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2007年12月25日(火) ■ |
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『突撃!隣の晩ごはん』の「突撃のマナー」 |
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『阿川佐和子の会えばなるほど〜この人に会いたい6』(文春文庫)より。
(阿川佐和子さんとヨネスケさんの対談の一部です。「突撃!隣の晩ごはん」のレポーターとしての体験について。2006年6月1日号の『週刊文春』掲載)
【阿川佐和子:それにしてもいろんなもの食べられていいですね。
ヨネスケ:青森の酪農農家へ行ったときは、初産のメス牛が産後1週間だけ出すグズグズのお乳があるんです。ザル豆腐か湯葉みたいな感じの。それを生姜醤油で食べるのがムチャクチャうまいんです。
阿川:おいしそう! 超珍品ですね。一番おいしかったのは?
ヨネスケ:やっぱり漁師町。タイの刺し身やアワビや伊勢エビとかがあって。カレーライスもアワビとかサザエとかウニが入ってるんですよ。
阿川:ゴージャス!
ヨネスケ:でも、自給自足だから「大したもんじゃないです」って恥ずかしがるの。漁師さんにとっては、肉じゃないとご馳走じゃないんです。
阿川:そうか、収穫の残り物って意識なのね、伊勢エビじゃ。
ヨネスケ:それから、最近は米離れしてるって言われてるけど、これも嘘で、晩ごはんはほとんどお米ですよ。あとは蕎麦かうどん。僕が3000軒近く行った中で晩ごはんにパン食ってたの、3軒だけです。
(中略)
阿川:ヨネスケさんは好き嫌いはないんですか。
ヨネスケ:好きなのは和食系。もうお刺し身だったら、365日、毎日三度三度でもいいです。僕は半農半漁のところで育ちましたから、キザなようですが旬のものしか食べないです。カツオも戻りガツオは食べない。その辺はこだわってる。味噌汁に入れる具も一つだけ。大根と油揚げを入れたら、二つの味が出ちゃうから入れない。
阿川:粋だねえ。嫌いなのは?
ヨネスケ:スイカとセロリ。だけど、『晩ごはん』ではまず出てこなかったね。あと四人家族で串カツが四本しかなかったら、僕は絶対手をつけないんです。僕がかじっちゃったら、それを食べるの嫌でしょう。それから、カレーライスもルウの味はみますけど、ご飯にかけて食べることはないんですよ。残すと無駄にしちゃうから。
阿川:『突撃』のマナーがいろいろあるんですね。
ヨネスケ:『晩ご飯』が始まったとき、日本テレビのディレクターに「お前、テレビだからっていい気になるなよ。全部画面に出るから、平身低頭で行けよ」と言われたのがずーっと耳に残ってて。カメラマンのアシスタントは必ず靴を揃えろとか、終わったときは全員で「どうもありがとうございました」と挨拶するとか、いろいろルールがあるんです。
阿川:いや〜、偉い! 全国のテレビマンに教えなきゃいけない。
ヨネスケ:身体障害者の方がいても、入れてくれる家があるんですよ。青梅に行ったときは下半身マヒの子がいて、お母さんが「どうぞこの子を映してください」って言うんです。何でか訊いたら、「この子は学校に行けないからテレビが友達なんです。そのテレビに自分が映るのは大変なことなんです」って。そういうときは絶対カットしない。これもルール。
阿川:へえ。
ヨネスケ:鹿児島で水頭症の双子がいる家に行ったときもマイクを噛んじゃったりしたんだけど、そのまんま出した。入れてくれるってことはテレビに映りたいってことだから出してあげてというのが、僕のポリシー。
阿川:なるほどね。
ヨネスケ:あと断られたところもいっぱいあるんですが、断るときってすごい顔してるじゃないですか。それをテレビに出して「あの人、普段はあんなにニコニコしてるのに、実際はこういう人なのね」って言われると悪いからカットしてる。陽気で「あっら〜、今日はダメなのよぉ」っていう人は出しますけど。】
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「突撃!隣の晩ごはん」は、1985年から2001年まで日本テレビ系列のワイドショー『ルックルックこんにちは』内のコーナーとして放映され、2003年に『ザ!情報ツウ』という番組で復活。そして2006年からは、『NNN NEWS リアルタイム』内で「突撃リアル!隣の晩ご飯」として再復活しているそうです。僕が観たことがあるのは、最初の『ルックルックこんにちは』時代のものだけなのですが、「なんか下世話であつかましい企画だよなあ」という印象で、あんまり好感は抱いていなかったような記憶があります。
この「突撃!隣の晩ご飯」、Wikipediaでは、
【「ルックルック」で放送されていたヨネスケの「突撃!隣の晩ごはん」は、事前の連絡もなく見ず知らずの家に突然訪問する「元祖アポ無しロケ」であった。そのため多くのハプニングがあり、暴力団組長の自宅とは知らずに訪問してしまったこともあったと言う(しかしその組長は話の分かる人で、コーナーの趣旨を理解してくれていたので、トラブルには至らなかった)】
というようなエピソードも紹介されており、少なくとも以前のものは「仕込み」ではなかったみたいです。そう簡単に家に上げてくれて、夕食のメニューを世間に公開してくれる人なんていないだろ……と僕などは考えてしまうのですが、この番組が全盛期であった20年前から10年前くらいの日本では、テレビに映れるのなら、そういう「プライバシー」を公開することに抵抗がないという人が、けっこう多かったのかもしれません。
ここでヨネスケさんが語っておられる「突撃!隣の晩ご飯」の裏側というのは、僕にとってとても興味深いものでした。あんな「あつかましい」企画であるにもかかわらず(あるいは、それゆえに)、ヨネスケさんをはじめとするスタッフの気配りは、並大抵のものではなかったようです。
「靴を揃える」とか「終わったら全員できちんと挨拶する」なんていうのは、ある意味「社会人として当然のこと」なのではないかという気もするのですが、テレビにたくさん出演されている阿川佐和子さんのリアクションからすると、そういうことに対して無頓着な「テレビに出してやっているんだから」という態度のスタッフも、けっして少なくはないのでしょう。
それにしても、「家族の人数を頭に入れておいて、串カツに手をつけるかどうか決める」とか、「カレーのルウはご飯にはかけない」なんていう「ルール」は、視聴者にとってはむしろ「不自然なこと」でしかないのですから、この番組のスタッフが「出演してくれる人たち」にどれだけ気を遣っていたのか、ということが伝わってくる話です。 それこそ、テレビバラエティとしては、「食い散らかす」くらいのほうが、面白く感じる人も多そうなのですが、そういう「ルール」があればこそ、これだけ長い間続けることができたのでしょうね。
ところで、「入れてくれた家に障害を持つ子供がいた場合の話」に関しては、僕も考えさせられました。 正直、僕はそういう場面を目にすると「感動をあおろうとしているのでは?」なんて疑問に感じていましたし、「その場面をカットしない」ことに全国の視聴者から「テレビで見世物にするのか!」なんて苦情が来ていたりもしたのではないでしょうか? いや、僕はこのヨネスケさんの「ルール」に対しては、諸手を上げて「賛成!」とは言い難いものがあるのですが(それは僕が、「テレビに映る」ということに憧れなくなった世代だからなのかもしれませんけど)、こういう背景や「ポリシー」があってのことだったと聞くと、本人(あるいは家族)が望んでいるものを「かわいそうだから映すな!」とか言うのが「正論」なのかどうか、すごく考えさせられます。
しかし、この番組がこんなに人気があって長く続いているということは、やっぱりみんな、なるべく表には出さないようにしていても、「他人のことが気になる」のですよね……
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