女の世紀を旅する
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2002年03月10日(日) |
北朝鮮の悲劇4 北朝鮮のミサイル脅威 |
《北朝鮮の悲劇4 北朝鮮のミサイル脅威》 2002年3月10日
●北朝鮮のミサイル開発の脅威
北朝鮮が1998年8月31日に発射したテポドンミサイルが,従来にない新型の三段式とわかり,弾頭が日本列島をはるかに越えて三陸沖へ1500キロも飛んだことから,北朝鮮のミサイル技術は意外と高そうだ言われ始めた。
しかし,北朝鮮のテポドン・ミサイルの原型は,1983年にスカッド・ミサイルB(射程距離300キロ)をエジプトから購入し,それに多少の改良を加えながらコピー生産したもので,エジプトは1973年にソ連からこのスカッド・ミサイルBを提供されており,それゆえ最初にスカッド・ミサイルが開発されたのは,1960年代のソ連の技術水準ということになる。命中精度も高くはないのである。
とはいえ,現在までスカッドやノドン・ミサイルが生き続けてこられたのは,第一にどこの国も弾道ミサイルを防ぐ方法を開発できなかったからで,よくいわれることだが,真上からマッハ5程度の高速で落下してくる弾道ミサイルを迎撃するには,自分に向かって飛んでくるピストルの弾に,こちらのピストルの弾を命中させるような技術が必要なのだ。さらにこれらの旧式ミサイルなら,安価に簡単に生産できるというメリットがあり,北朝鮮でも製造できたのである。
北朝鮮のスカッド・ミサイルの改良と生産に,開発援助を提供したのはイランであった。イラン=イラク戦争(1980〜88年)の際に,射程300キロの北朝鮮製のスカッドBを100基購入したことがある。 さらに北朝鮮は推進部分(ブースター)を大型にして,射程を500キロ程度に延ばしたスカッドCを開発し,イランとパキスタンとシリアに輸出して外貨を稼いだ経緯もあった。そのスカッド・ミサイルの胴体部分をさらに拡大させ,推進燃料(液体)を多く積めるようにしたのがノドン・ミサイルだ。ノドンのことを朝鮮語で「労働」という言葉だと思っている人が多いが,本当は地名で咸鏡北道清津市の盧洞にあるミサイル実験場からつけられた名称である。
このノドン・ミサイルでは射程を1000キロ程度に延ばし,弾頭重量も1トンにしている。たしかに性能は向上したが,高度な技術が必要な慣性誘導装置を改良して命中精度を向上させることは出来なかった。ノドンの命中精度は,2200メートルから4600メートルと悪く,ナチスドイツがイギリスに向け4300発も発射したV2弾道ミサイルと同じレベルということになる。アメリカの新型の巡航ミサイル誘導技術なら,2000キロ飛行しても命中精度は10メートル以内で,ピョンヤン市内に住む金正日(キムジョンイル)の邸宅の寝室を狙って発射したら,はずれて隣の部屋のバスルームに命中する程度の誤差にすぎない。ミサイルの精度に雲泥の差がある。
●北朝鮮の弾道ミサイルに対するレーダー実験
1998年 11月初め、アラスカの沖合いにあるアメリカ領のコーディアック島(Kodiak Island)から太平洋に向けて、テスト用のミサイルが発射された。アメリカ中の軍事レーダーが、このミサイルをどのように捉えることができるかを、確認するためのテスト実験だった。 この実験はアメリカ国内だけで行われたが、その意味は、日本や韓国など、東アジアに住んでいる人々にとって、見逃すことのできないものだ。発射されたミサイルのコースは、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)からロサンゼルスに向けてミサイルを発射したときに通るコースの一部だった。
