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2008年03月20日(木)
21世紀版の『広辞苑』に秘められた魅力

『ダ・ヴィンチ』2008年3月号(メディアファクトリー)の記事「ヒットの秘密EX」の『広辞苑 第六版』(岩波書店)より。

【1955年発行の第一版からの累計発行部数を東海道線・山陽線の線路に並べていくと、なんと東京から広島まで到達してしまう――『広辞苑』が単なる辞典を超えて、いかに日本人に愛されているかがわかるだろう。
 そんな「永遠の定番」が1998年の第五版から約10年ぶりに改訂され、『広辞苑 第六版』となって(2008年)1月11日に発売された。第五版の約23万項目すべてをブラッシュアップし、新たに1万語を加えた約24万項目を収録。しかし、それだけではない。『広辞苑』はその実直なルックスの奥で、着実に進化を遂げていたのだ。発売前に30万部超の予約が入り、その後も順調な人気の、21世紀バージョンの『広辞苑』に秘められた魅力とは……? 編集部の上野真志さんに聞いた。

<『広辞苑』のギモン>
Q:『広辞苑』を書いているのは誰?
A:各分野の第一人者的な方々に執筆・校閲をご担当いただいています。第六版では全部で160名以上。例えば、飲食分野は辻調理師専門学校、郵便分野は逓信総合博物館の学芸員の方にお願いしました。ちなみに第一版のときは、新村先生(新村出、京都大学名誉教授・『広辞苑』第一版の編者)のつながりで同じ京都大学の湯川秀樹先生が参加してくださっています。

Q:薄い紙なのに裏写りしないのはなぜ?
A:特別開発の専用の用紙を使用しています。裏写りを低減させるため、紙の中に光を乱反射させる炭酸カルシウムや二酸化チタンのような鉱物を混ぜるんですが、その配合を工夫しました。それと、技術的に製本機は8センチ以上の厚さに対応できません。しかしこれも紙の改良により、第五版から64ページ増えたのに、逆にほんの少し薄くなっています。毎回、その改訂時の技術の粋を集めて作っているんです。

Q:新語はどうやって選んでるの?
A:まず、新聞・雑誌・テレビなどのメディアや同種の辞典、さらに読者からのご意見を通じて、新しく追加する言葉の候補をひたすら収集します。第六版で収集したのは約10万語(!)。これを、執筆に当たられる先生方とのご相談や、編集者の投票によって絞り込んでいき、最終的に約1万語を決定しました。目立った特徴はカタカナ語が増えたこと。たとえば、大リーグが人気になった影響で『クローザー』『セットアッパー』といった言葉が加わりました。新しい言葉だけでなく、昭和40年代までの時代相を表す言葉や地方語なども加わっています。なお、今回最後に新項目として追加されたのは、去年(2007年)8月30日に指定された『尾瀬国立公園』です。】

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 1955年に第一版が発行されてから53年の歴史を誇る『広辞苑』。
 第一版から第五版までの累計発行部数は、なんと1100万部にものぼるのだそうです。
 今年(2008年)1月に発行された第六版には、通常定価8400円の「普通版」と、字が大きくなっていて、2冊に分冊された定価12600円の「机上版」、そして、「書籍版と同じ24万語を完全収録した」という定価1万500円の「DVD-ROM版」があります。
 僕も高校くらいまでは実家に置かれていた『広辞苑』で、わからない言葉を調べていたものですが、最近ではすっかり縁が無くなってしまい、『広辞苑』と聞いても、「ああ、伊坂幸太郎さんの『アヒルと鴨のコインロッカー』で盗まれる本か」なんていう感じです。
 分からない言葉は、まずネットで検索してみるというのが習慣になってしまっていますし。

 これを読んでいて、以前、「ある専門用語の辞書の項目の解説の下書き」のアルバイトをしたことを思い出しました。いや、あまり大きな声では言えないのですが、「解説」を書くのに僕たちがどうしていたのかというと、「他の辞書で同じ言葉を引いて、ちょっと言い換えて写していた」のですよね。もちろん、それはあくまでも「下書き」の話で、執筆・校閲担当の人が、ちゃんと直してくれていたと思うのですが、「辞書を作る」っていうのはものすごく大変なのだと実感したのと同時に、全くの白紙の状態から「最初の辞書」を作った人というのは、本当に偉いものだなあ、と考えさせられたものです。

 しかしまあ、『広辞苑』などの辞書の解説を読んでいると、「これを書いた人も苦しんだみたいだな」というのが伝わってくる項目も、けっして少なくないんですけどね。「愛」とかを簡潔明瞭に言葉で説明しろって言われても困りますよね本当に。

 これを読んでみると、「歴史的大ベストセラー」であるの同時に、「古臭い過去の遺物」のように感じている人も多いであろう『広辞苑』が、こんなに発行元の岩波書店では大切にされていることと、多くの専門家の知識と最先端の技術を集めて作られているということに驚かされてしまいます。
 辞書なんて、一度ひな型を作ってしまえば、あとはほんの少し「改訂」するだけで繰り返し売れる「『実況パワフルプロ野球』の新データ版(いや、あれだって地道に改良されてはいるんですが)みたいな「美味しい商売」だと僕は思っていたのですが、「改訂し続けることこそが『広辞苑』の価値」だったのです。

 ちなみに、この記事によると、
【上野さんたち編集部の方々は第六版の発売と同時に、早くも第七版の準備に取りかかっている】のだそうです。
 日本語があるかぎり、『広辞苑』の改訂に終わりはない、ということなのでしょうね、きっと。