女の世紀を旅する
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2002年12月12日(木) |
北朝鮮包囲網の形成と韓国の大統領選挙 |
《 北朝鮮包囲網の形成と韓国の大統領選挙 》
2002.12.12
北朝鮮が核開発を認めてから2ヶ月余、日米韓中ロ5カ国が開発放棄を求めて足並みを揃えた。IAEA(国際原子力機関)も査察を要求する決議を採択した。米国は燃料用の重油供給を停止し、国際社会も食糧支援を手控えている。これに対し、北朝鮮は査察を拒否し、核問題は米国の捏造と主張し始めた。追いつめられた国家は自暴自棄の挙にでるというのが歴史的教訓である。いよいよ,対決激化は必至の情勢となっている。
●核開発放棄で北朝鮮包囲網の形成
中国の江沢民、ロシアのプーチン両首脳は12月2日、北京で会談したあと共同声明を発表し、「北東アジアの安全保障にとって朝鮮半島の非核状態の維持と大量破壊兵器の不拡散が大切である」と強調した。北朝鮮を背後から支えてきた中国とロシアが日米韓3国と歩調を合わせ、核開発の放棄を要求したのである。アーミテージ米国務副長官は12月9日、東京で記者団に「日米韓中ロ5カ国が北朝鮮を包囲した」とこの動きを評価している。
並行して北朝鮮に対する圧力も増した。ブッシュ政権は11月のKEDO理事会の決定を経て12月から燃料用重油の供給を停止した。一方、IAEA(国際原子力機関)も11月29日の理事会で、北朝鮮に対して査察の要求を満場一致で決議した。また、特使をIAEA本部に派遣して事情を説明するよう要求 した。
国際社会の世論も北朝鮮に厳しくなった。WFP(国連食糧計画)は02年度の食糧支援61万トンを国際社会に呼びかけたが、11月までに集まったのは目標の半分である。また、03年度は51万2000トンを呼びかけているが、申し出は3万3000トンしかない。このままでは配給が来年早々から大幅にカットされ、市民数百万人に影響が出るのは必至だ。
ブッシュ政権は02年度、15万5000トンを拠出したが、03年度については未定という。日本も11月に来日したWFPのモリス事務局長に対して、国交正常化後でなければ援助はできないと伝えた。一方,社団法人の日本外交協会がビスケットを送ったとして激しい非難を浴びた。拉致問題などでとても支援を約束できる雰囲気ではない。
●北朝鮮は査察を拒否、核開発は米国の捏造と主張
北朝鮮の白南淳外相は12月2日、IAEA理事会に手紙を送り、査察と特使の派遣を拒否した。理由はIAEAが「北朝鮮を孤立させて圧殺しようとする米国に操られて、一方的にわが国の核開発放棄と査察要求を決議した」というものだ。同時に北朝鮮は米国に認めた核開発計画についても前言をひるがえし、核問題は米国の捏造と主張するようになった。
ケリー米国務次官補によれば、北朝鮮が最初に核開発を認めたのは10月4日、同次官補と姜錫柱第一外務次官の会談の席だった。同次官補が前日の会談で米情報機関が収集した証拠を突きつけると、姜第一外務次官は初め否定したが、翌日になって認めたという。しかし、その後北朝鮮の関係者の発言やメディアから核開発を認めるような表現が次第に消えるのだ。
北朝鮮の外務省スポークスマンは10月25日、「北朝鮮は核兵器だけでなく、他のより強力な兵器も持つ権利がある」と述べ、核開発を認めるともとれる発言をした。しかし11月2日になると、同スポークスマンは「相手(米国)の侵略・脅威が現実化している状況のもとで、わが方がすべての手段を動員して各種兵器を製造し、武装するのは当然」と述べ、核兵器という言葉を落とした。
さらに11月28日の朝鮮中央放送は「米国はありもしないわが方の核問題を持ち出して引き続き騒動を繰り広げている」と強調し、核開発を「ありもしない」と否定する。また、同30日の労働新聞は「わが方の核問題とは、米帝がわが共和国を孤立させ圧殺するためにつくり出した完全な捏造品である」と主張した。核開発問題は、ケリー次官補の訪朝時の説明とは百八十度違う捏造という主張になってしまう。
