
この論文が書かれた後、2000年に金利逆転が起きたが、その後も、ITバブルが崩壊して株価が下落し、米経済が不況に陥っている。だがその一方で、1998年に起きた金利逆転は、不況の前兆とならなかった。この時は、東南アジアやロシアの金融危機の影響で、安全性が高い長期米国債に投資する人が増えた結果だとされた。
金融の国際化が加速したため、1996年に成り立っていた「金利逆転は不況の前兆だ」という定理はその後崩れた、という見方が専門家の間から出てきて、次の2000年の金利逆転は軽視された。
● 不動産市場を危険にする短期金利の上昇
昨年末に起きた金利逆転の原因の一つは、中国や日本といったアジア諸国など、アメリカに商品を輸出して経済を維持している国々の中央銀行が、長期の米国債を積極的に買っているため、長期金利が低下していることである。日本や中国は、輸出に有利なよう、自国通貨とドルの間の為替を一定にしておくため、ドルの外貨備蓄を増やしている。外貨準備の多くは現金ではなく、長期米国債の購入にあてられている。(債券は、買いたい人が多いほど低金利でも売れるので、債権の需要が多いと金利が下がる)
その意味では、昨年末の金利逆転は「金融の国際化」の結果であり、 1998年の逆転と似ており、前例に従うなら、発生しても軽視して良い現象であるといえる。連邦準備銀行のグリーンスパン議長は「逆転は、長期債が外国から買われて低金利になっている結果であり、米経済の好不況とは関係ない」という意味の発言をしている。
とはいえ「アジア諸国が長期米国債をさかんに買っているから長期金利が下がっている」という説明は、金利逆転現象の発生原因の半分にすぎない。残りの半分は、短期金利が上がっていることである。実はこちらの方が大問題で、金利が上がったことで、アメリカ経済の活況を支えている住宅市場のバブルが崩壊しそうになっており、このままバブルが崩壊すると、米経済は不況に陥る可能性が大きい。
アメリカの不動産市況は昨年6月に天井に達し、その後はしだいに住宅の売れ行きが悪化している。さる1月20日には、不動産価格の高騰が最も大きかった都市の一つであるニューヨークのブルームバーグ市長が「不動産市況は劇的に冷え込み始めている」と発言し、注目を集めた。
不動産市場は株式相場のように一晩で暴落するということはなく、売れ行きが悪くなり、やがて価格が下がるという、時間のかかる低下プロセスをとる。不動産市況の悪化の速さを考えると、このまま進むと「金利逆転から1年〜1年半後に不況に陥る」という、時代遅れになったはずの定理どおりの展開になる可能性がある。
● 日本の不動産バブルと似た感じ
住宅価格の高騰は、アメリカの東西の海岸部の人口密集地域で起きており、2000年からの5年間に、ニューヨークでは77%、マイアミでは96%、サンディエゴでは118%値上がりした。半面、平原地帯で土地に余裕がある大陸中央部のヒューストンでは26%、アトランタでは29%しか値上がりしていない。不動産バブルが崩壊するかどうかは、ニューヨーク、マイアミ、ニューヨークといった高騰地域の価格動向にかかっている。
これらの高騰地域では、平均的な住宅が、すでに人々の年収で買えない金額まで上がってしまった。カリフォルニア州の不動産協会が1月中旬に発表したところによると、同州では平均的な住宅を無理なく買える年収を持つ人の割合が、一昨年には人口の19%いたのに対し、今は値上がりの結果14%の人々しか買えなくなっている。(現在の平均的な住宅価格は54万8000ドル【約6200万円】で、これを無理なく買うために必要な年収は13万3000ドル【約1500万円】)
ニューヨークでも、少し前まで60万ドルだった家が80万−90万ドルに値上がりし、一般の人々の手に届かなくなった。建設資材も高騰し、 1立法ヤードのコンクリートの価格は04年の50ドルから、最近では75ドルに上がり、ニューヨークやマイアミでは、資材高騰のためマンションの建設計画を中止する業者が出てきた。
日本の大都市では1980年代後半に住宅価格が高騰し、東京では一般的なサラリーマンが2時間の通勤を覚悟しても家を買えないほどの高値まで上がったところで、バブルが崩壊して住宅価格が下がった。アメリカの沿岸大都市の住宅高騰は、完全にバブルの状態であり、いずれ崩壊する運命にある。
