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2008年03月21日(金)
矢沢永吉さんと三谷幸喜さんの『情熱大陸』

『いらつく二人』(三谷幸喜、清水ミチコ著・幻冬舎)より。

(三谷さんと清水さんのラジオ番組『DoCoMo MAKING SENSE(J-WAVE)』の2005年12月〜2006年5月放送分を書籍化したものの一部です)

【清水ミチコ:この間「情熱大陸」に、矢沢永吉さんが出てたんですけど、私2回も見ちゃった。やっぱりすごいですね、一言一言が、「矢沢節」っていうのかな? で、あの方明るいし、自分を言葉で表現するのが大好きな方じゃないですか。普通アーティストって歌で表現するから、「俺はそんな喋んない」とか「喋りは得意じゃなくてね」っていう人が多いのに、矢沢さんはすごい語るのよね。「音楽、最高」とかさ。

三谷幸喜:矢沢さんは一言一言が何か重みを感じます。

清水:そうなのよね。それでね、「俺、しょっちゅう行く店があるんですよ。そこ行きましょうよ」って連れ出すんですけど、行ったお店がちゃんぽん屋さん。で「いつもの」って言うと、店員さんがキョトンとして「えっと……皿うどんですか?」「ああ、それ」って言って(笑)。

三谷:それを含めて、何かね人間的な大きさを感じる。

清水:そうなの、人としての大らかさを感じて、素敵だったな〜。

三谷:ぜひ見たいな。それじゃあ、僕が出た「情熱大陸」のビデオ、代わりに差し上げますから。でも、ああいう密着取材って経験したことあります?

清水:ないですね。嫌いですし。

三谷:僕、2回だけあるんですけどもう、耐えられないですね、疲れるっていうか……。

清水:あ、やっぱり?

三谷:もうズーッとですから。特に、NHKで昔、密着されたのがしんどかったですね。

清水:ああ、見ましたよ。しんどうそうだったね〜。なんだっけ、私が好きな芝居……え〜っと「バッド・ニュース☆グッド・タイミング」の時だよね?

三谷:そうですね。で、あまりにもズーッと撮られてるから、いくら温和な僕でも一瞬、「もう勘弁していただけませんか!?」みたいな感じになる時があるんですよ。

清水:(笑)慇懃。

三谷:そしたら、そこをフィーチャーされちゃうんですよね。

清水:あ、そうだったかも。

三谷:車の中で一瞬、気持ちが激昂した瞬間を、ちゃ〜んと編集で残してましたからね。僕が怒ると向こうは「やった!」と思うらしくて。

清水:芝居を前に精神的にピリピリする脚本家、みたいな感じに見える。

三谷:でもピリピリしてるのは回っているカメラに対してなんですけどね。】

〜〜〜〜〜〜〜

 『情熱大陸』、僕もけっこうよく観ています。いろんな「すごい人」の「実像」が観られる数少ない番組ですし、すでによく知られた人だけではなくて、まだまだ無名の「面白い人」が取り上げられることも多いですよね。
 この番組で採り上げられると、なんとなく「旬の人」って感じもしますし。

 この矢沢永吉さんの回、僕もぜひ一度観てみたいものだと思いました。あの「YAZAWA」の行きつけが「ちゃんぽん屋さん」というのもさることながら、そこで「いつもの」と注文して店の人に困惑されてしまったときの矢沢さんの姿は、やはり「一見の価値あり」でしょうから。

 僕たちは、あの番組を「ずっと密着取材することによって、その人の『本性』を撮っている」と考えがちです。
 いつも温和な人が厳しい表情を見せるところとか、周囲の人に厳しい言葉を浴びせる場面などは、『情熱大陸』の見せ場のひとつ。それを観た僕たちは「あの人の隠された一面を見た!」と感じます。

 しかしながら、実際に取材された三谷幸喜さんの話によると、「自分の本性が出るというより、密着取材によるストレスで激昂してしまった瞬間がフィーチャーされてしまう」みたいなんですよね。
 いや、これはもちろん三谷さんの体験談なので、他の人もそうであるとは言い切れないとは思うのですが、確かに、「あまりにズーッと撮られている」という状況は、取材される側にとっては、かなりの負担になるでしょうし、イライラもしてくるはずです。
 逆に、カメラが回っているからこそ、いつもとは違う「カッコいい自分」や「厳しい表情」をつくってしまう人もいるでしょうし。
 どんなに「密着取材」をしていても、編集されて放送されるシーンというのは、「視聴者にインパクトがあるところ」になるはずですから、それは、あくまでも「密着取材というストレスがかかった状態での表情の一部」でしかないわけで。

 『情熱大陸』は非常に興味深い番組ではあるのですが、本当の「取材風景」は、いつも友近さんがネタにしているような「自意識過剰な出演者と演出しまくりの取材者」なのかもしれませんね。