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2012年03月02日(金) ■ |
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NHK「のど自慢」でもっとも大切なのは「予選会」 |
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『文藝春秋』2012年3月号の特集「テレビの伝説」より。ノンフィクションライター・与那原恵さんが書かれた『「のど自慢」は台湾でも大人気』の一部です。
【通常の「のど自慢」でもっとも大切なのは「予選会」だとスタッフはいう。出場希望者(15歳以上。中学生除く)は往復ハガキで応募するが、歌う楽曲とともに選曲理由を記す。これが出場の決め手になることは「のど自慢」ファンの間ではよく知られている。家族への感謝、地元愛、よき仲間へ……。また本番のゲスト歌手の持ち歌も予選会出場の可能性が高まるといわれている。NHKは、年齢、男女のバランス、地域性、そしてハガキから読み取れるライフストーリーなどを勘案し、全体のバランスを考え、予選出場者250組を決定するという。徳田アナ(現在の「のど自慢」司会者)は「のど自慢は、読後感が不快でないことが大切なのです」といい、ネガティブな選曲理由の出場者は登場しないのである。
土曜日午後1時、予選会がスタート。緊張する出場者をほぐす進行役が盛り上げる。また演奏は本番と同じ生バンドである。250組は、曲目のあいうえお順でステージに立ち、40秒で自動的に終了するが、それでも生バンドをバックに歌うのは気持ちのよい体験になったようだ。歌い終わると、舞台下にいる徳田アナとディレクターの短いインタビューを受ける。40代女性はこう話す。「私たちすごく大切に扱われているって感じました。うまいへたで合格・不合格が決まるわけじゃないから、落ちてもいいの」
午後6時過ぎ、高校生から85歳のおばあさんまで、本番出場者20組が発表された。さっそく20組は別室に集められ、「みなさんは今回の661組の全応募者、さらに予選会の250組から本番出場を果たしたのです。日本中が見ているのど自慢の主役は、みなさんです」と高らかに宣言される。また本番は予選会と同じ服装であることが条件だと釘をさされる。「衣装もふくめて合格したのです」。キテレツな衣装やブランドロゴ入りの服の人はいない。
全員まだ実感が湧かない様子なのは、250組を目の当たりにした余韻なのかもしれない。本番出場者はこのあと徳田アナらのインタビューを受ける。つづいてひとりずつピアノ・編曲担当の前で歌う。アレンジャーの西原悟はキーを細かく調整したり、歌いやすいように前奏を短くするなど、ひとりひとりに合わせた本番用の譜面を翌朝までに仕上げる。
出場者全員が会場をあとにしたのは夜9時過ぎ。しかし帰宅後の彼らは大忙しだ。親戚や知人に連絡をし、祝宴も行われ、ほとんど眠れない一夜になる。この興奮状態が持続したまま、一気に本番へと向かう。
いっぽうスタッフは、歌う順番など構成を練り上げる会議を行う。トップバッターは元気な人、つづいて地元の産業を象徴する職業の人、中盤でしみじみとさせ、後半には朗々と歌い上げる人を登場させる、などの「演出」である。とはいえ定型があるわけではなく、毎回頭を悩ますとスタッフはいう。また出場者が舞台上に座る席の配置にも神経を使う。ムードメーカーになる人を中心にし、お年寄りの隣には気遣いのできる若者に座ってもらうなど、緻密に計算することが出場者の結束にむすびつく。それぞれの個性を見抜くこともスタッフの腕だが、肝心なのはスタッフが取り仕切っているように感じさせないことだ。
じっさい翌朝7時50分に再び集合した20組には、前夜とはまるで違う親密な空気が生まれている。30代男性は「ここで出会った仲間たちと番組を成功させるために自分のやるべきことをやります。出場できなかったたくさんの人たちのためにも」と話す。たった一夜にして、与えられた役割を自覚し、助け合い、一発勝負の生放送をぶじに進行させようとの覚悟ができている。「のど自慢」マジックなのか、日本人に備わる資質なのか。 広島放送局の大海紀子ディレクターは「のど自慢とは、昨日まで見ず知らずだった20組が力を合わせて本番を乗り切っていくドキュメンタリーなのかもしれません」と語る。】
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「のど自慢」は、全国各地で「同窓会」が結成されているそうです。 この番組で知り合った人たちが、自主的に集まって、お酒を飲んだり、近況を語り合ったり、カラオケで歌ったり。 地元が同じとはいえ、ひとつの番組に一緒に出演したというだけで、こんな「絆」が生まれる番組というのは、他には無いと思われます。 いまや、クイズ番組でも「プロのおバカタレント」が幅をきかせていて、「素人」の出番はほとんどありませんし。
僕はいままで、「のど自慢」を自分から観ようと思って観たことは一度もないのですが、それでも、実家でいつのまにか流れていたり、病院の待合室で患者さんが観ているのをよく見かけますし、「ほんとうに古臭い番組だなあ」なんて思いながらも、けっこう眺めてしまうものなんですよね。
参加希望の素人を集めて、ただ順番に歌わせて鐘を鳴らすだけというシステム、しかもこれだけの長寿番組ですから、「ああ、ラクに作れる番組なんだろうなあ」と思っていたのですが、この記事を読んで驚きました。
予選でも生バンドの演奏で歌えるし(40秒間だそうですが)、出演順も大事な「構成」のひとつ。席順まできっちりと決められている。 さらに、アレンジャーが、「参加者ひとりひとりのために」本番用の譜面をつくるのです。
僕の「シンプルで作るのがラクな番組」だという先入観は、見事に裏切られました。 出演者が順番に出てきて歌い、鐘の数で評価されるというだけのシステムなのだけれど、それで視聴者を楽しませるために、スタッフはここまでの「演出」を行っているのです。
まあ、「すべて演出」だと思ってしまうと、それはそれで面白くなくなってしまいそうではありますけどね。
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