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2008年01月06日(日) ■ |
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ジャイアントパンダの「本当のお値段」 |
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『動物の値段』(白輪剛史著・ロコモーションパブリッシング)より。
(さまざまな動物の「実勢価格」と「実際に飼う上での問題点」について動物商である著者がまとめた本の一部です。「ジャイアントパンダのお値段」について)
【人里離れた未踏の地にひっそりと生きてきたジャイアントパンダたちが人間に発見されたのは意外にもわりと最近のこと。発見されてからは美しい毛皮と食用肉を目的に乱獲され、たちまち絶滅の危機に瀕してしまった。 「パンダを食う!?」と、そこに引っかかった方も多いでしょうが、とにかく中国人は”生きているものならなんでも食う”と言われるくらい、なんでも食う。
(中略)
かつて中国において、パンダの密猟は死刑に処せられる重罪であった。最近は終身刑になったようだが、今でも時々密猟者が逮捕されている。警察の手に落ちれば終身刑とは……、まさに「命がけの仕事」だ。 パンダは目の周りが黒い”たれ目模様”になっているので一見可愛らしく見えるが、それは単に模様が可愛いだけでツキノワグマはヒグマと変わらない。なにせクマですから。 試しにパンダの写真を真っ黒に塗りつぶしてみると、単なるクマだということがよくわかる。ツキノワグマもパンダのような模様に産まれていれば簡単に撃ち殺されたりはしなかったはずなのに。
1972年、「日中国交正常化」により日本と中華人民共和国の国交が回復した時、中国政府より2頭のパンダが贈られた。同年10月28日に来日した上野動物園の「蘭蘭・ランラン」と「康康・カンカン」だ。これが日本へ初めてやってきたジャイアントパンダで、その後またたく間に日本では空前のパンダブームが起こったのだった。 たしか私が7歳か8歳の頃、この「ランラン」と「カンカン」の実物を上野動物園で見ている。パンダそのものというよりは、とにかくすごい人混みの中、一瞬でパンダの前を通り過ぎたことをよく覚えている。後ろ姿しか見えずに残念に思ったものだった。その後、ランランは1979年に妊娠中毒症で。カンカンは1980年に腎不全で死んでしまった。
(中略)
今まで日本の動物園では、上野動物園と神戸市立王子動物園、そして和歌山のアドベンチャーワールドの3ヵ所にだけパンダがきている。 もちろん繁殖も試みられているが、タイミングが難しいとのことで、なかなかうまくいかないようだ。それでも、上野動物園では5頭来日し2頭が生まれ、アドベンチャーワールドでは3頭来日し7頭が生まれている。 繁殖が追いつかないということであれば、原産国の中国から連れてくるしかないわけだが、このジャイアントパンダ、中国の国家1級保護動物に指定され、中国の威信にかけて保護に力を入れている動物なので、中国政府の許可がないと移動も購入も完全に不可能だ。そんな状況の中、中国は外交の切り札であるジャイアントパンダを親善大使として「パンダ外交」を繰り返してきたのであった。 中国はパンダを売ったりはしない。あくまで親善大使でありボランティアなのだ。だから「輸送費や必要経費は輸入国持ち」はもちろんのこと、一緒についてくる「専属飼育員の生活費」までも、すべて面倒を見なければならない。 それでは「パンダ外交」でない方法でパンダを連れてくることは完全に不可能なのだろうか? 中国の野生動物保護管理公室の知人に聞いてみたところ、彼曰く、まったく方法がないわけではないらしい。受け入れ先が「公的機関や繁殖を目的とした施設であれば可能だそうだ。
パンダはワシントン条約で売買を禁止されているので、「レンタル」という方法をとる。 中国政府から公式に借りるとした場合、中国野生動物保護協会を通じてジャイアントパンダの保護に毎年一定額を寄付することを条件にされるらしい。金額ははっきり聞かせてもらえなかったが、どうやら3年契約で1年あたろ1億円程度というのが相場のようだった。 1頭だけでは繁殖しないのでペアで連れてきたい……ということになれば当然のことながら倍のレンタル料が発生する。これにさらに前述のとおり「専属の飼育員」が付いてくるので人件費もプラスされる。加えて竹類などの葉を1日40kgぐらい食べるので、エサ代も莫大。もちろん、個人レベルにはレンタルしてくれないので、しっかりとしたジャイアントパンダの繁殖研究施設を設立しなければならず……。 よくよく考えたら中国へ毎月通ったほうが安いですね。】
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僕がはじめて実物のパンダを目にしたのは小学校低学年の頃で、その頃は「パンダブーム」の最盛期は過ぎていたと思うのですが、それでも上野動物園のパンダコーナーの周りはすごい人だかりで、本当に「なんとかパンダの顔の輪郭を見ることができた」くらいだったのを覚えています。 ランラン、カンカンが亡くなったときも、かなり大きなニュースになったんですよね…… しかしながら、数年前に上野動物園に行ったときには、冬休み中だったにもかかわらず「最前列でパンダ見放題」だったので(それでも、他の動物の檻の周りよりは、はるかに賑わっていたんですけどね)、「パンダ人気」も昔ほどではないのは間違いないようです。
現在上野動物園にいるのはオスの「リンリン」1頭だけで、せめて雌雄1頭ずつくらいは……と思うのですが、この文章を読んで、「動物園にとっては、パンダを飼育し続けるというのはけっこうな負担なのだ」ということをあらためて思い知らされました。「客寄せパンダ」とは言うけれど、地方の動物園で簡単に飼えるような動物じゃないのは間違いないようです。 もちろん、中国側もそう簡単には「レンタル」してくれないでしょう。
それにしても「売り物じゃない」はずのジャイアントパンダは、なんとお金がかかる動物であることか! 「借りる」ために1頭あたり年間1億円の「寄付」+専属飼育員の給料+エサ代となれば、「親善大使」というよりは、「お金がかかる居候」という感じですよね。最近の上野動物園がパンダの繁殖に一時期ほど熱心ではないように見えるのも、「これ以上パンダが増えても困る」というのが本音だからなのかもしれません。産まれたパンダの子供は、たとえ一方の親パンダが中国籍でなくても、「レンタル料」の課金対象となるらしいですし。
でもほんと、これじゃあ本当に「わざわざ日本に連れてこなくても、こちらから中国に行ったほうが安上がり」ですよね。いやまあ、中国という国そのものが、今の日本人にとっては「敷居が高い」ところはあるとしても。
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