月のシズク
mamico



 遠くに、かすかに

夏のシーズンは、白いライトに衣替えしているという東京タワーを、
妹ちゃんは「らしくない」と叱咤する。すこし、傷ついた顔をして。

それでも、空気が澄んだ夜、はるか遠くにマッチ棒ほどのソレを見つけると、
理由もなく励まされた気分になる。なぐさみではない。勇気づけられるのだ。

昼間みるとただの鉄塔なのに、夜みる東京タワーはなぜもこんなに美しい
のだろう。嫌なことがあったときや、心がさざなみ立っているときには、
いつもより頻繁にベランダに出て、その小さな赤い光を探す。

「なんでもいいから、励まして」

理由も原因も、それらに付随する説明も、何もかも抜いて、友にメイルする。
乱暴な要求だと知りつつも、どうしても言葉が必要だった。
飢えていた。渇望していた。たまに私は、自分に手がおえないと思う。
しっかり、きっちりコントロールしているように見えて、実情は、移動式の
舞台装置のようにころころと心が乱れる。揺れやすい体質、なのだろう。

遠くに、かすかに光る東京タワーをじっと見つめながら、返事を待った。
私のすっ頓狂な性格に慣らされた友は、「何を云っても無駄だ」と飽きれ、
眠ってしまったのかもしれない。

どれほど待っただろう。メイルの受信音が、かすかに鳴る。
タイトルはない。おそるおそる携帯を開くと、強い一文。

「人生は続く」

私は携帯を握り締め、くくくっ、と声を殺してわらう。
早く東京タワーが赤い色に衣替えすればいいな、と思った。


 <<これは秋冬ヴァージョン(デフォルト)です


2003年09月18日(木)
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