米軍は、北朝鮮がロサンゼルスにミサイルを撃ち込んだ場合に、アメリカのレーダー網がどのくらい早く的確にミサイルの飛来をキャッチできるかを調べたのである。
8月末、北朝鮮が日本上空を通るコースで弾道ミサイルを打ち上げたとき、日本では「北朝鮮のミサイルで殺されてしまうかもしれない」といった論調があふれ、国中が危機意識を高めた。だが、アメリカ政府のそのときの反応は、冷静、または冷ややかなものだった。
「北朝鮮がミサイル攻撃の実験をした」と激怒する日本に対してアメリカは「ミサイル実験ではなく、人工衛星の打ち上げかもしれない」という情報を流し、日本側の興奮に冷や水を浴びせた。 このときアメリカ(クリントン政権)が日本側の危機感を鎮めようとしたのは、北朝鮮が孤立化を強めて、自暴自棄的な攻撃に出ないよう、北朝鮮の行為に対して寛容な対応を取るという融和政策をとっていたからだった。
ところが、それから2ヶ月、アメリカは、自らの融和政策の効果に対して疑問を抱くようになった。融和政策を続けても、北朝鮮の外交上の危険さは増すばかりだ、という考え方がアメリカ側で強くなった。その表れのひとつが、冒頭で紹介した対ミサイル防空演習につながったのである。
●北朝鮮の「金よこせ」戦略に負けたアメリカ
アメリカの北朝鮮に対する融和政策の中心にあるのは、1994年にアメリカと北朝鮮が結んだ軽水炉建設をめぐる合意だ。この合意は当時、自前の原子炉を建設してプルトニウムを抽出し、核爆弾を作ろうとしていた北朝鮮の計画を、止めさせるためのものだった。
「原子炉建設を止めたら、電力不足におちいる」と主張する北朝鮮に対して、アメリカは、プルトニウム抽出がほとんど不可能なアメリカ型の軽水炉を作ってやるから、自前の原子炉を取り壊せ、と提案した。 さらに、軽水炉が完成するまでの間の電力不足を補うために、北朝鮮に対して石油を無償援助すると約束した。
ところが、この協約には「ミサイル」に関する項目がなかった。核弾頭は作れないようにしても、ミサイルがあれば、その先に化学兵器や通常の爆弾を取り付けて撃てば、日本や韓国、そしてアメリカを攻撃することができる。
北朝鮮はミサイル開発に力を入れ、パキスタンやイランなどに輸出した可能性が強い。今年、パキスタンが核実験を成功させた後、アメリカは北朝鮮に、ミサイル開発を止めるよう求めた。だが、北朝鮮の答えは「ミサイルを売らないと、国民を食わせていけない。5億ドルくれたら、考えてもいい」というものだった。アメリカは、金を出すことを断った。
さらに、1998年の夏以降、北朝鮮が新たな核施設を作っているのではないか、という疑惑が持ちあがった。 アメリカの偵察衛星が、北朝鮮の自前の原子炉がある地域の近くで、巨大な穴が掘られ、土木工事が進められていることを発見した。これは、新たな核兵器開発の施設かもしれない、ということで、アメリカは北朝鮮に対して、この穴を査察させるよう求めた。
ところが、北朝鮮の答えはまたもや「査察させる代わりに、3億ドルをよこせ。それから、もし査察の結果、核兵器用の施設ではないことが判明したら、北朝鮮の国家の名誉を傷つけた損害賠償として、別途金を出すという契約書にサインしなさい」と言ってきた。
1994年の合意書には、アメリカが北朝鮮の核疑惑施設を査察できる、という条項もまた、なかったのである。アメリカは北朝鮮の「金よこせ」戦略に対抗できず、黙るしかなかった。
●北朝鮮軍の弱体化を突いて「北進」?