●テポドン・ミサイルの発射実験再開を示唆
この北朝鮮の姿勢の変化は、ミサイルの発射実験問題にも現れる。外務省スポークスマンは11月5日、「わが国の当該部門がミサイル発射凍結の延長措置を再考すべきだという意見まで提起している」と述べ、発射凍結の約束を取り消すかのような示唆をした。この一週間前マレーシアで行われた日 朝国交正常化交渉で、日本側の姿勢に不満だったことが背景にあるのはいうまでもない。
同スポークスマンは11月16日にも、「日本が拉致問題にかこつけて過去清算の約束を蹂躙し始めた以上、我々もミサイル発射問題でこれ以上雅量を示す余地はなくなった」と述べ、ミサイル実験の再開をほのめかした。
ミサイル発射実験は1999年秋のミサイル危機の際、北朝鮮が2003年まで実験を凍結すると約束。さらに9月17日、小泉首相が訪朝して調印した平壌宣言で、2003年以降も凍結を延長すると約束した。訪朝の成果の一つと評価されたが、北朝鮮側はこの約束を反古にし、発射実験を再開すると脅しているのだ。
●米には不可侵条約を条件に核放棄を提案
その一方で、北朝鮮は10月25日、外務省スポークスマンの談話を発表、米国と「不可侵条約を結び、核問題を解決する」という提案をした。その理由として同談話は「米国が不可侵条約を通じて、わが方に対する核不使用を含む不可侵を法的に確約するなら、わが方も米国の安保上の憂慮を解消 する用意がある」と説明している。
北朝鮮は11月初め、ニューヨークの国連代表部を通じてこの米国との不可侵条約の提案を米メディアに配付し、「核開発計画の放棄も含めすべてを交渉の対象にする」と強調した。しかし、11月後半北朝鮮が核開発は米国の捏造と主張するようになってからは、メディアは不可侵条約に対する各国の反響などを伝えるものの、北朝鮮当局者の発言は伝えられなくなった。
これに対し、ブッシュ政権はこの不可侵条約も含め、北朝鮮とのすべての交渉を拒否している。現状で交渉に応じれば、核開発という条約違反に褒美を与えることになるという理由だ。そして、北朝鮮が明確に検証できる方法で核計画を放棄することが先決と主張している。
●ブッシュ政権のジレンマ
ブッシュ政権は北朝鮮との交渉は拒否するものの、核問題を外交的手段で解決するという当初の姿勢を崩していない。アーミテージ国務副長官は12月9日、東京で記者団に「日米韓中ロ5カ国の共同歩調を基礎にして平和的解決をはかる」と強調した。しかし、この姿勢は同政権がイラクに対し てとっている強硬姿勢にくらべ、弱腰すぎるとの批判が米国内には強い。
12月4日ホワイトハウスのフライシャー報道官の記者会見で、記者団から「北朝鮮が核開発を認め、しかも査察を拒否したのに、なぜ米国はイラクと同じような強硬策をとらないのか」という質問が出た。これに対し同報道官の答えは「イラクは過去10年間に国連決議を16回破ったが、北朝鮮は 違う」という、北朝鮮弁護と聞こえかねない歯切れの悪いものだった。
ブッシュ大統領自身は金正日総書記に強い不信感を持ち、体制転覆も辞さずと考えていることはすでに周知の事実となった。同大統領が8月20日、ワシントン・ポストのボブ・ウッドワード記者のインタービューに答え、「この男(金正日総書記)を倒さなければならないのだとしたら、誰がそれをするのか」と述べ、米国主導で体制変革が必要だとの考えを強く示唆したのだ。
同時にブッシュ大統領は「北朝鮮に対して急いで行動する必要はないと言う人たちもいる。経済的負担も膨大だと言うのだ」とも述べた。この人々がだれを指すのか、同大統領は明らかにしていないが、米国内の一部や韓国、日本などで、性急な行動を戒める意見が強いことを指すとみてよいだろう。
