月のシズク
mamico



 ドアノブの位置

お正月、三日間だけ実家へ戻った。

暖冬という噂は本当らしく、新幹線の乗り換え駅の側のスキー場も、山肌が
見えるくらいにしか積もっておらず、閑散とした雰囲気だった。雪国である
実家の周りも、カラッとした肌寒さのみで、焦がれた雪景色は見られなかった。

さて、実家の一部がリフォームされていた。
祖父が建てた我家は、木造の古い一軒家である。30年前には、スカイブルーの
鮮やかな瓦屋根が目新しかったが、今ではあちこちが傷み、使い勝手が悪かった。
当時の祖父母の身長に合わせて作られた家具は、どれも低く、シンクで洗物を
していると腰が痛くなったし、ドアノブの位置は総じて心持ち下に付いていた。

それが、である。
白い壁が眩しい台所は、淡い卵色で統一されており、ガスレンジは火を使わ
ないIHクッキングヒーターになっている。それに、大きな食器洗い機も装備。
トイレはウォッシュレットはもちろん、上蓋は人が入ってくると、自動的に
開閉される。お風呂場は清潔なシステムバス(もちろん自動湯沸し機能付き)
で、洗面台の三面鏡には、曇り止め防止ボタン(!)まである。

便利になりすぎではないか、と思いつつも、定年も近く、今後老いてゆく両親が
安心して生活するには、これでいいのだろう、と納得してみたり(苦笑)。
いずれにせよ、頑張って働き続けた両親が自分たちのためにやったことだから、
私が口出しする権利はない。第一、今更一緒に住むことはないだろうし。

ただ、残念だったこと。
広い玄関の1/4が廊下になっていたこと。門から庭へ入り、玄関のガラス戸を
引いたときに現われる、広くひんやりとした空気が漂う玄関を、私はこの上なく
愛していたので、ちょっとへこんだ。それに、タイル張りのお風呂場。
確かに冷たく、寒く、暗く、掃除が大変だったけれど、私はいろんな色が混ざった
タイル張りの床や壁が好きだった。今となっては、思い出でしかないけれど。

それにしても、ドアノブの位置が皆上がったのは、長年の感覚を頼りに
「えぃっ」と暗がりでもドアノブを掴んでいた私には、調子っ狂いの種
だった。あると思った場所に手を伸ばし、空を掴む虚しさ。
あれに慣れるのも、時間の問題なのだろうか。

2004年01月07日(水)
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