寒くなるにつれ、布団から抜け出せずにいる困ったちゃんは毎年変わらない。
とうとう始業ぎりぎりより1本手前の通勤電車になった。
近頃、会社寄りの駅について、降りる際…
とても懐かしい面差しをした男性を見かけた。
年の頃は、60歳前後か…
身長は私と同じくらい。
懐かしく思われたのは、昨年末、大腸癌から癌を再発して亡くなった知人に似ているからだ。
どんな愚問にも根気よく応えてくれて、いろんな知恵を授けてもらったなぁ…。兄のように慕っていた。
今夏のお墓参り以来、彼の母堂との書簡は2通目となる。
母堂は育児と家事だけに専念してきた昔の人だから、ほぼ文盲に近い。 おそらくは、孫からもらった原稿用紙に、何度も何度も下書きしたあとが見えた。
「もう、この世にはいないと、わかっていてもつらいです。」
子供が親より先に亡くなるなんて、こんな不条理は納得しがたい。 読むたびに泣けてくるので、引き出しの奥に眠っている。
彼の生きてきた年数は48年。 我々の記憶の中では、ずっと48歳のままで止まっている。
毎朝、通勤電車で見かけるお父様は… 丸くて小さな可愛いお鼻…。几帳面にキリっと結んだお口。メガネ…。 何から何まで生前の彼、そっくりだ。
彼が生きていたら、おそらくこんな風に歳を重ねて行くのだな。
年相応に薄くなった後頭部まで愛おしい。
どこへお勤めだろうか? 勤務先につくと腕に黒い汚れよけをはめて、1日中黙々とソロバンをはじいていそうだ。
初めて、そのお父様を見かけた時…
「あっ!Kさんっ!?」 心の中で叫んだ。
徒歩のお父様と自転車の私は、駐輪場へ寄るタイムラグがあるため、ある幹線道路で交差する。
見たら涙が滲んでくるので「見てはいけない。」と、自分に言い聞かせているのに…
目がどうしても、後追いしてしまう…。
(待って!待って!!…)
哀愁を帯びた真っ直ぐな背中は、今日も人混みに消えていく…。
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