A Will
DiaryINDEX|past|will
わたしの知らない彼がいて、 入り込む余地がないことを悟る。
薄すら寒い寂しさの中で、 彼と目が合い、わたしは手を振った。
笑顔で手を上げた彼を、 やっぱり知らない人だと思った。
入り込んだらいけない。
たぶん、触れることさえナシだ。
だから、手を振ったのだ。
確かに距離があることを、 手を伸ばしても届かないと、 あちらと、こちらに、わたしたちはいると、
確認のために。
日が沈んでも、汗が滴るような熱気の中で、 この暑さに乗りきれない。
浴衣を着た可愛い女の子の集団が、 口を赤く染めて、りんご飴を頬張っていた。
豪奢とは言えないけど、立派である神輿が、 怒声とも歓声ともつかない音の中で、跳ねる。
神さま。
心の中で、呟く。
冷めない熱気を後に、わたしは電車に乗った。
覗き見をしたような後ろめたさだ、と なんだか可笑しくなる。
たまたま、出会う。なんて、 運命的でないとするなら、それは悲劇的だ。
頭の中の、笑顔で手を上げた彼を、 どうにか振り払う。
幻だ。 夏が、暑さが、見せた幻だきっと。
頭が痛いのは、昨日、1本空にしたシャブリのせいだ。
相変わらず、よく飲むな、と笑ったのは、 久々に会った友人だ。
ワインなんか飲めるようになったのは、 結構、最近だ。 一人で空 けたのは昨日が初めてだ。
電話を片手に持つ。
もうシャブリには頼れないから、 頼りがいのある友人にアルコール代わりになってもらおう。
大丈夫。
わたしは、昔から1度だって二日酔いにはなったことがないんだ。
|