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2008年09月28日(日) ■ |
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「新宿駅最後の小さな飲食店」の「困ったお客様」への接客術 |
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『新宿駅最後の小さなお店ベルク』(井野朋也著・P-Vine BOOks)より。
(「都心の超ど真ん中(新宿駅東口改札から徒歩15秒)にある15坪の個人店『ベルク』」の店長・井野さんが『ベルク』の歴史や店のこだわりを書かれた本の一部です)
【経営者が現場の最前線に立って店をまわすことを、私たちは「現場主義」と呼んでいますが、それにはプラス面とマイナス面とがあります。両面があるというより、経営者によって、うまくもいけば裏目にも出るということですね。私自身、現場をアルバイトにまかせた方がいいと思うことがあります。 バイトスタッフは、余計なことを考えないので、わりきって働いてさえもらえれば、かえって経営者よりいい接客をするからです。 例えば4人席と1人客が陣取っているのを見ると、経営者はそのお客様をつい別の席に移動したくなります。それをマニュアル化して、スタッフにやらせているところもあります。確かに席を空けておいた方が、団体客が来たときに案内しやすい。でも、その1人客が帰るまでに団体客がくるとは限りません。経営者は席にしろ何にしろ、店そのものが自分の商売道具という意識が強いので、愛情はあるのでしょうが、思惑と違った使われ方をされるのが許せないのです。相手がお客様であっても、つい手を出したくなる。 しかし、それでは経営者が現場にいても、いることにはなりません。なぜなら、現場とは接客だからです。接客をしないで店をまわす経営者は、むしろ現場を邪魔することになります。裏目に出るとは、そういうことですね。
「接客をしないで店をまわす」とはどういうことかというと、経営者の思惑(効率)優先で動くこと、そして同じことですが、面倒事を想定して事前に回避しようとすることです。 4人客がくるのを想定して1人客をあらかじめ4人席から移動しておけば、4人客がきてから移動するよりスムーズです。しかし、そこで無視されているのは、いま店にいるお客様の気持ちですね。4人客が実際にきて移動させられるなら、まだそのお客様も納得がいくでしょう。 しかし、いま店にいる自分のためでなく、くるかどうかわからない誰かのために席を移動させられるのは、なんとなく不当な扱いを受けた感じがします。だから店によっては、予約席と表示して、最初から4人席に1人客を座らせないようにするところもあります。ただレストランならまだしも、うちのような大衆店がそんなことをしても、嫌味でしかありません。 いずれにしても接客は、目の前のお客様を気持ちよく受け入れることがすべてといってもいい。席は、一時でもお客様のものです。店が混んで座れないお客様がいらっしゃったら、はじめてそのお客様の代わりにほかのお客様にご協力を願う。死んだ席をよみがえらせる。それがいわば店の役目であり、接客ですね。 店の状況は、どんどん変わります。その度に頭を切り替えて、お客様第一に動くのが店における「現場主義」です。要するに、臨機応変な対応ですが、現場(接客)から離れると、その感覚が次第に失われるのです。だんだん管理しようとするようになります。管理とは、まさに「面倒事を想定して、事前に回避しようとすること」ですね。接客とは相反するものです。
お客様に恥をかかせない。それも接客における心得の一つといえます。例えば、よそから持ち込んだ飲食物を店内で召し上がっているお客様に、どう対応するか? 「お持込みお断り」と貼り紙をしている店もあります。気持ちはわかります。経営者の立場からすると、飲食店で「持ち込み」が認められてしまったら、すなわち経営の危機を意味しますから。現場感覚でいっても、外の自動販売機で買った缶コーヒーを席で飲まれたら、何のために一杯のコーヒーに全神経を注いでいるのかわかりません。店にとって「持ち込み」はトップクラスの迷惑行為です。 ただ、私は「お断り」とか「ご遠慮」という否定的な表示をするのはなえるべく避けたいのです。表示は不特定多数の方に向けられるからです。 そういう表示をしなければしないで、それを盾に逆ギレするお客さんがいらっしゃいます。「どこにも表示がないじゃないか」と。それを恐れて店は表示するのでしょうが、そういうお客様は数からすればごく少数ですし、その少数の方のためにわざわざマイナスオーラの出る表示をする必要はないと思います。 