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2009年06月17日(水) ■ |
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声優・大塚明夫さんの驚くべき「声の演技」 |
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『桜井政博のゲームについて思うことX』(桜井政博著・エンターブレイン)より。
(『大乱闘スマッシュブラザーズX』の制作時の声優・大塚明夫さんのエピソード)
【スネークの声を演じるのは、大塚明夫氏。大物です。代表作は『ブラック・ジャック』、日曜洋画劇場のナレーションなど。シブくて太い声で、ゲーム関連にも多数出演されています。スネークは、氏の声あってのものですよね!! 夏のころ、渋谷のスタジオにて。『スマブラX』は対戦型のアクションゲームなので、各キャラクターのセリフは短く少なめです。だから、声優さんを全員集めて何日もかけて収録するということはありません。ひとりずつ時間単位でスケジュールを割り当て、短いセリフを数十テイク収録し、はい、おつかれさま、という淡白なもの。でも、後日再収録、なんてことはできないから、よーく聴いておかしなところがないか判断しなければなりません。わたしも、ここぞとばかりに音に集中します。 そしてついに大塚さんが登場。事前に台本を読んでいただいているので、準備万端。諸処説明後、大塚さんは録音ブースへ。わたしは指示を出すために編集スタッフ用のマイクの前へ。 順調に収録が進んでしばらく。大塚さんの発声が少しつかえたように聞こえました。ん? と思いながら、「もう1テイクお願いします」とお願いしたところ、なにやら怪訝そうなお顔。あれ? 悪いことを言ったかしら……。 ここでのお話、コラム連載中には具体的に書くことを伏せていましたが、いまなら書けます。 スネークの”スマッシュアピール”において、ルカリオの波導の色を語る描写がありました。 「メイ・リン、奴の手から出ている”紫”の炎はなんだ?」と。そこが、ちょっとつかえていたと。 大塚さんに話を伺ってみると、どうやら”色を形容するときに言葉を捜すさま”を演じていたのだとか。「色を言葉にするとき、すぐにその色の名前が出る人は少ないでしょ? それで、色の名前を考える間を入れてみたんだけどね」。なるほど……!! これは感服。たしかにそのとおりです! 目の前に広げられた台本。氏はそれだけにとらわれず、情景、あるいはスネーク本人の思考をリアルに頭に浮かべながら演じているのだと感じました。空気のように自然に演じられているかもしれないし、よく考えてのことかもしれない。いずれにせよ、声優なり役者なりの熟練の成果なのでしょう。 声優さんに限らず、シナリオを書く人も、頭の中でいろいろなキャラクターが語り、叫び、吠えているものだと思います。 そこにないものをあるように見せること。それに賭けている人には、いろいろな方向性があれど、経験や情感が活きていくのだろうと思います。それが重なって作品性がにじみ出てくるのだろうと。】
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『ブラック・ジャック』のアニメ、僕もずっと観ていました。大塚明夫さんは、本当に良い声なんだよなあ。 このエピソードを読んでいると、声優という仕事の奥深さを感じずにはいられません。単に「声質と発声の技術だけでできる、台本を読むだけの仕事」ではないということがよくわかります。 それにしても、「大物声優」である大塚さんの、こだわりの凄さには驚かされます。 「ゲームのキャラクターの声」それも、『メタルギア』のナンバリングタイトルならともかく、「『スマブラX』に出てくるたくさんのキャラクターのひとりとして、何十個かの短いセリフを喋るだけの仕事」に、ここまで真剣に取り組まれているとは! この「色を形容するときに、言葉を捜すさま」というのは、実際に体を動かして「演技」をしていれば、なんとなくできてしまうことなのかもしれません(実際はできない役者さんのほうが多そうですが)。 でも、目の前に「台本」があるにもかかわらず、ここまで考えて「声の演技」をするのは、かえって難しいことなのではないかと思います。「紫の炎」って書いてあれば、「ああ、『ムラサキノホノオ』ね」って、サラッと読んじゃうのが普通のはず。声優さんでも、多くの人はそんな感じなのでしょう。 桜井さんは、「一緒に仕事をしたすべての声優」ではなく、「大塚明夫さんに」驚いたのだから。 これぞまさに「プロの声優」の仕事! こういうエピソードを読むと、日本で公開されるアニメ映画の多くで、「プロの声優」ではなく、「人気タレント」が起用されていることへの疑問を感じてしまいます。 まあ、オリジナルのハリウッドのアニメ作品の「声の出演者」たちにも、同じことが言えるのですけど。
しかし、こういう裏話を知らないと、ゲーム中にこのセリフを聴いたら、「このセリフ、失敗したテイクをそのまま使ったんじゃない?」とか思いそうではありますね。 僕は『スマブラX』持っているのですがあまり遊んだことがなく、このセリフは聞いたことないのですが、ゲーム中は、どんなふうに聞こえたのだろう?
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