2002年01月12日(土) |
整理解雇のための要件について |
証取法ではなく、労働法の問題だが、 今日の日経別刷りNIKKEIプラス1・4面に「会社から解雇を通告されたら」というコラムがあった。
そのコラムには、「勤めている会社から、経営が厳しいので辞めて欲しい、と突然言われた。会社を辞めなくてはいけないのか」と問題提起した後、 「結論からいえば辞めなくていい」 と書いていた。
随分、大胆に書くなあと思ってよくみると、無署名コラムだった。 (この種のコラムは通常、弁護士が署名入りで書くのであるが、その場合は、このような大胆な書き方はできないだろう。)
コラムは、その後で、整理解雇が認められる要件として 1 企業の業績悪化など人員削減の必要性の存在 2 配置転換、出向、希望退職など、会社が解雇を避ける努力をしたこと 3 解雇対象者の選定が恣意的でないこと 4 労働組合や従業員との協議をするなど手続が適正であること の4要件をあげている。
このうち、先の例では、要件2の解雇回避義務と要件4の適正手続を欠いているということなのだろう。
上記4要件は、どの本にも書いている。 しかも、大抵の本には、上記4要件のどれか一つを欠いても解雇権の濫用になるという書き方をしているから、コラム担当者が、先のように「結論からいえば辞めなくていい」と書ていてもやむを得ないであろう。
しかし、私は、上記4つの要件は、判断のための要素に過ぎないと考えている。
例えば、人員削減の必要性が極めて強い場合に、配置転換や出向をしたのでは、効果はない。 また、整理解雇の前に必ず希望退職を募るべきであるといえない場合もあろう。
希望退職を募ると、優秀な社員が出ていってしまいかねない。それより、やる気のない従業員に辞めてもらいたいというのが経営者としての本音であり、その考え方が不当であるとは思えない。
実際、全従業員を対象に希望退職を募ると、他社から熟練従業員が引き抜かれる等の事情を勘案して、希望退職の募集をせず整理解雇したこともやむを得ないとした判例もある(昭54.10.29東京高裁判決・東洋酸素事件)。
したがって、これらの場合には、その他の3要件すべて充たさなくても、解雇が認められる場合があると考える。
ただし、希望退職を募集せず、やる気のない従業員を整理解雇したという例でも、当該解雇対象者が、やる気がないとか、他の従業員より能力が低いという証拠を保存していなければ、恣意的な解雇と区別ができないから、解雇無効と判断されるおそれがある点は留意すべきである。
いずれにせよ、今後、労働市場はますます流動化してくると思われ、そうすると、裁判所の考え方もそれに応じて徐々に変わってくる可能性があるだろう。
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