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2007年11月19日(月) ■ |
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「苦労」してるのを「努力」してると思ってる人 |
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『絶望に効くクスリ Vol.11』(山田玲司著・小学館)より。
(山田玲司さんが、各界で活躍している人々との対談を漫画化した作品の一部です。「漫画の神様」手塚治虫先生の長男でもある、映像作家・手塚眞さんの回から)
【山田玲司:若い人によくどんなアドバイスをされるんですか?
手塚眞:自分を見失わないように…って、よく言ってるんですけど……苦労と…努力が…イコールになっちゃうといけないですね。
山田:苦労してるのを努力してると思ってる人って多いですもんね。
手塚:苦労はしないほうがいいですね。一番の違いは、「やらされてる」か「やってる」かっていう違いだと思うんです。 実は一回だけ父に「ものづくり」について言われたことがあるんですけど…… 街頭モニターとかに流す環境ビデオを頼まれたんで、割り切って作ったものを父が見たらしいんですよ。どっちみちたいしたものじゃないって思ってたけど、父はその時…「もっと面白くしたほうがいいねぇ…」――って言ったんですよ。
山田:……わかります。それ、すっごく… クリエーター、治虫哲学の本質ですね。
手塚:どんな仕事だっていいけど、どれくらい努力してんのかって言われたんですね。これは今でも頭をよぎりますね。】
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「苦労してるのを努力してると思ってる人」って、けっこう多いのではないでしょうか。いや、他人事じゃなくて、僕もこれを読んで、あらためて思い知らされたような気がしたんですけど。 「苦労は買ってでもしろ」と、僕は子どものころ、「大人」たちによく言われてましたが、考えてみれば、「イヤだなあ……」と思いながら「やっつけ仕事」を繰り返したとして、多少は手際がよくなることがあっても、あまり「進歩」はしないんですよね。 こんな面白くない仕事はしたくない、こんな仕事では、自分の「やる気」は出ないし、実力は発揮できない、と僕たちは考えがちなのですが、そんな眞さんの気持ちをお父さんはちゃんと見抜いていたみたいです。 眞さんにとっては、「街頭モニターで流す環境ビデオ」というのは、けっして「やりたい仕事」ではなかったはずで、何かの義理か収入のために引き受けた仕事だったのだと思います。普通に考えれば、「そんな仕事にやる気なんか出ない」はずです。 手塚治虫さんは、そんな長男の「作品」に対して、「もっと一生懸命やれ!」とか「ちゃんとしたものを作れ!」ではなくて、「面白くしたほうがいい」と言ったのです。 実際にそう言われてみると「面白くする」ためのは、「がんばる」とか「時間をかけてやる」とかいうのよりもはるかに「アイディアと積極性が必要」なのです。 そして、どんな「つまらないように見える仕事」であっても、「自分から工夫してやってみる姿勢」を持っていれば、意外とそこから得られるものは大きいのです。言われた仕事をただやるだけの人と、そのなかで、自分なりに目標を立てて効率化を目指したり、新しい表現を実験してみたりする人とでは、長い目でみれば、大きな差がつくはず。 そもそも、「つまらない仕事だから」ということで普段は手抜きばかりしている人に、「面白い仕事」をやる機会がめぐってきたとしても、いきなり「本気」が出せるものなのかどうか? スポーツ選手だって、練習で手抜きばかりしているのに、本番で「実力」を出せるはずがないのと同じです。
「苦労」と「努力」って、外見上、やっていることはそんなに変わらないようでも、その人にとっての意味は、大きく違ってくるのです。「苦労自慢」の人は多いけれど、彼らは「自分が苦労していること」に甘えてしまって、「努力するチャンス」を逃しているのかもしれません。 もちろん「やりたいことだけやれる人」なんて、そんなにいないでしょう。でも、やりたくないことの中にだって、『面白さ』の小さな欠片を見つけることは、けっして不可能ではないはずです。 確かに、できることなら「苦労なんてしないほうがいい」に決まってますし、「苦労自慢」というのは、本当は恥ずべきことなのです。 「苦労すらしようとしない人」はどうなのか?と問われると、ちょっと考え込んでしまう話ではあるのですけど。
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