日日雑記
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 水野英子『星のたてごと』のこと

NHKBSで「ザ・少女マンガ!」の新シリーズが始まりました。第一回は懐かしい、懐かしい水野英子『星のたてごと』。

小学生の頃、おばが面白いから読んでごらんと買ってくれたのが『星のたてごと』の単行本でした。当時すでに萩尾望都や竹宮恵子の作品に親しんでいたあたしには絵柄も内容も古臭く感じられ、ずっと書棚に置きっぱなしにしてました。

しばらくした夏休みのある日、ヒマに飽かせて単行本を手に取ったのですが……気が付くと全3巻あっという間に読んでしまってるではないですか! 古くさーと思う反面、作者の技量でぐいぐい読まされた感があったのです。

ワーグナーの『ニーベルンゲンの指輪』と北欧神話をミックスしたというこの作品、かなりの波乱万丈でいったいどんなオチになるんだろうと心配しましたが、意外なほど静かなラストでした。今回、水野さんが「神々の黄昏」をテーマに据えていたと知り、改めて納得なのでした。

絵柄は水野さんの才能を見出した手塚治虫の『リボンの騎士』のお姉さまヴァージョン風(笑)。更にゴージャスで、細かい意匠にも凝った作りになってます。
各話ごとに手書きのサブタイトルがあり「リンダ城からでること」「リンダに秘密があること」といった「〜〜こと」は、同時代のいろんなマンガやパロディに引用されてます。
番組で竹宮さんも仰ってましたが、当時少女マンガの多くは男性作家が描いており、彼等にとってどうでもいい部分を水野さんは丁寧に掬い上げたのでした。曰く、ドレスの重み、カーテンの揺らめき、流れるドレープ、たおやかな手首、繊細な表情を見せる指……そして何より女としての意思的な瞳。

「私の線は強弱の動きがあるので、スクリーントーンのような無機的な要素と相容れない」――彼女の作品を発表する場が今のマンガ界にない理由は、ビジュアル面における主流との乖離が大きいようです。
また、壮大なテーマ(&舞台)を扱っているようで実は、ごく限られた身の回りの瑣末な物事に固執する最近のスタイルには到底収まり切らないスケールの大きさも、雑誌掲載を困難にしているように思いました。
そういう点で限定版の単行本販売という形は妥当なのでしょうが、知る人ぞ知るなのはいかにも勿体無いですよぅ(知ってたらあたしだって読みたいもん!)。

実家に置いたままのサンコミックス版単行本には、子ども心の過ちで自分で書き加えたセリフやイタズラ描きでいっぱいなのです; キレイな本で再読したいなあ。

2005年08月30日(火)
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