ヲトナの普段着

2005年04月24日(日) チップを考えサービスの対価を考える

 日本には「チップ」という習慣がない。サービスは料金のうちに含まれ、さまざまな場面においていちいちチップの心配をしなくて済む社会ができあがっている。それが良いという人もいるだろう。けれど僕はあえて、サービスの価値をわかり難くし、しいては傲慢な客の態度を生み出してる元凶がそこにあると言いたいのである。
 
 
 インドネシア語ではチップのことを「persen;プルセン」という。僕は言語学者ではないので、その語源を正確には知らないのだけど、自分で勝手に「英語のpresentからきたんだろうな」と想像している。そういえば日本には「心づけ」という言葉がある。やはりチップのことだ。相手がしてくれたことに対して「お金」という形で気持ちを表すのは、僕はとても自然な行動であると感じている。
 
 しかしこのチップ、日本人にとってとても厄介な代物だろう。いつだったかバリ島に行ったとき、親しくしてる女友達の友人が働くカラオケに出向いたことがあった。もちろん彼女同伴だ。そこで数時間楽しんでから店を出るとき、彼女が僕にそっと「友達に〜だけチップをあげてね」とアドバイスしてくれた。僕はうなずきながら、ポケットに手を入れて言われた金額より少し多い紙幣を彼女に出してみせたんだな。すると彼女は突然怖い顔をして、「〜だけでいいの」と僕をにらみつけた。
 
 率直なところ、インドネシアの貨幣価値と日本のそれとでは比較にならない。僕が多少チップに色をつけたところで、日本ではガム一枚も買えない値段だ。それでも彼女は怒った。なぜか。それは、僕らよりもはるかに彼女たちのほうが、お金の怖さを知っているからだろう。そう、チップという習慣を持つ人たちは、日頃から細かいお金を「流通」させているから、それだけにお金の価値や意味をよく知っているのだと思う。それが日本人には乏しい。
 
 
 僕は年に数回、上野公園を散策する。学生の頃から好きだったエリアで、春には桜の花が舞い、秋には木々が綺麗に色づく居心地の良い場所でもある。そんな上野公園で、よく大道芸をやってる人たちを見かける。最近では、駅前で生ギターを抱えて歌っている若者も珍しくなくなったけど、そういう人たちに対して、傍観者はどうのような視線を送っているのだろうか。
 
 内容が良ければお金を払う、悪ければ払わない。そう考えている人であれば、彼はお金の意味を知っている人なのだろうと僕は想像する。けれど多くは、「素人に金など払えるか」とか「無料で見られて得した」といった感覚で眺めていないだろうか。もちろん「彼ら」は、依頼されてそこで演じているわけではない。いわば勝手にやってるだけだ。しかし、ふと足を止めて彼らのパフォーマンスを見た以上は、それを評価する責務とまでは言わないが、何がしかの反応を返してあげるのが礼儀ではなかろうか。ここで言う反応とは、当然のことながら「つまらなければさっさと立ち去る」という行動も含まれるんだけど……。
 
 
 ライブチャットはサービス業だと僕は思っている。サービスには、じつは決まった値段などないのだ。彼女に怖い顔をされようが予想以上に楽しい時間を過せれば、僕の手は相場以上の紙幣を握ろうとするし、通りすがりの路傍で見かけた青年の歌声が心に響けば、僕は急ぎ足でもコインを置いていく。
 
 どうもこの国の人たちは、金というものの捉え方が歪んでるというか変わっていて、自分の「気持ち」と「金」とを素直に結び付けられないところがあるように感じられてならない。ときどき、ライブチャットで楽しい時間を過した最後に、チャトレにチップをプレゼントすることがあるんだけど、しばしば驚いた顔をされる。まさかチップに「裏心」があるとでも思っているのか、はたまた本当にチップをあげる客が少ないのか……。
 
 楽しかったらその気持ちをどうにかして相手に伝えたいと思う。もちろん言葉で伝えることはいつでもやってるけど、チップという形で表すことも僕は自然な行為だと思うよ。「その分、またお話ししてくれたほうが嬉しい」という言葉も目にするけど、それはそれ、これはこれじゃなかろうか。
 
 
 ライブチャットはポイントを消費する。だからこそ、そこには「いかに安くあげるか」を考える輩も現れてくる。チャトレの部屋に入って開口一番「脱いで」とくる奴らもそうだし、ポイント割安な逆指名というシステムがあるサイトであれば、初対面にもかかわらず最初から逆指名を要求してくる奴らもそうだ。可哀想だなぁと僕は思う。だって彼らの価値観には、ポイントを「消費してしまった」という感覚しかないのだから。
 
 かと思うと、チャトレのなかにもポイントにしがみつく女がいるのは、見ていて呆れてしまうな。どのような「サービス」を提供できるかも明示せず、プロフ欄に「チップくれるといいことあるかもよ」などと御託を並べる莫迦チャトレ。ひとことこの場を借りて言わせてもらいます。「お前の体がナンボのもんだと思ってやがんだ!」……おっと、失礼しました。
 
 
 言霊という言葉がある。読んで字の如く、言葉にも魂が宿るという意味だ。もしかするとお金というものにも、僕は心が宿るのではなかろうかと思っている。感謝という名の心が。そしてそれを、上手に使いこなせる大人になりたいなと思うし、チャトレちゃんたちには、それを上手に受けとる気持ちを養って欲しいとも思うな。


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ヒロイ