2002年02月16日(土) |
金融審議会が、投資家保護のための基金設立−しかし、その効用は疑問である− |
日経7面に、金融審議会が、有価証券の決済電子化で、投資家保護のために基金の設立を求める報告をしたという記事が載っていた。
その記事によると、審議会の報告書において、 「有価証券決済の電子化に伴い、誤った情報を入力するなどにより、投資家が被害を受けた場合に備え、投資家保護の基金を設ける必要性を明記した」 そうである。
報告書の全文を読んでいないので、「誤った情報を入力する」というのが、いかなる場面を想定しているのかよく分からないが、 仮に、ネット取引で、投資家が入力ミスにより誤発注した場合などを想定しているのであれば、基金を設立するというのは、いささか問題ではないだろうか。
入力ミス(誤発注)は、民法上では「錯誤」(95条)にあたる。 錯誤の場合は、原則としてその取引は無効だが、錯誤に重過失がある場合は、無効を主張できないと規定されている。
ただ、ネット取引では、誤発注を防ぐために、発注しても、一旦「確認」のボタンが出るようになっている(具体的なボタンは証券会社によって異なるが)。
そのため、その「確認」ボタンをクリックして発注した場合は、それが誤発注であったとしても、錯誤に重過失があると認定される可能性があり、その場合には、当該取引の責任を負わないといけないことになる。
それゆえ、審議会では、基金を設立して、思わぬ被害を被る恐れのある投資家の保護の必要性が報告されたのであろう。
しかし、誤発注した場合に、その投資家を保護すべきかどうかは議論の分かれるところである。 誤発注した投資家が自己責任を負うべきであるという議論もあり得るからである。
また、投資家を保護する基金といっても、その基金は誰が拠出するのかという問題もある。 証券会社が拠出するのであれば、なぜ責任のない証券会社が拠出しなければならないのかという疑問も出よう。
しかも、そもそも、誤発注と正常な発注とを、いかなる基準で区別し、誰が判断するのかという問題もある。 悪質な投資家が、後から、「誤発注だった」と言った場合に、それに対してどのようにして対抗するのだろうか。 以上の通り、基金設立による投資家保護という手段は、さまざまな疑問がある。
むしろ、このような基金を設立することによってお金を使うことよりも、むしろ、誤発注を防止するシステムの開発に努力すべきではないだろうか。
例えば、その投資家の投資履歴からみて、明らかな過大な注文したと思われる場合や、現在の株価から相当程度かけ離れた指し値をした場合には、一度警告の表示がでるようなシステムにすべきではないだろうか。
そして、行政が、そのようなシステムの採用を勧告すればいいのである。
そうすれば、そのような勧告があるのに、あえて警告の表示が出るシステムを採用しなかった証券会社に対しては、たとえ誤発注したとしても、注文者に重過失があるとはいえず、錯誤無効を主張できるという解釈が可能になってくるように思う。
要するに、行政としては、基金によって直接救済することに金を使うよりも、投資家が不利にならない流れを作り出すことの方が、コストパフォーマンスは高いように思うのである。
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