他者の言葉の中に幾つかの矛盾を見つけてしまったら、後はもう其の矛盾に反発したくなって仕方なくて、然し私は抑える事しか知らない。から、其の侭放置して、其の場は見つけた矛盾が消え失せて、暫く経過した後、思い出したように胸の奥の方が沸々と煮立ってくる。苛立ち。それから、名前の無い心地悪さ。 悔しい事に、私は他者から身を守る薄い薄い紗幕を持ってはいるかも知れないけれど、他者に立ち向かう牙は持っていない。
切って後悔したのは、多分初めてだ。 今までは幾等切ったって、後悔はしなかったと思う。
高校三年の夏にはもう受験受験で忙しくなって、自分に意識を向ける余裕すらなかった。大学に入って、其の侭安穏と過ごしてきた。今年に入ってからは、文字通り朝から晩まで大学に缶詰状態で、土曜日にも授業を入れて、休みらしい休みは日曜日だけ。其れも月に一度はアルバイトで潰れる日曜日。月に三度の休みは貴重だから、其の内の一回は映画を見に行ったりショッピングしたりして、其の内の一回はのんびりする事に努めて、残りの一回は死んだように眠る。というのが、私の此の半年間だった。 夏休みに入って此の生活が崩れて、或る意味ではとても安定していた私の日常は簡単に、脆く、崩れ去って。崩れた安定さが齎したものは勿論、不安定。 そうして思い出した、傷と、痛み。
後悔先に立たず、と言うくらいだから。でも私はきっと何時もは後悔を先回りさせている。そうするのは、案外容易い。一寸先を予測して、嗚呼「こう」なるのかなと理解しつつ、実行する。失敗しても後悔はしない。「こう」なる事は、先に理解していたのだから。 嗚呼、如何して今日は気付かなかったのだろう。私は自分の愚かさを、多分に呪うだろう。 あの頃は全く痛みを感じなかった。今は、刃毀れした銀色と、弱くなった肌が、一本の線を作り出すまでも無く痛みを覚える。単なる莫迦だ。もう一度肌を、あの頃と同じまで強くするには、どれ程の時間を要するだろう。今の私には、そうしている時間も、余裕も、無い。
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