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2008年12月01日(月) ■ |
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「アフィリエイトで手っ取り早く月30万円を稼ぐ方法を教えます」 |
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『ブログ論壇の誕生』(佐々木俊尚著・文春新書)より。
【アフィリエイトをめぐる現状を、少し説明しておこう。 アフィリエイトが最初に登場したのは割合と古く、1996年にまでさかのぼる。発明者はオンライン書店のアマゾンだ。以下のようなエピソードがある。 ――アマゾンの創設者であるジェフ・ベゾス氏がある日、パーティでひとりの女性を紹介された。彼女は、ベゾス氏に言った。 「わたしは離婚に関するホームページを作っていて、かなり多くアクセス数を稼いでいるの。このサイト上で商品を売ったら儲かると思う?」 ベゾス氏は答えた。「そりゃ儲かるかもしれないけれど、商品を売るためには倉庫も必要だし、決済の仕組みも作らなければいけないからたいへんだと思うね」 すると女性は、冗談交じりにこう返した。「じゃあ私のサイトでアマゾンの本を売るのはどう?」 この会話がヒントとなって、ベゾス氏は個人サイトで本を紹介してもらい、その売り上げに応じて報酬を支払うというアフィリエイトを生みだした。 アフィリエイトは従来のテレビCMや雑誌広告、あるいはウェブサイトのバナー広告と比べても、広告主にとっては突出したメリットがあった。商品がそのアフィリエイト広告によってどれだけ売れ、どれだけのコストを必要としたのかが一目瞭然で、費用対効果を簡単に計算することができたのだ。テレビや雑誌、新聞など従来型の広告宣伝がかなりギャンブル的な要素を持っているのに対し、アフィリエイトであれば、売れた分だけ広告費を支払えばいいからだ。広告主にとっては、非常に事業計画の立てやすい仕組みになっていたのである。グローバリゼーションが進み、企業のコストがあらゆる面で削減されている中で、2000年以降、アフィリエイト広告は急成長し、インターネットの広告モデルの中でも大きな位置を占めるようになったのだった。
そしてこのアフィリエイトというモデルは、驚くべき玉石混淆の世界であり、最北の地にはアフィリエイトを機械的な金儲けツールとしてとらえ、徹底的に利用していこうというビジネスもある。 たとえば「月収10万円を軽くクリア」というキャッチフレーズで、「ブログアフィリエイト成功マシーン」というソフトを5250円で販売しているサイトがある。キーワードを指定して作成ボタンをクリックするだけで、この「マシーン」が自動的に記事を作成してくれるという。利用者はその記事をアフィリエイト広告を自分のブログに貼り付けるだけで良いというわけだ。 おそらくはインターネットを巡回し、利用者が設定した広告キーワードに適合したウェブのテキストを、どこかのサイトからコピーしているのではないかと思われる。たとえば「自動車」というキーワードを設定しておけば、自動車に関連した記事を探してきてコピーし、自動車関連のアフィリエイト広告とともにブログ上に自動的に貼り付けるような仕組みになっているのだろう。
(中略)
実際、このようなソフトを使って更新したと思われる、非常に中身の薄いブログは、インターネット上に爆発的に増えている。なぜ人があまり訪れないような、このようなサイトがあふれているのだろうか? こんなサイトを作るよりも、リスペクトをきちんと打ち出した良質なアフィリエイトブログを作った方が、自分のためにも人のためにも役に立つのではないだろうか? その疑問に答えてくれる明快な文章が、「PLAMO WEB2.0」のサイトに記されている。 「アフィリエイトで手っ取り早く月30万円を稼ぐ方法を教えます。その方法は、実にシンプルでとてもパワフルです。それは…『月3000円稼ぐサイトを100サイト作れば良いんです!』どうです? 簡単でしょう? 『月3000円稼ぐサイト』というのは、ちょっとコツを知ってしまえば誰でも簡単に作れます。 はっきり言いますが、サイトの量産は手っ取り早く稼ぐための唯一の方法です」 機械的にブログを量産し、それぞれのブログに偶然立ち寄った読者にうっかり広告をクリックさせることで、小さな儲けをたくさん発生させる。要するに「塵も積もれば山となる」である。金儲けの戦術としては決して間違いではないが、しかしそこにはウェブ2.0的な集合知も人と人とのつながりもない。ただひたすら、自動的にブログが量産されていく、近代のロボット工場のようなものが出現しているだけだ。】
