ムッキーの初老日記
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2002年06月28日(金) 六月の怪談

あれは、もう10年以上前の、薄ら寒い雨の日のことだった。


当時パートで勤めていた会社の社員用駐車場は、社屋から離れた所にあり、
車通勤の者は毎日かなりの距離を歩いた。
その道は竹やぶの中を通っていて
途中ゆるやかではあるが長い長い石段を登らねばならない。

人二人がやっとすれ違える位の狭い石段だ。

日中でも薄暗く、あまり気持ちのいい道ではないと思っていたが

朝はいつも同僚や周りの会社の人達がにぎやかに行きかっているので、それ程気にならない。

しかしその日私は所用のため午後からの出勤で、真昼に駐車場に着いた。



誰もいない。私一人。

細かい雨が降っていたので傘を差し、私は歩き出した。

ぬかるんだ小道を注意して歩き、石段の上り口に差しかかり上を見た。

毎日の事とは言えなんて長い石段だろう。仕事の前に疲れてしまう。
えい!と気合を入れて私は石段を登り始めた。それほど長い石段なのだ。


3分の1程のぼった時、ふと前を見ると、中腹あたりに石段を上がる人がいた。

さっき見上げた時は誰もいなかったはずなのに。

あまり気にせずのぼり続けると、すぐに「その人」に追いついてしまった。



それは女性だった。

黒い肩までの髪、黒い薄手のコート、手には紙袋を提げていた。

20代後半から30代前半ぐらいに思えた。


そして、非常に苦しそうだった。

ゼエ、ゼエ・・・・・。

苦しそうな息遣いが聞こえてくる。
肩が上下にゆれている。

一段一段、とてもゆっくり踏みしめるように登っている。



すぐ後ろまで来た私は歩を緩めた。
彼女を抜かさねば進めない。

私は「すみません、わき通ります」と声をかけ
傘を傾け
彼女に露がかからないよう注意して、わきをすりに抜けた。



ゼエ、ゼエ・・・・・。

本当につらそうだ。
相当具合が悪いのかもしれない。

こんな石段で倒れたら転げ落ちて大怪我するかもしれない。

「大丈夫ですか?」と声をかけてみようと、私は後ろを振り返った。



その瞬間、私は凍りついた。



誰もいない。


誰も。



そんな・・・・。
私はそこに立ち尽くした。

その人を追い抜いて振り返るまでは、ほんの2,3秒。


もしかして転げ落ちたのか? いや、どこにも倒れている人はいない。

もの凄いスピードで引き返したのか? いや、それでも後姿が見えるはずだ。

もちろん、わき道などは一切ない。



「ゼエ、ゼエ・・・」という彼女の苦しげな息遣いだけが、
私の耳に渦巻いていた。



次の瞬間、私は全身総毛立ち、脱兎のごとく駆け出した。

振り向くな!振り向くな!とにかく明るい所に行くんだ!



会社に着いた時、私は汗だくだった。



「どうしたの?そんなに慌てて。なんかあった?」


私の様子を見て、同僚が声をかけてきた。



「うん、あの・・・・ヘンなこと言うけど・・・あの石段って、なんかある?」



「なんかって?」

「え、例えば、何か…出る…とか」

「え!もしかしてなんか見た!?ホント!?やっぱり!」



「や、やっぱりって?」

その時まだ入社半年程度だった私だけが知らなかったことで、
その石段で不思議な
体験をした人が、会社にも、周りの他の会社にも何人かいるらしい。


数ヵ月後、会社は新社屋を建て移転した。

その後あの石段に行ったことは一度もない。


でも、こぬか雨が降る陰気な日には、今でもあの時の息づかいが耳の奥で甦るのだ。


ゼエ、ゼエ、ゼエ・・・・。









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◇◆オッサン君の独り言◇◆

6/30◆チャックウイルソンもイギリス首相とし活躍しているようだ。

6/29◆カーンにバナナを与えてみよう。

6/28◆石原良純の天気予報はイマイチ信じられない。

6/27◆いくら害虫とは言え「クソひりかめ虫」って・・馬鹿にしすぎだろ

6/26◆亭主改造計画に出演しても負けない個性を持っている。


ムッキー
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