ブッシュ政権が北朝鮮の体制転覆を目指して強硬策に出れば、第二の朝鮮戦争になる可能性も否定できない。在韓米軍、韓国軍に多大の犠牲が出るだけでなく、韓国経済が大打撃を受け、影響は日本にも及ぶだろうし,戦後の復興に膨大な経済的負担がのしかかる。強硬策の危険を考えれば、日本や韓国が慎重になるのは当然である。しかし,米国としてはいずれにしろ,このまま国際社会に歯向かう北朝鮮の脅威をほっておかないだろう。
●カギを握る韓国の次期大統領
もう一つ、ブッシュ政権の政策に今後大きく影響するとみられるのが、韓国の大統領選挙の結果である。与党新千年民主党の盧武鉉候補、野党ハンナラ党の李会昌候補の2人が立候補している。投票は12月19日だが、どちらが勝っても不思議ではない接戦だ。しかも、選挙戦と並行して反米デモが全土に拡大、その成り行きが選挙結果を左右することが確実な情勢なのだ。
反米デモの原因は女子中学生2人が米軍装甲車にひき殺された事件にある。韓国政府は運転していた軍曹2人の身柄引渡しを求めたが、米軍は公務中の事故を理由に拒否した。11月20日、米軍事法廷は2人に過失なしと認め無罪釈放を言い渡した。これに韓国世論が猛反発し、各地にハンストとデモの波が広がった。
このデモで有利になったのが、ほかならぬ与党の盧武鉉候補で,金大中大統領の民族主義的傾向を継承し、北朝鮮融和政策(太陽政策)を主張している。ブッシュ政権の強硬策とは相容れないが、これが沸き立つ反米世論の支持を獲得して一時の劣勢を挽回し、親米の野党李会昌候補を支持率でリードしている。
ブッシュ政権は金大中政権の太陽政策に非常に不満で、親米的な野党の李会昌候補に期待している。同候補が次期政権を組織すればブッシュ政権と共同歩調を合わせることは確実と思われたからだ。しかし、選挙戦の現状では、与党が政権を維持し、現在の北朝鮮融和政策を継承する可能性が高い。核開発問題も対話と和解の精神を重視することになりそうだ。ブッシュ政権が強硬策をとろうとすれば、韓国新政権がブレーキ役になりかねないのだ。 そうなればブッシュ政権にとってジレンマとなろう。
●来年春、核問題は国連安保理へ
北朝鮮が核開発の放棄に応じず、査察を拒否し続ければ、IAEAは次の手段として問題を国連安保理にゆだねることになる。今のところその時期は来年の3月以降とみられている。これを機に、ブッシュ政権は北朝鮮の核疑惑の包括的な解決を目指すことになる。
北朝鮮は今回の核開発計画の他、1994年の米朝枠組み合意以前にもプルトニウムを抽出、その後これで核爆弾1〜2個を製造したと米情報機関は断定している。この件について、北朝鮮は枠組み合意締結の際、建設する軽水炉の重要部品の引渡し前、IAEAの完全な査察を受けて疑惑を解消すると約束した経緯がある。このため、IAEAは今年初めからこの約束の履行を要求しているが、北朝鮮は拒否し続けている。ブッシュ政権はこの問題も含め、国連安保理で包括的な解決を目指すことになるとみられるのだ。
問題は、北朝鮮が今後安保理の決議も無視して査察の拒否を続けた場合の対応だ。現在、ブッシュ政権は外交手段での解決を目標に掲げている。しかし、北朝鮮が核開発を放棄しない場合、米国内には軍事行動を視野に入れた強硬策をとるべきだとの主張が出るのは確実である。
一方、北朝鮮と国境を接する韓国、中国、ロシア3カ国は戦争につながりかねない強硬策には同調しないだろう。日本も米軍基地をかかえ、万一の場合には軍事行動の一方の当事者にかりかねない。現在の日米韓中ロの包囲網にも限界があるのだ。
韓国次期大統領の有力候補盧武鉉氏は12月10日、ロイター通信の質問に答え、「核問題は圧力ではなく、時間がかかっても期限を切らず、対話で双方の脅威を削減しながら解決する」と述べ、強硬策に反対している。
しかし,ブッシュ政権にとっては韓国の太陽政策の破綻をなんとか現出させ,強圧的に北朝鮮の体制打倒にもっていきたいだけに,今度の大統領選挙の行方に重大な関心を払っているはずである。
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