しかも、実は94年の合意事項を守っていないのは、北朝鮮ではなくアメリカの方だった。 アメリカでは、北朝鮮にあげると約束した石油を買うための予算案が、共和党の反対によって議会を通らず、その点で北朝鮮との約束を守れないままになった。94年の合意だと、北朝鮮は、約束どおり石油を受け取るまでは、自前の核開発を続けても良いことになっていた。
つまり、石油に関する約束をアメリカが守れない以上、北朝鮮の巨大な洞窟の中で作られているものが核施設だったとしても、合意違反とならないのである。 こうしたことが重なった結果、アメリカ政府は、94年合意に書いてあることを実行しないという選択肢を検討するようになった。つまり、軽水炉も完成させないし、石油もあげない、ということだ。
その一方でアメリカ軍は11月、「北朝鮮軍の力は、以前よりはるかに弱くなっている」という報告書をまとめた。 かつて米軍は、北朝鮮軍が38度線を突き破って南下してきたら、米軍と韓国軍が反撃して、北朝鮮軍を38度線以北に後退させるまで3〜4週間かかる、という予測を出していた。
だが、冷戦終結後の10年間で、北朝鮮では武器のスペアパーツが不足し、食糧不足もあって、軍事訓練も以前の半分から4分の1しか実施できていない。そのため今、北朝鮮軍が攻めてきても、ほとんど南下しないうちに米韓連合軍によって叩きつぶすことができるだろう、と報告書は述べている。
この報告書からは、「北朝鮮軍は弱くなったから、こちらから攻撃してつぶすこともできる」という米軍の隠された主張を、読み取ることができる。
●米の北朝鮮への「ミサイル撃ち込み」戦略の可能性
こうした論調と歩調を合わせるように、98年11月末に韓国を訪問したクリントン大統領は、スピーチの中で「北朝鮮はイラクと同じくらい危険な存在だ」と述べた。 これも、うがった見方をすれば、イラクと同じくらい危険な存在だから、アメリカが北朝鮮にミサイルを撃ち込んだとしても、それは正当化できることだ、という表明として受け取ることができる。
これはまた、アメリカがイラクに対して、経済封鎖を続けてサダム=フセイン政権に対するイラク国内の反感をあおるという、これまでのイラクへの封じ込め政策を止めて、代わりにイラクの軍事施設などを、公海上に浮かべた米軍艦から直接巡航ミサイルで攻撃する方法に変えていく戦術と同じやり方に近い。 とはいえ、中東と朝鮮半島とでは、事情が全く違う。朝鮮半島は、1950年代の朝鮮戦争以来の戦争状態が、休戦のままで今も戦争は終わっていない。そして、戦争状態という不安定な基盤の上に、経済成長を遂げた韓国が乗っている。
同時テロ以来,好戦的となったブッシュ政権(2001年1月発足)のアメリカが言い掛かりをつけて,北朝鮮に一発ミサイルを撃ち込めば、再び朝鮮半島全体が、本格的な戦争になってしまう可能性が大きい。 北朝鮮はすでに、アメリカの対決方針への転換に脅威を抱き、国内で反米・反日キャンペーンを強め、軍は最大限の臨戦態勢を続けている。アメリカにとって戦力が弱体化している北朝鮮を叩くことは恐くない。2002年は「戦争の年」と称しているブッシュ大統領のこと,イラクと北朝鮮に対する対決姿勢を全面に押し出してきている。戦争が起きる確率は高い。
ただし,問題なのは,言うまでもなく中国がその場合どのような出方をしてくるかである。つまるところアメリカの最大の仮想敵国は共産主義政権の中国であり,そのことを安泰ボケの日本人は忘れてはなるまい。
台湾の独立維持を絶対死守すると明言しているアメリカと軍事同盟を結んでいる日本に対する中国の剥き出しの敵対政策もやがて強まってくるのは必至だ。台湾は日本の旧植民地として50年間日本に併合され,その統治がうまくいったおかげで,世界で一番親日的な国となっている。台湾問題は日本としても責任があり,けっして看過できない問題だ。
いまや極東は,北朝鮮と台湾問題の二つの有事をかかえており,日本としても安閑としてはいられなくなった。
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