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2008年01月04日(金)
「立ち止まったとき、皆さんは何をしますか?」〜「『スーパーマリオギャラクシー』を作った男」の言葉

『週刊ファミ通』(エンターブレイン)2007/12/28号の記事「必読!3D『マリオ』の歴史が語られた、任天堂・小泉氏の基調講演!」より。

(2007年11月27、28両日にカナダで行われた「モントリオール国際ゲームサミット07」(アライアンスヌメック主催)でのWii用ソフト『スーパーマリオギャラクシー』の開発者である任天堂の小泉歓晃さんの基調講演の内容について)

【ゲームサミットの開幕を告げる最初の基調講演を行ったのは、任天堂情報開発本部東京制作部の小泉歓晃氏だ。小泉氏は『スーパーマリオ64』以来、『ゼルダの伝説 時のオカリナ』、『スーパーマリオサンシャイン』、そして『スーパーマリオギャラクシー』といった、3D表現を用いた名作の制作に、かの宮本茂氏とともに関わってきたクリエイター。講演のタイトルは"Super Mario Galaxy The Journey from Garden to Galaxy―箱庭から銀河への旅―"というじつに心ときめくものだ。
 小泉氏はニンテンドー64ソフト『スーパーマリオ64』の制作に携わって以来、一貫して”3D畑”を歩んできている。そんな小泉氏の師匠にあたるのが宮本茂氏。小泉氏はつねづね宮本氏から「3Dのいちばんの魅力は”カメラ”だ」と教えられ、”カメラを考えることが3Dにおけるゲームデザインである”という信念のもと、さまざまなタイプのカメラを考案していった。しかしこれを利用した”3Dの箱庭の中で楽しむ”という行為を実現させるためには、道に迷う、3D酔いをしてしまうといった困難も。小泉氏たちはさまざまな工夫を凝らし、これらの問題に対処する。そかしそれだけで小泉氏の旅が終わったわけではなかった。ユーザーが自由に操作できるカメラを導入したとき、操作が複雑になるという弊害が生まれたのだ。
「これにより”3D=難しい”という固定観念を作ってしまったかもしれません。僕はこの解決策が見つかるまで、3Dにおける『マリオ』を封印しようと決めたのです」(小泉)

(中略)

 そして2005年。小泉氏は封印していた3D版の『マリオ』の企画に挑む。対応ハードはWiiで、企画名は”スーパーマリオレボリューション(仮)”。のちの『スーパーマリオギャラクシー』だ。小泉氏は球状地形の利点を”壁がないこと”と捉え、さらにカメラ操作も排除することでプレイの複雑化からの脱却を図る。加えて『(ドンキーコング)ジャングルビート』のときに得た手応えを活かしたいと思い、Wiiリモコンがもうひとつあればふたり協力プレイができる”アシストプレイ”を導入した。ここで小泉氏はステージでアシストプレイを実演。来場者から喝采を浴びた。

 そして、講演はフィナーレへ。ゲーム制作者に向けた小泉氏のメッセージはじつに印象的だった。
「『スーパーマリオギャラクシー』はひとつのグッドアイディアから生まれたのではなくて、13年に及ぶチャレンジから生み出た多くのアイデアから成り立っていると言えます。私にとってこのゲームは、長い旅の中で苦楽をともにした、宮本をはじめとするたくさんの頼もしいスタッフたちとのエピソードを綴った1本の映画のようなものです。では、”旅は終わりなのか”と聞かれると、目的地はまだまだ先だと思っています。『ギャラクシー』には、まだ可能性で止まっているもの、新たに発見できたアイデアもたくさんあります。これをもとに、つぎの目的地を定めて旅は続くわけです。東京に戻ったらスタッフと、つぎの旅の計画をしようと考えています。さあ、ギャラクシーのつぎは、どこに行くんでしょうかね……?
 ここにいらっしゃる皆さんも、ゲーム開発という長い長い旅に魅せられた人たちだと思います。いいことばかりじゃないでしょう。アイデアに頭を悩ませたり、人間関係に悩むこともあるはずです。
 立ち止まったとき、皆さんは何をしますか? 私は選択肢をできるだけ増やす努力をしています。ひとりでできなかったら誰かの手を借りても、ひとつでも増やす努力をします。
 そして選んだ道は、楽しみながら進むことにしています。ひょっとしたら坂道かもしれないし、回り道かもしれない。それでも誇りを持って、楽しみながら進むんです。
 現在、旅の途中の方、これから旅に出られる方もいるかと思います。ぜひ、旅を楽しんでください。楽しんで作られたゲームは必ず楽しいものとなって、お客さんに届くと信じています。それでは皆さん、よい旅を!」】


