A Will
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2006年05月06日(土) 優しい記憶。

「雨、落ちてきた!」
と窓の外を指差したら、こーちゃんは笑った。

「なに?」
首を傾げたら、なんでもないってまた笑った。

「うそ。なぁに?ねぇなぁに?」
何度も聞いたら教えてくれるのを、知っているから何度も聞いた。
こーちゃんは、一人でこっそり笑ったあと、小さい声で言った。

「雨は、落ちるじゃなくて降るって言うでしょ」


あぁ、そんなこと。と頷いたら、
そんなことだよ。と、また一人で笑った。



あの日以来。
わたしは、雨が落ちる、とは誰にも言ってない。


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こーちゃんが、うなされてたから、とりあえず起こしてみたら、
ぬっと伸びた手に髪の毛を掴まれた。

「痛い」
「・・・ぇ・・?」
「え、じゃなくて。痛いから早く放してくれる」

溺れる夢を見た、とこーちゃんは言った。
こーちゃんの指には、わたしの髪の毛が何本か絡まってた。



理由はない。
ただ、なんとなくホッとした。

こーちゃんが起きてくれて良かった、と心から思った。


寒い寒い冬の夜。
暖かいこーちゃんの両足は、それだけで宝物だった。


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長ったらしい数式の書いてある本を、こーちゃんは読んでた。
「楽しい?」って聞いたら「九九やってるときよりは」と、
楽しいんだか楽しくないんだか、解んない答え。

いんいちがいち。いんにがに。いんさんがさん。

隣で騒いだら、こーちゃんは本を閉じた。

溜息。眉が数ミリ上がる(呆れてるサイン)また溜息。


「にゃこちゃん」
とこーちゃんしか呼ばない呼び名で(ていうか原形留めてないよ。全然)
ちょっとだけ怒られた。


沈黙の中で、こーちゃんはひたすら本を読んでた。
ものすごく難しい顔して。

こーちゃんですら難しい本ってどんなだろうと、わたしもつられて難しい顔になった。


この5分くらいあと。
こーちゃんから「ごめん。まだ怒ってるの?」と聞かれて爆笑した。


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起きたら、こーちゃんがいた。

なんとなく、赤ん坊の気持ちが解った。


「起きてこーちゃんがいると、うれしい」
「そら良かった」

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溢れかえるほど、こーちゃんの記憶は嫌味なく優しい。

あんなに傷つけて、傷つけられて、
それでも、多分、わたしのほうが多く傷つけたはずだったのに。



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ありがとう。
何食わぬ顔で生きていけるわ。


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