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2009年11月24日(火) ■ |
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「この瞬間、新サービスは『ニコニコ動画』というふざけた名称に決まったのだった」 |
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『ニコニコ動画が未来をつくる〜ドワンゴ物語』(佐々木俊尚著・アスキー新書)より。
【ではこれ(ニコニコ動画のプロトタイプ)を早急にリリースするとして、どういうかたちで公表するか。 「コンセプトは」と川上(量生・現ドワンゴ会長)はみんなに言った。 「とにかく誰も見たことがないネットのサービスだ」 YouTubeも含めてさまざまなウェブのサービスを調べて、機能比較表を作ってみた。たいていのサイトには「お気に入り」「コメント」といった機能がついている。 でも、こういう機能をどんどん付け加えていくと、どこかで見たことのあるような印象のサイトにしかならないんじゃないか? だったら、全部やめよう。機能比較表に○がついているような機能は全部取り除いてしまって、逆にシンプルで印象深いものにしてしまうんだ。 デザインのロゴも、かっちりとしたカッコよくクールなデザインが流行っていたけれども、そんなものはダメだ。思いきりいいかげんな脱力系のにしよう。 違和感をもっと出すために、トップページもインパクトあるものにしよう。最新のコメントがいきなりウェブページをスクロールしているようなデザインはどうだ。きっと初めて見た人は、 「なんじゃこりゃ?」 と他のサイトとは違う何かを感じてくれるに違いない。 「じゃあ、サービスの名称はどうする?」と誰かが言った。 川上が答えた。 「なるべく怒られにくい名前にしようよ」 当時、YouTubeは著作権侵害の問題でテレビ映画業界と激しく対立し、訴訟も起こされていた。新しい動画サービスはそのYouTubeから動画を勝手に引っ張ってきて利用してしまうのである。国内の著作権者かあ非難される可能性は十分にあったし、さらにいえばYouTubeから文句を言われる不安もあった。 「YouTubeはカッコいい言葉だから、『ユーチューブけしからん!』っていいやすいよね。だったらさ、いいにくい気が抜けるような名前にしようよ」 たとえば?と聞かれて川上はさらに言う。 「表面だけ取り繕ったようなふざけた名前があるじゃん。ニコニコローンとかニコニコ金融とか。明らかにブラックぽいのに、楽しい名前。だからニコニコ動画とかさ」 そこまでしゃべると、とたんにひろゆきが大爆笑した。 「それおもしろい! 絶対それ!」 大受けである。 この瞬間、新サービスは「ニコニコ動画」というふざけた名称に決まったのだった。 しかしこれではまだ完璧ではない。そもそも最初のスタートは、 「ライブコンサートでの盛り上がりをネット上で再現させる」 というものだった。ただ単にだらだらとコメントが動画の上に表示されるだけでは、ライブの生々しさを表現することができない。 戀塚は最後の仕掛けとして、試験サービス実施中にプログラムを改造し、 「弾幕」 を仕込んだ。 布留川が作った第2のプロトタイプは、コメントはランダムに画面上に表示され、コメントが一定数以上増えて画面が埋まってくると、コメント数をわざと間引いて表示させていた。コメント同士の衝突回避を実装すると手間が増えてしまうため、プロトタイプ段階ではこれを避けていたのである。 しかしニコニコ動画では、特定の場面でコメントが大発生して祭り状態になったら、それを思いきり爆発的に盛り上げたい。それこそがライブの生々しさだ。 その祭りのイメージとして、戀塚は最初は「点呼」のようなものを考えた。点呼というのは2ちゃんねるの実況板などでよく行われている風習で、ミュージックビデオのサビの部分に来たらみんなでサビのフレーズを同時に書き込んだり、人気タレントが出た瞬間にいっせいに、 「キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!」 と書き込むものだ。実社会の点呼と違って、みんなで順に数字を口に出していって人数を数えるわけではない。 これが動画で起きたらどうなるか。点呼が起きた瞬間に、コメントがものすごい勢いで増えていく。