アスファルトが焼ける匂いがした、気がした。
多分、此処まで死の匂いを間近に嗅ぎ取ったのは初めてだったように思う。自分から引き寄せたもので、自分から近付いたものでもある。ホームに入って来る地下鉄とか、机の上に置いてあるカッターとか、料理包丁とか、通りを走る車とか、兎に角全てのものが、虎視眈々と私を殺す為に隙を狙っているのだとか、紫陽花の花びら一つでさえも、私を憎んで色付いているように感ぜられるほどに、多分私は衰弱していた。悔しかった。私はこんなに弱くはないと、もっと強く在れる筈だと、信じたかった。此の一ヶ月間、私は常に死と隣り合わせで生活してきた。悪いのは私ではない筈だったし、私は何も悪くない筈だった、けれど、其れを鵜呑みに出来る程は私は強くはなかった。其れは理解していた。原因は全て自分の中に在るのだという認識を、私は知っていた。
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