住宅価格が上がっても賃貸料は追いつかない現象も顕著で、サンディエゴでは、家を借りる人は買う人の4割のコストですむのに、それでも家を買おうとする人々が多く、昨年まで、即日完売の新築住宅が多かった。多くの人々が「まだまだ値上がりするから、高くても今のうちに買った方が良い」と考えている。これは、明らかに崩壊直前のバブルである。
● アメリカの不況は世界の不況
住宅価格が下落していくと、金融機関がローンを返せなくなった人から担保の住宅を取り上げて競売にかけても、貸した金の何割かしか取り戻すことができなくなり、金融機関も不良債権を抱え、相次いで破綻する懸念がある。
ここ数年の米経済の景気回復は、不動産の価格が上がることで、その信用力をテコに人々は金を借りて消費し、それが米経済を成長させてきた。日本や中国が作った商品がアメリカで良く売れたのも、不動産が牽引するアメリカの消費拡大があったからである。
アメリカの不動産市況が崩壊すると、アメリカの消費全体が冷え込み、もう日本や中国など世界からの輸出品を気前良く買ってくれる市場ではなくなる。アメリカが不況に陥ると、アメリカに輸出することで経済成長を遂げていた日本や中国など、世界経済の全体が悪化することになる。ニューヨークやマイアミでマンションが売れなくなることは、世界不況の引き金を引きかねない。
90年代の日本の不動産バブル崩壊と、今起きかけているアメリカの不動産バブル崩壊の重大さの違いは、世界への波及である。日本のバブル崩壊は、日本人を困らせただけだが、アメリカのバブル崩壊は、世界中の人々を困らせる。
アメリカでは、不動産の前には株式市場が好調で、1990年代には、人々は株を売買した儲けで消費を拡大していた。それを考えると、不動産の後に、何か別の新しい信用創造メカニズム(与信枠を拡大する仕掛け)が発案され、まだ米国民が消費できる状況が続くかもしれない。しかし、そのメカニズムはまだ見えていない。
米国民はすでに、5年間で住宅ローンの借り入れを80%増やし、クレジットカードの借り入れも60%増えた(この間に給料は34%しか増えていない)。クレジットカードの返済が滞っている人の割合は5%近く、史上最悪となっている。もはやアメリカは、国民も政府も消費しすぎて借金漬けである。今後、新しい信用創造メカニズムが発案されたとしても、延命できるのはあと何年かであり、いずれ消費できなくなる。
● ドル安でも米製造業は復活しない
アメリカで消費の勢いが減退し、日本や中国がアメリカに輸出できなくなると、日中の中央銀行が為替を維持するために米国債を買いまくる必要もなくなる。国債を買ってもらえなくなると、アメリカの長期金利が上がり、この要素も米経済の足を引っ張る。輸出国がドルを保有しなくなると、ドルの為替も下落する。
ドルが安くなると、アメリカの製造業が輸出を復活し、米経済は再生するという見方もあるが、これは間違いである。確かに、円とマルクを政治的に上げてドル安にした1985年のプラザ合意以後は、まだアメリカの製造業が強かったので、米経済は復活した。当時、たとえば自動車産業3社の中では、クライスラーは潰れかけていたが、他の2社は健全だった。ところが今は、GMとフォードという残りの2社も、潰れかけている。
アメリカが誇っていた軍事や原子力でさえ、ボーイングは不振だし、ウェスティングハウスは東芝に買収されようとしている。ITの情報産業も、発祥地のアメリカから、プログラマを安く雇えるインドや東欧など世界中に移転している。もはやアメリカの製造業は全体として壊滅状態で、今後復活できたとしても非常に長い時間がかかる。為替がドル安になっても、アメリカは世界に売れる製品を作れなくなっているので、輸出はあまり増えそうもない。
欧米の新聞やネット上の分析記事を詳細に読んでいくと「アメリカ発の世界大不況が起きる」という予測にときどき出くわす。その頻度は、イラク侵攻が取り沙汰されるようになった2002年夏ごろから増えたように感じる。これらの予測は従来、誇張された見方だとみなされることが多かった。
たしかに、ブッシュを嫌うようになった投機家のジョージ・ソロスは、04年初めには「米経済は今年は好調だが、来年には破綻する」と予測していたが、米経済は05年も破綻しなかった。ソロスは最近また「今年は良いが、来年は破綻する」と同じパターンの予測を繰り返している。
