・主人公・美由紀の造形について
私の場合、自分が書くお話の主人公というのは自分とある程度タイプが似ている場合が多いのですが(なので、ボケてる&ズレてる人ばっか(笑))、今回の主人公・美由紀は、珍しく、自分とはものすごくかけ離れた、正反対に近いタイプでした。 私自身は、子供の頃、完全に空ちゃん側だったので、美由紀のような子は、自分とは一生縁の無い、違う世界の存在のような気がしていました。
前回の覆面作『夢売りの話』では、「普段は女子供ばかり書いているのに今回は成人男子、しかもサラリーマン」ということで、普段とは全然違う主人公を書いたつもりでいたんですが、後からよく考えてみたら、主人公のサラリーマンは、年齢性別はともかく、性格的には、ちょっとぼーっとしたお人好しで、例えば突然異世界に飛ばされちゃってもさほど動じずになんとなくぼんやり受け入れちゃいそうな呑気な天然さんで、結局、いつもの私の主人公のタイプだったのに、女の子であるという点ではいつもと同じな美由紀のほうが、蓋を開けてみれば、私としては珍しいタイプの主人公だったようです。
でも、自分とは何も共通するところがなくて全く想像もつかないと思っていたタイプの主人公だけど、いざ書いてみたら、ウン十ウン年分((^^ゞ)の経験が蓄積された私の脳内データベースの中には、ちゃんと、みゆちゃんの姿もあって。 絶対理解できないだろうと思っていたその気持ちも、なりきって書いてみたら、何か、すらすら分かってくるのです。 ダテに年食ってなかった……(笑)
私、みゆちゃんを、別に特に嫌なヤツに書いたつもりはないのです。 自分で言うほど良い子ではないけど、だからといって、別に、特別悪い子ではない……要するに、普通の子です。 みゆちゃんの言い分には、納得できることも点も多い。 彼女が言ってることは、ほとんどが、それなりに真っ当で、もっともなことのはず。 あえてそいう風に書きました。
この手のお話の場合、主人公がすごく悪い子であるより、読んだ人が「好きにはなれない主人公だけど、彼女の言い分も部分的にはもっともだし、気持ちもある程度は分かる」と思えるほうが、怖いと思うんです。 読んだ人が「自分なら絶対こんなことはしない」と思うようなとんでもなく悪いことをしたり、「こんなことは微塵も思わない」と思うような非道なことを考えたりしている人が酷い目にあっても、ただ良い気味なだけだけど、「もし同じ状況に置かれたら私もちらっとあんなことを思うかもしれない」と思える程度の小さな身勝手や弱さから取り返しの付かない悲劇が起こってしまうというのは、自分の身にも起こりうることだから、怖い。
実際、彼女は、たいして悪いことはしていないんですよね。 夏休みの事件以前には、空ちゃんに対しては、内心うっとおしく思いながらも親切に面倒を見てあげたていだけで、本人が言うとおり何も意地悪なんかせず、むしろずっといじめからかばってあげていたくらいなので、感謝されこそすれ恨まれる筋合いは一切無い(実際、恨まれてませんが)。 夏休みの事件の時だって、ダムに行ったのは本人が言うとおり害意があってのことではないし、これも本人が言うとおり誰も空ちゃんに死ねだの飛び降ろだの言ってないし(言わないだけで内心で思ってたりもしてないし)、予測もしなかった突発的な行動で止める間もなかったのも事実だし。 唯一本当に悪かったのは、黙ってその場から逃げ出したことだけで、それだって、誰かが感想で指摘してくれてた通り、空ちゃんはおそらく飛び降りた時点で即死だっただろうし、もしそうでなくても、走って帰って助けを呼んできたところでどうせ間に合わなかったんだから、逃げ出さなければ悲劇が回避できたかというと、そうでもないわけで。 その後、正直に告白したところで、せいぜい遺体の発見が早まったくらいで、起こってしまった悲劇は取り消せたわけじゃないし。
世間一般の大部分を占める普通程度に善良な人たちは、明確な悪意を持って明らかな悪事を働くようなことはあまりないはずです。 だからこそ、悪意の末に起こる悲劇より、取り立てて言うほどの悪意が無くても何かの弾みでうっかり起こってしまう悲劇のほうが身近で怖いんじゃないかと……。
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