また逆ギレするお客様はなぜするかというと、恥をかかされるからです。持ち込みをしないでくださいというのは、いくら相手に非があるとしても、またこちらが頭を下げてお願いしても、いわれた方は公衆の面前で叱られているのと同じことです。鬼の首を取ったように指摘する店員もいますが(気持ちはわかります)、いっていることは正しくても、お客様の気持ちに対する配慮が欠けています。 では見て見ぬふりをするのか? 私なら、まずちょっと様子を見ますね。あまりにもあからさまな場合は、ほかのお客様に気づかれないようにそっと店の食器を差し出し、持ち込んだものの中身だけをそちらに移していただくようお願いします。そのときに、一応(建て前上)お持込みはご遠慮いただいておりますので、もとの容器は隠していただけますか?と食器を代えていただく理由を申し上げるのです。そのお客様は恥をかかずに自分がルール違反していることに気づくことができますし、その場の持ち込みはこっそり認められるので、特別扱いを受けたような得したような気持ちにもなれます。 店には店の都合がありますが、それを通すにしても、いかに通すかです。そこで接客の腕が試される。まずお客様の気持ちが何よりも優先されなければなりません。】
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『ベルク』は、新宿駅にあるわずか15坪のセルフサービスのファーストフード店。安さと食べ物のクオリティ、雰囲気づくりへのこだわりもあって、一日平均1500人ものお客さんが来るほどの人気なのだそうです(僕は残念ながら、この本を読んではじめて『ベルク』の存在を知ったのですけど)。
僕はこれを読みながら、三谷幸喜監督の『THE 有頂天ホテル』の冒頭のシーンを思い出していました。 ホテルのレストランで女性と食事をしている男性が、取り皿と間違えた灰皿で女性に料理を取ってあげているのをスタッフから告げられたときの、役所広司さんが演じていた副支配人の行動。 副支配人は、「あのお客様に、灰皿だと告げる事は彼に恥をかかすことになる。すぐ、全部のテーブルに置いてある灰皿を片付け、その灰皿とは明らかに違う型の灰皿に変えなさい」とスタッフに指示を出して、その場をしのいだのです。
僕はあの場面を観て感動しながらも、サービスっていうのは、突き詰めていくと、かえって大仰になりすぎて苦笑してしまうところがあるなあ、と考えたものです。
ここで紹介されている『ベルク』の接客は、「客回転が速いセルフサービスの店」としては、やりすぎなのではないかと思われるほど誠実なもののように僕には感じられます。こういうポリシーで接客されれば、お客としては文句のつけようがない。 まあ、僕自身は「1人で4人席に座って、あとで席を移ってくださいと言われたり、相席を頼まれたりする」煩わしさを考えると、空いている店でも「最初からカウンターでいいや」と考えてしまうんですけどね。たぶん、僕みたいな客も少なくないはず。 それにしても、あまり流行っていないように見えるレストランでも「御予約席」の札がテーブルに掲げられているのは、こういう理由があったからなのか……
高級レストランに「持ち込み」をする人はまずいないだろうと思われるのですけど、『ベルク』のような駅にある店、しかもセルフサービスだと、たしかに「持ち込み客」が死活問題だというのはよくわかります。単に「座って休みたい」だけの人が休憩所がわりに入ってくることだってありそうだし。 そういうお客さん(?)に対する井野さんの「対処法」には「なるほど!」と感心させられるのと同時に、「サービス業っていうのは、ここまでお客に恥をかかせないように気を配らなければならないのか……」と驚いてもしまうのです。 だって、「常識的」に考えれば、どうみてもそんな客のほうが悪い、というか、そんなの客じゃないだろ、と。
しかしながら、これは「善意」ばかりじゃなくて、結局のところ、こういうふうに「相手に恥をかかせないようにする」ほうが、店にとってもメリットが大きいというのも事実なのでしょう。混雑時に逆ギレした持ち込み客と店員さんが怒鳴りあっていたりしたら、店のイメージダウンも甚だしいだろうから。
「接客のプロ」の話を読むたびに、僕はいつも「自分にサービス業は向いてないなあ」と思い知らされます。「他人に関する面倒事の解決に喜びを感じられる性質」っていうのは、天賦の才能なのではないかと考えずにはいられないんですよね……
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