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2008年12月09日(火)
「一泣き10万部!」という某有名女性タレントの「影響力」

『このミステリーがすごい! 2009年版』(宝島社)の「このミス座談会2008」より。パネリストは大森望さん(翻訳家・書評家)、香山二三郎さん(コラムニスト)、杉江松恋さん(書評家・作家)、西上心太さん(書評家)の4名です。

【西上心太:東野(圭吾)、伊坂(幸太郎)、海堂(尊)、有川(浩)、この4人の後に続く作家って誰だろう?

香山二三郎:新人では『告白』の湊かなえが脚光を浴びたじゃない。今後どうなるかな。

杉江松恋:これは大森さん言うところの「優香効果」ですか。「王様のブランチ」での。

大森望:最近は、あの番組で優香が一言コメントするとドカンと跳ね上がるんだよ。小川糸『食堂かたつむり』がその典型。優香がカメラに向かって「泣きました」って言うと売れる。「はてなの茶碗」(落語)の茶金さんじゃないけど、一泣き10万部(笑)。「優香がおもしろいって言うなら私にも読める」っていう信頼感があるのかな。

西上:「週刊ブックレビュー」で中江有里が泣いても駄目なわけね。

大森:年に300冊も読む人は一般視聴者と違うでしょ。最近は『ブランチ』で横にいる谷原章介が時代小説担当になっていて、張り合って『のぼうの城』を薦めたり。効果は優香の3分の1ぐらいみたいだけど。

香山:『告白』って、泣ける話じゃないだけどね。どういう薦め方をしたのかな。

大森:優香は「ハマりました。すごく面白かったです」と言ったみたい。このストレートさがポイント(笑)。『告白』は、これまで売れない本ばかり作り続けていた双葉社のベテラン編集者・平野さんが放った起死回生のホームランでもある。本当に惚れ込んでいて、平野さんに言われたもん。「大森さん、ゲラあるけど読みたい? 今読んでおいたほうが絶対得だから、どうしても読みたいっていうなら読ませてあげてもいいわよ」って(笑)。】

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 『王様のブランチ』で紹介された本は売れる、という話はよく耳にするのですが、優香さんの「一泣き10万部」には驚きました。
 そういえば、僕がまだ学生の頃、小泉今日子さんが「愛読書」として紹介した『モモ』が大ベストセラーになったことがあったなあ(調べてみたら、1987年のことみたいです)。
 でも、『王様のブランチ』を観て、優香さんが紹介した本を買っている人というのは、必ずしも「優香さんの大ファン」ばかりではなさそうなんですよね。もちろん、「優香なんて大嫌い」という人は買わないのでしょうけど。

 大森望さんが書かれている【「優香がおもしろいって言うなら私にも読める」っていう信頼感】というのが正しいのかどうか、僕にはよくわかりません。
 僕自身は、「優香が薦めているから、読んでみよう」とは思わないし。
 ただ、「あの番組で紹介される本は、優香さんが読む前にある程度厳選されているんだろうな」というのはわかります。忙しい優香さんが、書店で新刊を買いあさって自分でレビューする本を決めているってことはないでしょうから。
 そういう意味では、「いま、注目の本」が紹介されているのは間違いないところです。
 それでも、谷原章介さんの3倍の効果があるというのは、よっぽど「優香さんへの信頼」が厚いってことなんでしょう。

 しかし、世の中には優香さんよりももっとたくさん本を読んでいて、面白い本を知っているはずの「書評家」がたくさんいます。同じ芸能人としても、本当に「年間300冊読んでいる」という中江有里さんのほうが、はるかに「見る目がある」のではないでしょうか。
 ところが、そういう「書評のプロとして一生懸命本を読んで、自分の言葉で語っている人たち」の書評というのは、なかなか直接の売上げにはつながらない。
 優香さんなら、「ハマりました。すごく面白かったです」っていう「ありきたりの感想」を述べるだけで、その本を大ベストセラーにすることができるのに。

 双葉社のベテラン編集者・平野さんが「大ホームラン」を放ったというのは心温まる話ではあるのだけれど、こういう「本のプロ」の地道な努力が実るかどうかを最終的に決めるのが、優香さんの「ストレートな感想」だというのは、なんだかちょっと割に合わない話のような気もします。

 世の中の大部分の人は、結局のところ、「どんな言葉で薦められたか」ではなくて、「誰が薦めたのか」で判断しているんだろうなあ……