戀塚は最初、コメントを画面の上部から順番に表示し、どんどん下部へと増やしていって、さらにそれ以上増えたら下に寄せていくという表示方法を考えた。もちろんこの段階ではコメント同士の衝突回避は行っている。 しかし実際にこの方法で大量の点呼コメントを表示してみると、コメントがみんな下の方に集まってしまった。これだとあまり面白くない。 そこで方法を変えた。点呼になった時にモードを切り替え、画面全体に雑然とコメントが表示されるようにしたのである。モードが切り替わった瞬間から、衝突回避は行わない。 この方法で点呼を表示してみると、圧倒的な凄さだった。それまで粛々と画面を流れていたコメントが、点呼になった瞬間、ゴォーッという音を立てるほどの勢いで画面いっぱいに広がり、爆発的な熱情が伝わってくる。 コメントはまるで銃の弾幕のように、画面を埋め尽くしていた。 これが「弾幕」である。そして弾幕は、ニコニコ動画のパッションを象徴する表現スタイルとなった。】
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『ニコ動』こと『ニコニコ動画』、最初にその名前を耳にしたときには、あの『2ちゃんねる』のひろゆきさんが絡んでいるということもあり、「なんて人を食った名前なんだ……」と苦笑した記憶があります。 この「名称が『ニコニコ動画』に決まった経緯」を読むと、当事者たちも「なるべく怒られにくい、口に出すと脱力してしまうような名前」「明らかにブラックぽいのに、楽しい名前」として、あえて、こういうネーミングにしたんですね。しかし、個人や好事家が作ったサークルレベルならともかく、『ニコニコ動画』を運営しているドワンゴはそれなりに名が売れている「IT企業」なのですから、よくぞこれでOKが出たなあ、と考えずにはいられません。 僕もあまりネットに詳しくない知人に動画サイトについて説明するときに、「YouTube」はスラスラと口から出せるのですが、『ニコニコ動画』と言う前には、一瞬、ためらってしまいます。「えっ、『ニコニコ』?それって怪しいサイトじゃないの?」なんて訊き返されることも多いです。 そう訊き返されても、「いや、怪しくないよ!」って断言しにくくもあるんですよね、なんとなく。最近は、著作権侵害動画などはすみやかに削除されるようになりましたし、政治の世界とのコラボレーションもみられたりして、「健全なサイト」になっているのですけど。 サイトそのものの規模もあり、YouTubeのほうが、消しきれない違法動画が残っているくらいなのにね。
僕は、比較的初期の頃から『ニコニコ動画』を利用しているのですが、コメントはオフにして動画を観ることが多いこともあり、あの「弾幕」ができるまでに、こういう経緯があったというのは知りませんでした。 『ニコニコ動画』が世に出たときに、開発者インタビューなどで、YouTubeの画面上にリアルタイムでコメントを乗せられるようにしただけの「これまでの技術の焼き直し」というような話を何度か読んだことがあるのですが、「コメントをどう見せるか」というのは、『ニコニコ動画』の最重要ポイントでもあり、簡単そうにみえて、さまざまな試行錯誤があったようです。 「動画とコメントを組み合わせただけ」であっても、その「組み合わせかた」次第で、面白くもなれば、単に「動画が見づらくなるだけ」にもなりえます。 それにしても、「弾幕」時には、モードの切り替えまで行われているとは……開発側は、「祭り」の雰囲気を出すために、ものすごく苦労と工夫をしていたようです。
僕は「弾幕」に対して、「画面が見えん!」と感じて、コメント自体をオフにすることも多いのですが、リアルタイムでその場にいなくても、ある動画の時間の流れのなかで、一緒に「祭り」に参加できるというのは、素晴らしいアイディアだと思います。逆に、「たくさんのコメントに埋もれてしまうことで、悪口や過激なコメントを書きやすくなる」というのは、『2ちゃんねる』にも共通した「問題点」ではあるんですけどね。
『ニコニコ動画』は、現時点では、「利用者は多いが、サーバーの負担が大きいため、なかなか黒字化できない」とのことなのです。 これから「成長」していくことを考えると『ニコニコ動画』という名前は、ちょっと微妙な感じもしなくはないなあ。ネット中毒者的には、「すばらしいセンス」だと思うけど……
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