女の世紀を旅する
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2002年07月03日(水) |
対談 【 日本は必ず甦る 】(その1) 中曽根康弘.石原慎太郎.竹村健一 |
日本の優れた能力と技術を世界に向けて発信せよ!(その1) ★出演者:中曽根康弘氏 石原慎太郎氏 牛尾治郎氏 司会 竹村健一 (2002年5月14日の座談会から)
●日本は必ず甦る!
竹村: かつてGE(ゼネラル・エレクトリック)を世界一の株式時価総額を誇る企業にまで再生させた前会長のジャック・ウェルチ氏は、こういうことを語っています。
「誰でも長期だけを見ることができる。誰でも短期だけを見ることもできる。重要なのは、両方見ることだ」
有名な経営評論家ピーター・ドラッガーもこういうことを語っています。
「優れた人物に見られる共通的な特徴は、長期と短期のバランスを取ることだ。ひとつの目は歴史の彼方に、もうひとつの目は足許の現実を」
今日は日本の将来、そして日本のいまについて、長期と短期の観点からお話していきたいと思っているので、よろしくお願いします。
最近、ブッシュ政権の最も大きな力となっているハドソン研究所から『超大国日本は必ず甦る』(徳間書店刊)という本が出た。この本を読んで私がうれしく思ったのは、日本は1500年ずっと世界のファーストクラスのレベルの国であった、ということが書いてあること。平安時代に、たとえば『源氏物語』のような素晴らしい文学があった。
こうした高度な文化は生活レベルが高くないと出現しないということで、日本は1000年以上にわたって、中国やヨーロッパと同レベルの生活を維持してきたのだ。そういうことは、経済の面でも優れていないとできないだろう、といったことを書いてきて、「1000年以上もそうしたレベルを保ってきた国が、この10年ほど不景気だからといって潰れると思うほうが間違っている。日本は必ず21世紀の世界をリードするであろう」と、こういうことをハドソン研究所の8人の研究員が集大成として語っている。
これを読んで、安心しましたよ。日本がそう簡単に潰れるわけがないと思う。しかしながら、日々のマスコミの力は大きくて、これだけ毎日のように、「今日もアカン」「明日もアカン」ばかり報じられていたら、段々心配になるのではないでしょうか。
●日本の国家像を示す時期
中曽根: 遠い将来の話というよりも、近い未来の話として聞いていただきたいのですが、20世紀から21世紀になり、日本はどこに行くのだろうか。20世紀とは違った時代に入ったのだと思います。
まず、その象徴は小泉内閣の出現でしょう。派閥を乗り越え、自民党の悪口を言って国民から80%の支持を得た総理大臣というのは、いままでの政治の延長ではあり得ないことです。そのように変わってきたけれど、21世紀の日本の国家像、日本はどういう国になるのかということをつくっていくプロセス(過程)を小泉くんは明らかにしていませんね。
割合、テレビへの反応には敏感ですけれど、そうした中長期の路線というものをもっと明示しなければならない。その端緒が出てきているのは安全保障の問題だ。たとえば有事立法をやろう、集団的自衛権の問題を解決しようと声は出ているけれど、いままでの日本にはない、世界的にも貢献する日本というものがここに現出しつつあることについて、どう思っているのだろうか。
あるいは財政計画について、日本は大きな借金を背負っている。けれども大きな貯金も持っている。それをいかに上手に動かして日本を再建するか。それには、毎年13兆円の赤字が出ているわけですが、その毎年出る13兆円の赤字を10年くらいで消すために財政構造改革10カ年計画みたいなものをつくって努力しよう。
究極的には、憲法改正という問題で新しい日本の国家像を出していこうなど、これからの日本をつくっていくことがわれわれの大きな目標であるし、そのプロセスをどうつくっていこうというのか。
目の前の問題として、内閣の主導力、総理大臣の主導力を強化する必要がある。いままでのやり方ではいけません。どうするかというと、英国流の議院内閣制に完全に転換して、党と内閣が一体になることです。党の要人はほとんど内閣に入り、そして内閣の決めた方向に党も一緒に動いていく。いまの日本は、党の了承がなければ内閣が動けないという状況です。サッチャーさんが10年も首相としてリーダーシップを発揮できたのは、英国のこの制度があったからでもあります。そういう方向で、目の前の問題を改革することです。
恐らく秋には内閣改造とか、そういう問題が出てくることと思う。そういう方向を求めて人心一新、思い切ってやる小泉くんであってほしいと私は念願している次第です。
●自分の方法論を持つ政治家が出ないと駄目
石原: 私も日本の将来については、さほど悲観的じゃないんですよ。相対的に見ても、他の国と日本を比べてみて、日本はそんなに力がないのかというと、他の国にはない力をたくさん持っている。預金量はある。第一、外国からの借金がない。アメリカ国債を一番買ってやっているのは日本だし、人が良いのか馬鹿なのか知らないけれど、水爆をつくって、有人の宇宙衛星を上げようなんていう中国にまだODAを出してやっている。こんなお目出度い国は他にはないよ。
それから技術は非常に画期的なものを開拓していますし、子供のゲーム機に使われているマイクロチップなんて、アメリカの宇宙船に使われるよりも進んだマイクロチップを使っていたんでしょう。
