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2007年10月07日(日)
「メタルテープ」を覚えていますか?

『家電批評monoqlo VOL.2』(晋遊舎)のコラム「ALWAYS 三丁目の規格〜さらば愛しの旧規格」より。

【今年8月をもって、TDKがメディア製品(テープ、ディスク、フラッシュメモリ)に関するブランドを米国イメーション社へ譲渡すると発表した。絶頂期のTDKを知る者としては一抹の寂しさを感じながらも、なにやら因縁めいたものを感じてしまう。
 因縁というのは今回のお題、メタルテープに関して。イメーションの前身である3M社がメタルテープの開発元であり、TDKはそれを(少なくとも日本と米国では)最後まで生産していたメーカーだからだ。そのTDK最後の(つまりは国内最後の)製品となったMAIEXが生産終了となったのが2002年3月。その在庫が100円ショップに流れ、ある種の「祭り」になったのは記憶に新しい。
 かつて(といっても20年前程前だが)音楽を聴くことが最上の趣味のひとつであった当時のマニア予備軍の少年たちにとっては、メタルテープといえば価格的にも性能的にも雲の上の存在だった。当時は量販店だのディスカウントショップだのはそうそう無い時代。メタルテープ1本1000円、なんて時代が冗談じゃなくあったのだ。当時学生の小遣い程度でほいほい買える代物ではない。
 モノがモノだけに、きちんとしたステレオ(死語?)を持っている友人の父兄などに頼んで録音してもらったものだ。私の持っていた最初のラジカセも一応メタル対応だったのだが、力を発揮する機会があったのは社会人になってからだった。
 その後カセットデッキは巨大化の一途をたどるも、低価格化してきたMDやCD−Rに対してメンテナンスとアクセシビリティの悪さが災いし、次第にラインナップの縮小を余儀なくされていった。それはまるで進化の絶頂にあった恐竜たちが滅びに向かう様にも似ていた。メタルテープはある意味、その巨大化の絶頂におけるシンボルだったのかも知れない。】

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 この『活字中毒R。』を読んでいただいている世代には、「カセットテープって何?」って人はいないとは思うのですが、メタルテープと言われても、「そんなのあったの?」と感じる人はけっこういるのではないでしょうか?

 このコラムでは、メタルテープはこんなふうに説明されています。

【米国3M社(現イメーション)が高密度データ記録用として開発されていたテープを音楽用に転用。従来の酸化鉄ベースと違い、純粋な鉄分子(Fe)を用いるため、従来製品と比較して2倍以上の出力性能を誇り、高音域での出減衰も少なく、高級オーディオテープとして君臨した。反面、使用に際してのハードルが高かったのも事実で、後々までもマニアの使うテープという認識が強かった。】

 昔(といっても20年〜25年くらい前)は、記録メディアというのはものすごく高価なものでした。120分のビデオテープやフロッピーディスク1枚が1000円くらいしていた時代というのが実際にあって、それもデパートや専門店でしか手に入らなかったんですよね。
 カセットテープは、ビデオテープやフロッピーよりはかなり普及していたので、価格も入手しやすさも少しはマシだったのですが、それでも、今みたいにコンビニでいつでも簡単に手に入るようなものではなかったのです。そもそも、コンビニそのものが無かったですから。

 「メタルテープ」は、同じ収録時間でも一般的に普及していた「ノーマルテープ」よりも値段が100円〜200円くらい高かったのですが、その分「音質が良い」というふれこみで、僕も大事な番組やレコードをテープに録音するときには、奮発してメタルテープを使うこともありました。
 今から考えてみれば、当時は「なんとなくこっちのほうがいい音がするような気がする」くらいで、僕には「本当の音質の差」なんてわかっていなかったし、そもそも、あの頃使っていた普通のラジカセでは、そんなに差が出るはずもなかったんですけどね。

 正直なところ、「メタルテープがもう無くなっていた」という事実も僕は全然知りませんでした。あれほどこだわっていたつもりだったのに、薄情なものです。メタルテープは1978年の生まれだそうですから、僕より遅く生まれて、早逝してしまったのか……と感慨深いものもありますね。こういうのは、電化製品の世界の宿命ではありますが。

 現実的には、CDやDVD、iPodなどのデジタルオーディオの便利さに慣れてしまうと、もう、テープには戻れそうもないんですけど、時々、あのテープのめんどくささが妙に懐かしく感じられることもあるのです。たぶんそれは、メディアそのものへの懐かしさというよりは、「ドライブに行く前日に、とっておきの曲を集めたテープ」を編集していた自分への感傷なのでしょうね。
 そういえば、メタルテープは普通のテープより少し油臭くて、それがまた「ちょっと高級な感じ」だったんだよなあ……