A Will
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弧が綺麗なの、と言ったら なんのことだか分からない、と言った顔で返された。
三日月。 とても綺麗な弧だと思ったから、それを素直に伝えたら、 変わってるね、とあの人は静かに遮断した。
長い指を覚えてる。目にかかる前髪も。
鬱陶しくないの?と聞いたら、 そうだね、とぼそぼそと答えてくれたのがうれしかった。
夜に会う人だったから、昼間の明るさの中では、 たぶん見つけられなかったんじゃないかって未だに思う。
目の前にいたって、明るすぎたら分からない。
あの暗い、月明かりの下で、 生きてるんだか死んでるんだか、分かんないような、
そして、それをどっちでもいいと評したあの人を、
なんとなく信じたいと思っただけだったから。
タバコの気配で分かる、なんて言ったら 信じられないよ、と全く正しい返答を返して、
だから、その通りだなと、わたしは笑ったりしたんだ。あの日。
6年前。 なんのタメにもならない出会いを、あの人として。 交わした、1つ2つの言葉にただ喜んで、
朝になれば忘れた。
裸足で歩いてたわたしを、怪訝だと言ったし、 暑いと言って川に入ったわたしを、頭おかしいとも言った。
かけられら言葉は覚えてるのに、交わした言葉は本当にほとんど忘れてる。
忘れるってことは、健やかなことだと、確か言ってた。 あの人だったのかは、
わすれた。
あの日みたいに、わたしはぺたぺたと裸足で歩いてみた。 あの日みたいに深夜を。ひとりで。
会えるなんて思わなかったから、落胆なんてしなかったけれど。 それでも、もしかしたら、なんて思ったりもした。
もしかしたら、わたしが歩かなくなったあの日。 あの人は、あの場所でわたしが来るのを待っていてくれたのかもしれない。
ほんの3分くらい。
わたしも。 タバコ1本分の時間だけ、待ってみたりした。
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