参考リンク(1)
国際ゲームサミット:任天堂の開発者が基調講演 カナダで開催(毎日jp)

参考リンク(2)
3D『マリオ』の歴史がここに! 小泉歓晃氏基調講演(その1) / ファミ通.com
3D『マリオ』の歴史がここに! 小泉歓晃氏基調講演(その2) / ファミ通.com

〜〜〜〜〜〜〜

 「2007年ベストゲーム」に挙げる人も多い、Wii用ソフト『スーパーマリオギャラクシー』なのですが、3Dゲームということもあり、その開発は、まさに「平坦な道のりではなかった」ようです。
 この小泉さんの講演内容の詳細を読んでみると(参考リンク(2)をぜひ読んでみてください)、『スーパーマリオギャラクシー』という1本のゲームの中には、これまでの13年間、小泉さんが作り続けてきた「3Dゲーム」のさまざまな要素が(うまくいかなかったところの反省も含めて)反映されているのだということがよくわかります。
 『スーパーマリオギャラクシー』は1本のゲームソフトだけれども、そのディスクの中には、いままでの歴史が詰まっているのです。小泉さんや宮本茂さんは、「ゲーム作りの天才」なのかもしれませんが、彼らだって、全くの「無」の状態から、『スーパーマリオギャラクシー』を作ったわけではないんですよね。

 「ゲームを作る仕事」というのは、「楽しみながらお金がもらえるなんて羨ましいなあ」なんて考えがちなのですけど、実際は、そんなに甘いものではないようです。ゲーム制作にかかるコストが大きなものとなり、関わる人数が増えていくにつれ、才能のあるスタッフひとりの力だけではゲームを作ることは難しくなっています。
 小泉さんも仰っていますが、制作責任者ともなれば、「ゲームのアイデアや技術的な問題」の他に、「自分と周囲の人々、あるいは他のスタッフ同士の人間関係」に悩まされる機会も多いはずです。

 僕がこの講演で最も考えさせられたのは、
【立ち止まったとき、皆さんは何をしますか? 私は選択肢をできるだけ増やす努力をしています。ひとりでできなかったら誰かの手を借りても、ひとつでも増やす努力をします。】
 というところでした。

 僕は目の前に壁があって「立ち止まったとき」に今までどうしていただろうか?
 「目の前にある壁をどうするか?」ということばかりを思い悩んで、その壁にひたすらぶつかって怪我をしてみたり、その部屋から出られないことを嘆き悲しんでいるばかりだったりしたんですよね。そうするのが「正しい」という固定観念から逃れることができずに。

 小泉さんは、「立ち止まったときこそ、目の前の壁のことにばかりこだわらず、新しい道をつくるべきだ」と仰っておられます。仮にその壁を破ることができないとしても、その壁の先の目的地へ行く道は、必ず他にあるはずだ、と。
 ちょっと抽象的な言葉ではあるのですが、目の前の「目標」に対して、視野が狭くなりがちな僕にとっては、とても印象的なメッセージだったのです。

 僕も「選択肢をできるだけ増やす」ことを意識しながら、2008年は「誇りを持って、楽しみながら」進んでいこうと思っています。