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2008年04月09日(水) ■ |
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「あ、カンペに清水新ネタを披露って書いてあるけど、やりたいわけないよな。つらいよな」と言ってくれた人気司会者 |
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『いらつく二人』(三谷幸喜、清水ミチコ著・幻冬舎)より。
(三谷さんと清水さんのラジオ番組『DoCoMo MAKING SENSE(J-WAVE)』の2005年12月〜2006年5月放送分を書籍化したものの一部です)
【三谷幸喜:ま、それより清水さん、悩みがあるらしいですね。
清水ミチコ:悩みじゃないですけど、バラエティ番組に出演する時って、必ずといっていいくらいに、「清水、新ネタでモノマネを披露しながら登場」なんて台本にあったりするんですよ。それがすごく、やりにくいんです。
三谷:視聴者としてはね、そういうの見たいってありますからね、そりゃ頼みますよね。
清水:でも、私としてはちょっと断りたいんですけど、断り方がわからない。
三谷:どういうことなんですか。
清水:やっぱり新ネタっていう感じでふられると、期待も上がるじゃないですか。しかも、新ネタって言われてもそうそうないんです。
三谷:毎日新ネタ作ってるわけじゃないですからね。
清水:まあそれもあるし、周りの人に、笑う用意をさせてる空気を作らせるのがいやなんです。
三谷:ああ、わかるわかる。
清水:この間もほら、古畑任三郎さんのお嬢さんと会ったって話の時、三谷さんに田村さんのモノマネやってって言ったらできなかったじゃない。やっぱりなんか、モノマネってひょいと自分で思いついた時にポンと入れると楽しいんだけど、そうじゃなくて、さあ、おなじみのをやれ! と言われるのはつらいよね。
三谷:確かに、あの時はむかっときたもんな。いまさら田村正和さんのモノマネしろっていうのひどいじゃないですか。やっても絶対面白くないもん。
清水:そうなの、無理にやらされる感じだと面白くないんだよね。だけど、その空気を説明するのが、すごく長くなりそうで説明も面倒くさくなって、今までやってきちゃったの。おまけにカットされることもあったりして。
三谷:ああ、ショックですね。ある意味オーディションに落ちたみたいなもんですもんね。
清水:長年モヤモヤしてたんですけど、先日ある番組に出たら司会者が、「あ、カンペに清水新ネタを披露って書いてあるけど、やりたいわけないよな。つらいよな」って言ってくれてすごく感激したんです。さぁここでクイズです。それはいったい誰でしょう。
三谷:はい。
清水:お笑いの方ってのは、人の気持ちを察するのが早いなあと思ったんです。
三谷:紳助さんでしょ?
清水:あ、なんでわかった?
三谷:もうわかりますよ。だって、言いそうじゃないですか。
清水:人の心理がわかる人って感じ?
三谷:AB型ですからね、紳助さん。
清水:え、そんな判断? 私は十数年やってきてそんなこと言われたのは初めてだから、あまりにもびっくりして、パクパクしましたね。
三谷:お尻がパクパクしたんですか?
清水:心臓ですよ。紳助さんのおかげでその時は救われましたけど、これからもあると思うとちょっとうんざり。
三谷:この仕事を始めたからにはもう宿命じゃないですか。そりゃやらなきゃ。
清水:ついさっきその気持ちわかるって言ったじゃん。大勢のお客さんがいる前で「ねえ古畑さん」って言われて、断るのはすっごく難しいんだから。
三谷:僕にそういうふうに言うのは、清水さんぐらいですもんね。古畑のマネしろなんて、普通ないから。】
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「やっぱりなんか、モノマネってひょいと自分で思いついた時にポンと入れると楽しいんだけど、そうじゃなくて、さあ、おなじみのをやれ! と言われるのはつらいよね」という清水さんの気持ち、芸人ではない僕にもなんとなくわかるような気がします。 身近なところでも、普段「面白いと周囲から言われている人」が、「こいつ面白いから」「じゃあ、なんか面白いこと言って!」というような流れでみんなの前で喋らされると、ほとんどの場合「面白くない」ですしね。 「芸人」としては、「この仕事を始めたからにはもう宿命じゃないですか。そりゃやらなきゃ」と言われてもしょうがない面はあるのでしょうけど。 逆に、そういう場でもうまく期待に応えられるからこそ「プロ」なんだ、とも言えますし。
「視聴者を笑わせられる自信がある新ネタ」なんて、そうそうできるものじゃないでしょうし、テレビの場合、「新ネタ」として使えるのは「1回限り」ですから、「そんなに簡単に新ネタなんて言われても……」というのもよくわかるのですが。
僕はこの「あ、カンペに清水新ネタを披露って書いてあるけど、やりたいわけないよな。つらいよな」と言ってくれた司会者が島田紳助さんだというのを「正解」できなかったのですが、答えを聞いてみると、なるほどなあ、と感じました。「いかにも紳助さんっぽい言い回し」でもありますしね。 紳助さんは、番組中では出演者にかなり厳しい(ときには失礼な)ツッコミをしているような印象があるのですが、その陰で、こんな「気配り」も見せているのです。
台本に対して、それをやる芸人が自分で反発するのなら話はわかりますが、そうすると当然角が立ちます。場合によっては、「あいつは使いにくい」という評判が広まってしまうかもしれません。清水さんだって、「断れるものなら断っていた」けれども、結局それまでずっと「新ネタ」を不本意ながら披露してきたわけです。 番組の司会者としては、台本どおりにやって、面白くなかったらカットする、というのが最もラクな方法でしょう。スタッフの面子も保たれるし、自分が憎まれることもない。 そこで「出演者の気持ちを汲んであげる」からこそ、番組の中では、あんなにキツイ言葉を浴びせても信頼関係が揺るがないのでしょう。
まあ、こういうことが言えるのも、「人気司会者・島田紳助」だからこそで、駆け出しの芸人が同じことをやったら、干されるだけなのかもしれませんし、これはこれでちょっとカッコよすぎるなあ、という気もするんですけどね。
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