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「アフィリエイト」が今から12年も前に始まっていて、しかも、創始者が「Amazon」だったというのを、僕はこの本ではじめて知りました。そう言われてみると、さすがにAmazonのアフィリエイトというのはシステムが洗練されているな、という気もしてきます。
僕はこの『活字中毒R。』とは別の場所でブログをやっていて、そこでは本の紹介のエントリを書いています。 それほど気合を入れて「売ろう!」としているわけではないからなのかもしれませんが、そこでの「成績」は、アフィリエイトってそんなに甘いものじゃないなあ、というのは実感せざるをえないんですよね。 3%の報酬だと、1000円の本が一冊売れたとして、もらえるお金が30円。しかも、実際にアフィリエイトをやっていても、そんなに簡単に商品は売れるものではありません。近くの書店に売っているような本なら、出かけて買ってきたほうがはるかに手っ取り早い場合も多いですし。
僕の経験上、【『月3000円稼ぐサイト』というのは、ちょっとコツを知ってしまえば誰でも簡単に作れます】というのは、あまりにも甘すぎる見通しです。いや、100個のうち1個くらい、「月3000円稼げるサイト」ができることはあるかもしれませんが、100個のサイトのアフィリエイト報酬の平均が「月3000円」というのは、ちょっと考えられません。Amazon基準でいけば、報酬を3000円稼ぐには10万円分の商品を売らなければならず、×100ということは、月に1000万円の売上げが必要となるわけです。 いわゆる「アルファブロガー」ならともかく、普通の人がそういう既成のツールを使って作成した「ありきたりのサイト」で、そんなに商品が売れるとは思えないのです。 自分が「買い手」の立場になってみれば、そんな「金儲けのためにやってます!」っていう雰囲気が伝わってくるブログで買い物をする人がほとんどいないというのは、御理解いただけるのではないでしょうか。 だいたい、本当にそんなに儲かるんだったら、そんなソフトを売るんじゃなくて、絶対に自分で『月3000円稼げるサイト』を1000個くらい運営するって。
それでも、「甘い言葉」に誘われて、世間には「泡沫アフィリエイトブログ」が多量に生まれ続けており、そこからのスパムトラックバックやエントリの無断コピーに「一般ブログ運営者」たちは悩まされ、ネットユーザーはウンザリさせられているのです。 ところで、この佐々木さんの文章のなかで僕が印象に残ったのは、アフィリエイトに「広告主にとっては突出したメリットがあった」というところでした。 アフィリエイトでお金を貰うブロガー側からすれば、「実体のない『宣伝』という行為でお金がもらえること」はなんだかすごく儲かったような気がするのではないかと思うのです。 しかしながら、広告主からすれば、「先行投資をする必要がなく、ブロガーたちが自主的に売ってくれた商品の利益の一部を還元すればいい」というのは、ブロガー側が思っているよりもはるかにありがたいシステムのはず。 テレビや新聞などのメディアで、「商品が売れたら広告費払うから、先にCM流しておいて」というのはありえません(もしそうなったら、メディアは一層「とんでもないこと」になりそうですが)。
個人ブロガーは小金のために言いたいことが言えなくなったり、スパムに悩まされる一方で、企業はノーリスクの宣伝媒体を手に入れている…… 結局、「ネットだから、お金をラクに稼げる」なんていうのは幻想なんですよね。 でも、「ウェブ2.0的な集合知」という「ネットの理想」も、そういう「バカバカしい一攫千金の幻想」に押しつぶされていくのが、現実というものなのでしょう。
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