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2010年11月15日(月)
ファミコン『光線銃シリーズ』は、なぜ家庭のテレビ画面で「当たり判定」ができたのか?

『ゲームの父・横井軍平伝〜任天堂のDNAを創造した男』(牧野武文著・角川書店)より。

【1977年の「ダックハント」という玩具は、スイッチを入れると部屋の壁に光で描かれたカモが映し出され、それを付属の光線銃で狙って撃つというものだ。光で描かれたカモは羽ばたいており、外れるとそのまま飛んでいってしまうが、当たるとカモはバタバタと落ちていく。映像の切り替えは、ワイルドガンマンから派生したスカイホークと同じで、ミラーを使って行う。
 しかし、問題なのは、壁に向かって撃つ光線銃でどうやって当たり判定をしているかだ。レーザークレーと同じように、赤外線の的を使い、壁に反射した光を受光銃で受けるという手もあるが、一般の家庭にはさまざまな赤外線発生源があり、誤判定をしてしまう可能性が高い。ましてや、壁に反射した光を受光銃で受けるのでは、窓の外の太陽に向けても当たりと判定されてしまうということになってしまう。受光銃ではだめなのだ。
 実は、光線銃シリーズの最後の製品「光線銃カスタム」で使ったストロボは非常に強力であった。なにしろ200メートル先の的でも当てられるのだ。カモの映像はプロジェクターからミラーを使って壁に映し出している。光線銃でカモを狙って打つと、カモの映像を描いている光に、さらに光線銃の強いストロボの光が加わることになる。この強い光は、カモを映し出しているミラーを逆にたどってプロジェクターに戻る。プロジェクター内の受光素子がこの光を感知して当たり判定をするのだ。光線銃の狙いが外れた場合は、光線銃の光はミラーで捕らえられないので、当たり判定をしないというわけだ。

 さらに、後に横井はこのダックハントのファミコン番ソフトも発売している。これもテレビ画面に向けて光線銃を撃つと、カモに当たるというものだが、これも実に不思議だ。なぜテレビ画面で当たり判定ができるのだろうか。
 なんでも横井を「世界初」にしたがると、読者の方は思われるかもしれないが、これもテレビゲームが画面の外に飛び出した世界初ではないか。現在のWiiにもつながるものだ。こちらのしかけは銃のほうが受光銃になっており、光センサーが埋めこまれている。引きがねを引くと、カモの絵が映し出されていた画面は一瞬暗転し、カモの位置には白い四角が表示される。銃はこの白い四角を感知して当たりを判定している。画面の暗転は一瞬なので、人の目には見えないというわけだ。
 横井は後にファミコンのソフトも多くプロデュースすることになるが、初期の頃は画面の外に出ていくこのような仕掛けの玩具やソフトを多数考案している。任天堂は後にファミコンが爆発的なヒットをし、明けても暮れてもファミコンという時代が長く続くことになるが、その最中にあって、横井は「コンピューターは難しいから嫌いや」「画面の中だけでやっているといずれ飽きられてしまう」と語っていたという。横井はWiiを見ることなく、この世を去ってしまったが、もしWiiを見たら「これですな」とうなずいたのではないかと思う。】

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 1970年代初頭生まれの僕は、壁に映写されるタイプの『ダックハント』は見たことすらないのですが、ファミコンの「光線銃シリーズ」の『ワイルドガンマン』『ダックハント』はリアルタイムで遊んでいました。光線銃タイプのゲームでいちばん遊んだのは、プレイステーションの『タイムクライシス』。
 実際のところ、ファミコンの『ワイルドガンマン』『ダックハント』の時代は、家の14型のブラウン管テレビで光線銃ゲームはなんだかとても狭苦しいし、わざわざ腰にベルトを巻いて銃をそこに挿すなんて気恥ずかしくて、ルール通りに遊んだ記憶がないんですよね。
 最初から銃を構えてテレビ画面のガンマンの前にピッタリと突きつけている状態で、合図とともに発射!卑怯極まりない「不良ガンマン」でした。

 しかし、当時から僕はものすごく疑問だったのです。
「このゲームは、どうやって『当たり判定』をしているのだろう? このテレビは、何の変哲もない、うちにファミコンが来る前からある、小さな古いテレビなのに」と。
 少しマイコンでプログラムの勉強もしていたので、「専用に開発されたわけでもないテレビで、光線銃で狙った場所にいる敵が、ちゃんと倒れる」というのは、すごく不思議に思えたのです。
 どうして、こんなことができるのだろう?
 その疑問は、ゲームそのものの面白さよりも、よっぽど僕の記憶に残っていました。

 今回、この本を読んでいて、僕の長年の疑問は、ようやく解決されたのです。
 そうか、あれは「テレビが感知している」のではなくて、「引きがねを引くと、画面のほうが人間の目には感知できないほどの短い時間変化して、それを銃のセンサーが感知する」ようになっていたんですね。
 そう言われてみれば、どんなテレビでも同じように「命中」していた理由がよくわかりますし、銃がテレビにではなく、ファミコンにつながっていたのも当然のことです。

 銃からなんらかの情報が「発射」され、それを画面の「標的」が感知する、という「流れ」だと、僕たちは現実にあてはめて考えてしまうのですが、こういう「発想の転換」によって、「ファミコンの光線銃」は成り立っていたのです。
 言われてみればなんでもないことのようですが、実際にこれを考え出した人たちの「発想力」は、本当に素晴らしい。
 こういう試行錯誤がいまのWiiの斬新な操作につながっているのですから、当時「日本向けじゃない」とさんざん言われていた光線銃シリーズは、歴史的には、ものすごく意義深いものだったと言えるでしょうね。