このような予測の繰り返しは「オオカミ少年」的であり、人々の信頼を損ねる。しかし、現実の米経済が、政府と国民の借金が消費に回って延命しているだけだと分かれば「もう長続きはしない」と考えざるを得ず、毎年「今は良いが、来年は危ない」という予測が出される背景が理解できる。
● 住宅バブルを煽り,景気を回復させたグリーンスパンの退任
アメリカ経済は、住宅バブルという延命策で持続しているわけだが、住宅バブルの拡大は、金融当局が煽った部分がある。
金利連動型や利払い先行型ローンの急拡大についてはすでに説明したが、バブルの発生を防ぐのが任務である中央銀行総裁のグリーンスパン連銀議長は04年に、これらのローンに関して「住宅購入者にとって、ローンの選択の幅が広がることは良いことだ」とコメントし、バブルの拡大を煽っている。グリーンスパンはその後、多くの専門家が住宅バブルへの懸念を表明するようになった05年8月になって、ようやく曖昧な言い回しで住宅バブルの危険性を指摘し始めた。
経済学者のポール・クルーグマンMIT教授によると、連銀のグリーンスパン議長は、2001年には、危険な財政赤字拡大につながると知りながら、ブッシュ政権が打ち出した大減税を支持しており、巨大な赤字が専門家から批判されるようになった後に、ようやく大赤字の危険性について曖昧に語り始めるという経緯をとっている。
財政赤字の拡大は、911後のテロ対策で政府の出費が急増したためと説明されているが、全米各地の州や市町村が使ったテロ対策予算の中には、テロ対策とはほとんど関係ない設備の購入やイベント開催などが大量に含まれており、テロが起きそうもない地方の小さな町で巨額の予算が使われていたりする。テロ対策とは名ばかりの予算のばらまきになっており、この公的支出の増加が全米の経済を底上げしてきた観がある。
つまり、グリーンスパンは、政府がテロ対策の名目で政府支出を急増することを容認し、住宅バブルの拡大を扇動することで、アメリカ経済が何とか成長し続けられるようにした。これらの延命策の結果、今やアメリカでは、政府も国民も借金漬けだ。もう万策尽きてきた観があるが、グリーンスパンは2006年1月いっぱいで連銀議長の任期を終え、引退する。
歴史を振り返ると、1987年にグリーンスパンが連銀議長に就任した2カ月後、株価の大暴落(ブラックマンデー)が起きている。前任者のポール・ボルカーは、自分の任期が終わるまでは何とか株価を持たせ、つけを自分の任期後に回した可能性がある。グリーンスパンは、前任者の残した負の遺産を処理し、その後再び株価は上昇したが、彼自身が引退する今、再びつけを後任者に回すことが繰り返されているのではないかという疑いがある。 アメリカではかなり前から、中産階級が少しずつ没落して貧困層になっていく傾向が続いており、ここ数年、その動きが顕著になっている。
第二次大戦後のアメリカ経済の成長を、第一次石油ショックが起きた1973年を境に前後に分けると、1945年から73年までの平均成長が4・0%だったのに対し、73年から2002年までの平均成長は2・7%である。アメリカは70年代に経済が成熟し、成長が鈍化したことが分かるが、これを人々の所得の面から見ていくと、さらに興味深いことが分かる。
アメリカの全国民を所得順に並べた場合、そのちょうど真ん中に来る人の年収は、1945年から73年までを平均すると年率3・1%増えていたが、73年から2002年までの平均は、年率0・2%しか伸びていない(インフレ分を補正した統計)。
● ハイテク技術だけ維持するのは無理
1980年代以来、米政府は市場原理を重視する自由貿易の経済政策をとり続け、世界からより良い商品が安く輸入されたため、人々の収入が増えなくても、生活の豊かさは改善される傾向があった。だが同時に、アメリカでは市場原理が重視されて国内の産業があまり保護されなかったため、米企業、特に製造業は国際競争にさらされ、人件費の安いアジアなどの企業に勝てず、いくつもの業種が衰退した。生き残った企業も、国際競争に勝つためには人件費を増やせず、その結果、一般的なアメリカ人の収入が伸びないことになった。