その他この他、日本には相当なポテンシャルがあると思うし、このあいだ私は2日ほどシンガポールに視察に行ったんだけれど、世界でも進んだ教育をやっているし、港湾の運営などでも凄いことをやっている。これらのソフトやハードは日本製。またダウンタウンの道路の混雑を避けるために自動車の流入制限をしているんだけど、自動車についている小さなセンサーも、上のゲートの複雑な器機も日本製ですよ。
ご一緒した、東京都のアドバイザーになってもらっている唐津一さんは、 「うーん、とにかくぼくがつくって、ぼくが相談に乗ってやったことを全部上手くやっている」と、唸っていたくらいだ。こうした素晴らしいものを日本はつくっているのに、なぜ行政は日本のために使わないのかわからない。役人はものを考えることができない、これは運営者だから仕方ないけれど、これを束ねる政治家の見識がないからできないんだ。
物事は歴史に限らず、複合的、重層的なもので、そういう認識で多元的に捉えるために長期と短期の展望がいるわけです。
後藤新平という素晴らしい政治家がいた。この人は総理大臣にならなかったけれど、日本でも傑出した政治家の1人とされている。なぜなら自分の方法論を持っていたからですよ。医者だったために、物事を判断するときに疫学的な観点と、臨床的な観点の2つを合わせてやれたから、非常に効果のある行政を行えた。こういう政治家がもっと日本にほしいけれど、いませんな。
●日本の力を政府はもっと有効活用せよ
竹村: 英経済紙『フィナンシャル・タイムズ』で、「日本にはたくさんプランはある。けれども実行する意思はあるのか」と問いかけている見出しの記事があったけれど、いまのシンガポールの例は非常にわかりやすくて、日本から技術もいったし、動かし方もいった。けれども肝心の日本でそれが実行されていない。そうした面で、おかしいと思われる点はありますか?
牛尾: 日本が悪い、悪いというのが流行っていますけれど、現実に先進国で貿易収支の黒字が10兆円近く依然として続いているのは日本だけなんですよ。それを支えているのが、従業員にして約500万人、日本人全体の7〜8%。日本中には500万社あるけれど、世界の市場相手に競争している企業は約700社。この700社の生産性は、アメリカを100とすると120あるんですね。残りの日本企業の生産性は63。地方に行くと、これが50くらいになります。
しかし、500万人の従業員で支えているこれらの企業は、あと5年や10年は充分に競争力を維持できるでしょう。だから、あと10年のあいだに、次の競争選手をつくらないといけない。規制をどんどん撤廃して、民間に自由にやらせてもらえれば、これから新たに環境関連だ、ナノ・テクノロジーだといった分野で充分にやっていけるものと思いますがね。
貿易収支を稼いでいる企業のほとんどは政府援助を受けていないし、税金は実質43〜44%払っています。これはヨーロッパよりも10%高いし、アジア各国より20%高い。ですから、これから工場をつくる場合は、これほど税金の差があるならば外に出ようとする企業が出ても仕方ないかと思うから、6月に経済財政諮問会議が小泉さんに出す提言は、そうしたことを踏まえた税制改正案と、経済活性化案、15年度予算の構想になると思います。
こうしたことを小泉さんが全て取り上げてやれるかどうかは、われわれの手の及ばない範囲のことですけれど、中曽根さんがおっしゃるように、官邸主導型に変わらない限りできないかもしれませんね。
いま日本の海外投資高は約2兆ドルで、そこの収入が貿易収支を上回ってきているんですよ。そういうことで、どこから見ても日本は、民間のやっている企業集団はわずかではあるけれど十分に競争力を持っている。それを政府が有効に活用しなければいけません。
●内閣に実力者を入れ,政策のスピードアップを
竹村: 中曽根さんは、昨年小泉政権誕生のときから、内閣に思い切って党の実力者を入れるべきだ、という話をされていました。ようやく小泉さんも、その気になってきたと思いますか?
中曽根: わかりませんが、その必要性は感じてきたと思いますね。何しろ、重要法案といわれているものが、今国会に間に合わないという。牛尾さんがおっしゃった財政構造改革の10年計画、その基本を成す税制改革、これは本当はもっと早くやっておかなければならないものだった。全般を見ると、スピードが遅すぎます。
石原: 遅いですなあ。
中曽根: 税制改正なんて昨年の10月にやっておかなければならなかった。それでようやく間に合うのに、今年の12月までにやろうなんていっている。1年遅れているんだ。他の仕事を見ても遅い。これはなぜかというと、主導力が弱いからだ。ここを改革できるかどうかに、小泉内閣や日本の命運がかかっていると私は思う。
竹村: 相当強く、中曽根さんはおっしゃっておられたけれどね。
石原: ぼくはその会合に欠席したけれど、激しいやり取りがあったようだね。
竹村: そうね。だけど中曽根さんは、小泉さんには気力があるとおっしゃっていた。気力は必要だけど、それに対して作戦がないといかんので、そして作戦を司々(つかさつかさ)の人に動かしてもらわないとならない。中曽根さんが指摘しているのは、そこのところだよ。
牛尾: それと認識ですね。20世紀後半と、これからの社会環境は違うわけですよ。石原さんが都知事になられて、新しい発想で政治に取り組んだわけです。ですから、国の政治もこれまでと違う発想で取り組んでもらわないといかんのですよ。
続く
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