A Will
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「雨、落ちてきた!」 と窓の外を指差したら、こーちゃんは笑った。
「なに?」 首を傾げたら、なんでもないってまた笑った。
「うそ。なぁに?ねぇなぁに?」 何度も聞いたら教えてくれるのを、知っているから何度も聞いた。 こーちゃんは、一人でこっそり笑ったあと、小さい声で言った。
「雨は、落ちるじゃなくて降るって言うでしょ」
あぁ、そんなこと。と頷いたら、 そんなことだよ。と、また一人で笑った。
あの日以来。 わたしは、雨が落ちる、とは誰にも言ってない。
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こーちゃんが、うなされてたから、とりあえず起こしてみたら、 ぬっと伸びた手に髪の毛を掴まれた。
「痛い」 「・・・ぇ・・?」 「え、じゃなくて。痛いから早く放してくれる」
溺れる夢を見た、とこーちゃんは言った。 こーちゃんの指には、わたしの髪の毛が何本か絡まってた。
理由はない。 ただ、なんとなくホッとした。
こーちゃんが起きてくれて良かった、と心から思った。
寒い寒い冬の夜。 暖かいこーちゃんの両足は、それだけで宝物だった。
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長ったらしい数式の書いてある本を、こーちゃんは読んでた。 「楽しい?」って聞いたら「九九やってるときよりは」と、 楽しいんだか楽しくないんだか、解んない答え。
いんいちがいち。いんにがに。いんさんがさん。
隣で騒いだら、こーちゃんは本を閉じた。
溜息。眉が数ミリ上がる(呆れてるサイン)また溜息。
「にゃこちゃん」 とこーちゃんしか呼ばない呼び名で(ていうか原形留めてないよ。全然) ちょっとだけ怒られた。
沈黙の中で、こーちゃんはひたすら本を読んでた。 ものすごく難しい顔して。
こーちゃんですら難しい本ってどんなだろうと、わたしもつられて難しい顔になった。
この5分くらいあと。 こーちゃんから「ごめん。まだ怒ってるの?」と聞かれて爆笑した。
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起きたら、こーちゃんがいた。
なんとなく、赤ん坊の気持ちが解った。
「起きてこーちゃんがいると、うれしい」 「そら良かった」
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溢れかえるほど、こーちゃんの記憶は嫌味なく優しい。
あんなに傷つけて、傷つけられて、 それでも、多分、わたしのほうが多く傷つけたはずだったのに。
ありがとう。 何食わぬ顔で生きていけるわ。
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