月のシズク
mamico



 星はまたたく

煙草を吸うためにベランダに出て、驚いてしまった。
東京の夜空にしては、平均値を遥かに超す星の数。夜に旅立つ飛行機が
一斉に私の頭上を通過しているのかと、一瞬、目を疑ったほどである。

きっと、夕立のせいだ。
大気に混ざった塵や埃が洗い流され、風が、空を掃除してくれたのだろう。

先日の山梨の夜空にはかなわないけれど、オリオン座も、冬の大三角形も
はっきりと肉眼で確認できた。驚きと感動に打ちひしがれ、しばらくその場
を動けなくなった。気がつくと、火がついた煙草は、ほとんど灰になっていた。

「星はまたたく」というピアノ曲がある。
フィンランドのパノレムグレンという作曲家が作った、3分ほどの短い曲だ。
高い音域でポロンポロンとメロディを刻むさまが、北欧の冷たく透明な空気
を伝う、星の光のように聴こえる。ちょうど今日のように、風が星の光を
ちらちらと揺らし、絶えずウィンクを送っているような、そんな曲なのである。

たまりかねて、MDに録音されたその曲を、寝室のコンポから流した。
ベランダのガラス戸を空けて、外にピアノの音を流しだす。
どこまでも透明で、静謐なその響きに、つかのまの安堵を感じた。

2003年10月23日(木)
前説 NEW! INDEX MAIL HOME


My追加