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■ 遠くに、かすかに
夏のシーズンは、白いライトに衣替えしているという東京タワーを、 妹ちゃんは「らしくない」と叱咤する。すこし、傷ついた顔をして。
それでも、空気が澄んだ夜、はるか遠くにマッチ棒ほどのソレを見つけると、 理由もなく励まされた気分になる。なぐさみではない。勇気づけられるのだ。
昼間みるとただの鉄塔なのに、夜みる東京タワーはなぜもこんなに美しい のだろう。嫌なことがあったときや、心がさざなみ立っているときには、 いつもより頻繁にベランダに出て、その小さな赤い光を探す。
「なんでもいいから、励まして」
理由も原因も、それらに付随する説明も、何もかも抜いて、友にメイルする。 乱暴な要求だと知りつつも、どうしても言葉が必要だった。 飢えていた。渇望していた。たまに私は、自分に手がおえないと思う。 しっかり、きっちりコントロールしているように見えて、実情は、移動式の 舞台装置のようにころころと心が乱れる。揺れやすい体質、なのだろう。
遠くに、かすかに光る東京タワーをじっと見つめながら、返事を待った。 私のすっ頓狂な性格に慣らされた友は、「何を云っても無駄だ」と飽きれ、 眠ってしまったのかもしれない。
どれほど待っただろう。メイルの受信音が、かすかに鳴る。 タイトルはない。おそるおそる携帯を開くと、強い一文。
「人生は続く」
私は携帯を握り締め、くくくっ、と声を殺してわらう。 早く東京タワーが赤い色に衣替えすればいいな、と思った。
<<これは秋冬ヴァージョン(デフォルト)です
2003年09月18日(木)
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