1960年代まで、大手米企業、中でも製造業の社員の生活は、世界一豊かなものだった。「アメリカの豊かさ」を象徴するイメージとして、今でも 1950−60年代のレトロな商品が喚起されるのは、その時代が米国民にとって最良の時代だったからだろう。当時のアメリカは、国内で消費する商品の96%を自国内で作っていた。
ところが今や、アメリカは商品の多くを輸入に頼っている。繊維製品の 3分の2は輸入品だし、アメリカの製造業はテレビも冷蔵庫も自国では作っておらず、日本や韓国などのメーカーに頼っている。自動車産業も、ここ数年の原油高騰でガソリンの値上がりが続き、人々は燃費の良い自動車を求めているのに、GMとフォードは効率の良いエンジンを開発してこなかったため、売り上げを日本車や韓国車に奪われ、倒産寸前である。
米製造業の状況について「アメリカはハイテク技術の部分だけを国内でやり、他の重要でない部分はアジア諸国に任せたのだ」と考えられないこともないが、多分それは違う。製造業の技術の多くは、製造現場での試行錯誤の中で磨かれていくものであり、アメリカに工場を持たないで、アメリカの技術を高度化していくことはできない。工業用ロボットや半導体製造装置など、製造業関係のハイテク技術の多くは日本が持っており、アメリカが持っている産業技術は防衛や薬品などごく一部の分野に限られている。
アメリカの雇用全体に占める製造業の割合は、60年代には30%以上だっ たが、最近では10%以下で、2000年からの5年間で18%も雇用が縮小した。アメリカの製造業はまさに死滅しつつあり、それは貿易赤字の増加につながっている。アメリカの貿易赤字の大半は、工業製品の輸入によって生み出されており、製造業が衰退しているので貿易赤字はドル安になっても減っていない。
● 「経済のサービス化」は言い訳
製造業は生産設備を持たねばならないので、サービス産業に比べて投資効率が悪い。アメリカでは80年代から「製造業はもう古い。経済をサービス業中心に転換すべきだ」というかけ声が強まり、金融業などが伸びた。アメリカの製造業の衰退は、経済が進化してサービス業中心になった証拠であるから悪いことではない、という考えもできそうだが、多分これも違う。日本を見ると、この20年ほどサービス業が伸びたが、製造業も衰退していない。アメリカで一時喧伝された「経済のサービス化」は、実は自国の製造業を保護しないための言い訳として発せられた観がある。
日本の消費者が買う家電品、自動車などの商品の多くは日本企業の製品であり、日本政府はいろいろな非関税障壁を設けて国内製造業を保護している。独仏や韓国なども、同様の傾向を持っているが、国民の雇用を守るため、各国の政府が国内市場で自国のメーカーの利益を保護したがるのは当然である。
むしろ、アメリカが戦後一貫して国内製造業を保護せず、国内消費市場を外国企業に気前良く開放し続けてきたことの方が「自滅的」であり、奇妙である。アメリカは、気前の良い市場開放の結果、現在の製造業の全滅と貿易赤字の増大を招いているからである。
アメリカの気前の良い市場開放の恩恵を最も受けた国の一つは日本である。ソニーのトランジスタラジオから始まって、パナソニックのテレビ、トヨタの自動車など、アメリカ市場がなかったら、戦後の日本の発展はなかった。西ドイツ企業も、フォルクスワーゲンなどの対米輸出で儲けたし、80年代以降は韓国、台湾、東南アジア諸国、中国などが、この恩恵を受けて経済発展している。アメリカの市場開放の気前良さがなかったら、戦後の世界経済の発展はなかったと言っても過言ではない。アメリカは、トヨタや現代を儲けさせ、その結果、GMやフォードが潰れかけている。
アメリカのすごいところは、この気前の良い市場開放の犠牲になったのが米国内製造業だけではなく、国内製造業が衰退した後、国民と政府に借金をさせてまで消費させ、海外から商品を買い続けている点である。住宅バブルによる消費熱のツケが、米国民に借金増としてのしかかってきているし、ブッシュ政権になってからの政府の借金(財政赤字)の急増も、国内消費の下支えのために使われている。アメリカは30年かけて、製造業を失った上に借金漬けになり、破綻しかけている。
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